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2004年度日本図書館情報学会春季研究集会 発表要綱
(1)
◆氏  名 石川 亮(いしかわ りょう)
◆所  属 実践女子短期大学図書館学課程
◆発表題目  JISCT、NDL、文部省等の学術情報体制形成への日本学術会議の貢献(昭和30年代まで)
◆発表要旨
(1)研究目的、
 びぶろすVol.29、No.4(昭和53年)にて石川が発表した日本学術会議の学術情報体制関係を総合的に取りあつかった文書の中に、「本稿ではそれ自体を取りまとめて論述する事が妥当と考えられる「学術情報所」構想の分解挫折の歴史は取り扱わないこととする」記述がある。 この構想は日本学術会議から昭和25年7月と昭和26年5月に総理大臣宛に諮問に応えて答申とし2回出された「学術情報所(インフォメーションセンター)設置について」であり、この答申に基づいて「日本科学情報センター」そして科学技術庁そのもの、また文部省の情報主任官室(情報図書館課の前身)などの創設、及び国立国会図書館に大きな影響を与えた。
 昭和30年代までの日本の学術情報体制の基盤が、これにより不十分な側面を持ちつつも形成されたといえる。すなわち学術情報体制の基盤が日本学術会議の初期の活動から生まれたことを明らかにする研究である。
 なお戦後60年間にわたる日本の学術情報体制を説明した文献はまだ作成されていないことから、その第一歩を始めるのが大きな研究目的といえる。
(2)研究方法、
 学術情報所構想の内容については日本学術会議二十五年史、細谷新治編「わが国における学術情報政策に関する資料集」1971年及び日本学術会議編「勧告・声明集」にもとづいて説明し、その後の各機関での不十分な初期状況の歴史については科学技術情報センター十年史、科学技術庁十年史、国立国会図書館五十年史・資料編及び学術月報第五巻その他の基礎資料などに基づき明らかにする。
 日本学術会議1・2期における図書館と学術情報の基礎に関わる次の「図書館法」その他の事柄は、掲載を希望している現代の図書館6月号にて「学術情報所」構想の展開状況と併せて説明を行う心づもりである。
 「図書館法」「ユニオンカタログ・抄録」「P・Bレポート」「ユネスコクーポン」その他
(3)得られた成果
 わが国の学術情報体制を戦後60年間にわたり跡づけるための初期の歴史的事実を掘り起こし、これからの発展の基本的状況を全体像として提供するその第一歩を始めることは出来たのではないかと考える。 なお以上の事実は、NDL、JICSTおよび文部省その他で情報関係機関の中心にいた関係者のうち、昭和一桁世代までの方々では所属機関に関わる事実を既成事項として知っている者もいたが、三方面の全体像はあまり掌握されることがなかったと思われる。



(2)
◆氏 名 松本直樹(まつもと なおき)
◆所 属 東京大学大学院教育学研究科
◆発表題目 公立図書館の予算編成過程---図書館と財政課を中心に
◆発表要旨
(1)研究目的
 90年代中頃以降の長期的な経済不況の中,自治体財政は悪化している。自治体に財源の大部分を依存する公立図書館もその影響を受けている。このため,正規職員の嘱託員化,事業のアウトソーシング,資料費削減などが行われている。
 図書館の予算をめぐっては,現場職員などからの経験的な報告があるが,十分な研究蓄積は存在しない。国・都道府県による補助金の議論,法制度的観点からの規範的議論も確かに存在する。しかし,自治体内で現実に図書館の予算編成がどのように行われているかに関し,メカニズムを記述的に論じた文献はほとんどない。予算編成という政策形成過程について,分析的に検討し,その規定要因を明らかにすることがこの研究の目的である。本報告では特に図書館と財政課との相互作用に焦点を当てて報告を行う。
(2)研究方法
 図書館にとっての外部環境として,財政課をはじめとした行政内・行政外のアクターを設定する。自治体研究ではこうしたアクター間の影響力関係を事例研究の中で検討することがしばしば行われている。対象は,埼玉県の9自治体の公立図書館とする。1県内の図書館としたのは,県による図書館振興策という条件をコントロールするためである。その中で予算が減少局面にある自治体を特に選択した。これは,予算の減少局面にある場合,外部環境との関係性が明確になると予測したためである。
 事例研究では図書館長に対して予算編成過程を中心にインタビューを行った。図書館長を対象としたのは,図書館を代表して外部に意思表示を行う唯一の正統性のあるアクターと考えたためである。インタビュー結果は録音をして書き起こし,規定要因の洗い出しを行った。並行して,インタビュー結果を裏付けるために議会議事録,総合計画,予算決算書等に当たった。
(3)得られた結果
 まず,図書館が財政課に対して持つ影響力のリソースとして,情報の流通,人的コネクション,政治アクターの利用などが見られた。一方,財政課が採用する戦略としては,枠配分が挙げられる。この方式により,事業実施課対財政課という対立軸はなくなり,事業の改廃をめぐる紛争が図書館に内部化される傾向にあった。



(3)
◆氏 名 宮原 志津子(みやはら しづこ)
◆所 属 東京大学大学院教育学研究科
◆発表題目 シンガポールにおける公共図書館の社会的役割の変容
       ―「Library2000」計画を中心に―
◆発表要旨
(1)シンガポールの図書館はイギリス植民地下の1823年に学校図書館として設立されたことがその始まりだが,国立図書館が公共図書館の機能を兼ねているということ以外に,これまで図書館の利用やサービスについて特に顕著な特徴はなかった。しかし1994年に発表された「Library2000」計画以降,この10年間で図書館界では大規模な改革が行われ,短期間で目ざましい発展を遂げている。特に公共図書館は設置館数が大幅に増え,提供されるサービスも図書の閲覧や貸出だけではなく,オンライン情報やレファレンスサービスの提供を積極的に行うなど,数的・質的に従来の図書館から大きく変わり,利用も大幅に増えている。本研究の目的は,シンガポールにおいてなぜ図書館がこのように大きな変革を遂げているのかについて,「Library2000」計画を中心にその背景を明らかにすることである。
(2)シンガポールでの図書館発展の要因として,図書館の社会的役割に対する政府の認識が変わったことが考えられる。そこで本研究では,シンガポールの図書館史における公共図書館の社会的役割の変遷をたどりながら,「Library2000」計画策定の背景と推進をもたらした要因,公共図書館の今日的役割の三点について研究を行った。研究方法としては,まずシンガポールの図書館史を図書館の年次報告書やシンガポールの研究者等による先行研究をもとに整理した。次に図書館と関係がある各種国家政策の内容と背景について「シンガポール型開発体制」との関連性から検討を行い,開発政策が図書館政策を含めた国家政策に与えた影響について考察を行った。さらに今日の公共図書館の現状については文献だけでは不十分なので,現地調査を行った。
(3)公共図書館の社会的役割の変容について,本研究では図書館史に基づき三期に分けて検討し,それぞれの時代で社会的役割が異なっていることを明らかにした。
  「Library2000」計画の策定要因は,先進国としての国づくりと,独立以来の国是である政治的・経済的な「生き残り」をより強固なものとするための一機関として図書館が政府によって認識されたことが考えられる。その役割を担えるだけの機関となるために,集中的な権限を持った政府による大規模な投資がなされ,短期間の間に大きな変革を遂げたのである。今日の図書館は,コミュニティ,ビジネス,生涯学習,芸術文化の四領域でのニーズを満たすハブとしての役割を担っており,図書や雑誌を提供や講演会などの来館型サービスと,電子図書館などによる非来館型サービスの両方を積極的に提供している。



(4)
◆氏 名 松林 正己(まつばやし まさき)
◆所 属 中部大学附属三浦記念図書館
◆発表題目 Daniel Coit Gilmanの図書館論と研究図書館の誕生
◆発表内容
(1)研究目的
 アメリカにおける研究図書館(Research Library)成立の起源を、全米最初の研究大学Johns Hopkins Universityの初代学長Daniel Coit Gilmanにもとめ、ギルマンの図書館論を検討する。
 今回はギルマンのヨーロッパ留学から帰国後、彼が関わったイェール大学図書館とジョンズ・ホプキンス大学での経営と実践を検討し、その図書館史的意義を検討する。特に研究図書館(Research Library)への問題構成を、史料を通して当時を再現し、検討する。
(2)研究方法 
 ギルマンの伝記や評伝、Johns Hopkins Universityの大学史等を1次文献として、既存研究およびJohns Hopkins University. Milton S. Eisenhower Library. Special Collection Archivesで入手したドキュメントを利用して、19世紀アメリカの大学図書館事情の中で再現する。
(3)得られた(予想される)成果
 アメリカ高等教育の父と呼ばれているDaniel Coit Gilmanは、イェール大学で図書館長補佐(assistant Librarian)を経験している。イェールを辞して以降は、カリフォルニア大学学長として図書館に関わっているが、直接図書館経営には関わらず、大学長の立場から発言したに過ぎない。しかしジョンズ・ホプキンス大学では、研究(Research)を遂行するために、学長として図書館経営にリーダーシップを発揮した痕跡がある。それらの実践を具体的に紹介し、その意義を下記の観点で報告する。
1)Yale University Libraryでの実践
       財政的に破綻したに等しい図書館の再建を試みるが、学長の冷遇に耐えられず、辞任。
       シェフィールド科学校の教員と事務局長を兼任後、カリフォルニア大学学長に転任。
2)Johns Hopkins University Libraryの創設と図書館経営
       ジョンズ・ホプキンス大学初代学長として、図書館経営に当初から関わる。
3)LaboratoryとしてのSeminary Libraryと地域図書館ネットワーク
       ジョンズ・ホプキンス大学の図書館は開学時には7000冊弱の小規模な蔵書で開館する。
       これを補うために地元ボルティモア市内の図書館やワシントンDCのLC等連邦政府の図書館と
       連携を組む。その一方で、ゼミナール図書館をスイスから購入し、歴史・政治学ゼミナール図書
       館として研究活動に大きく貢献する。
4)Daniel Coit Gilmanの図書館論
       以上の実践を踏まえて当時の大学図書館の状況を再現し、ギルマンの図書館論を検討する。



(5)
◆氏 名 池田 貴儀(いけだ きよし)
◆所 属  元図書館情報大学大学院情報メディア研究科
◆発表題目 在日米軍基地図書館に関する研究
◆発表要旨
(1) 研究目的
第二次世界大戦後の日本には,日米安全保障条約に基づき,多くの米軍基地が存在する。在日米軍基地には公共図書館的な機能を持つ図書館が設置され,基地に配置されている軍人とその家族にサービスを提供している。本研究では,この在日米軍基地図書館に着目し,基地図書館の実態と図書館サービスの内容について検討していく。
これまでの先行研究は,在日米軍基地図書館の存在をしめすことにとどまり,充分に検討されてはこなかった。ついては本研究では,在日米軍基地図書館の一側面を描きだすことを目的としている。
(2)研究方法
 まず,米軍基地図書館に関する先行研究を分析し、米軍基地図書館の歴史,サービスや機能について検討する。次に,2002年から2003年に行った訪問調査とアンケート調査(対象数:全22館)の結果から,在日米軍基地図書館の実態とそのサービスの内容について明らかにしていく。
(3) 得られた(予想される)結果
 本研究の成果は,在日米軍基地図書館を検討するための基礎的な資料を提示することにある。具体的な特徴は,以下の3点である。(1)米軍の駐留地に本を送る戦時図書館サービスが,アメリカ図書館協会により組織的に始まったのが第一次世界大戦時であり,その戦時図書館サービスのひとつの発展形態が米軍基地においての図書館サービスである。(2)在日米軍基地図書館のサービス内容は,基地図書館の職員数によりも,館長自身の関心が大きく影響している。(3)米軍基地では,軍人が基地内に駐留しながら教育を受けることが可能であり,軍人の教育を支援する図書館サービスは,米軍基地図書館の機能のひとつといわれてきた。現在の在日米軍基地図書館でも,軍人の教育を支援するためのサービスが継続して行われている。



(6)
◆氏 名 松林 麻実子(まつばやし まみこ)
◆所 属 筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター
◆発表題目
Alfred Schutzの『関連性の体系』概念導入による情報行動の再解釈
 −医学研究者の研究活動における情報行動を事例として−
◆発表要旨
 人間の情報行動を明らかにする試みは,1970年代以降,認知的な側面に焦点を当てることで行われてきた。認知的アプローチや利用者志向アプローチなど,方法論に対する名称は複数存在するし,研究対象とする行為も多様ではあるが,その根本には,Brookesの<基本方程式>などに典型的に見られるような,情報を知識を変容させるものととらえる,認知的情報観が存在する。この情報観に基づくなら,情報行動は,人間の知識が何らかの形で変容したときに起こるものとして定義される。この認知的情報観は,従来の固定的な情報観・人間観と比較したとき,実に多くの現象を説明可能なものにした。
 しかし,この認知的情報観に基づいて情報行動を解釈しようとすると,ほとんど全ての行為が情報行動として定義されてしまうことになる。極論すれば,外部から何らかの刺激を受けて,人間が何かを考えれば,全て情報行動が起こったことになってしまうのである。ここまで極論するのは多少行き過ぎの感があるにしても,研究者が学術雑誌に掲載された論文を読むことも,会社員が通勤途中に電車の中吊広告を何となく眺めることも,こどもが絵本を読むことも,全てが同じように説明されると考えたとき,認知的情報観が生み出す理論は説明能力を失う傾向にある,ということが指摘できるだろう。これと同じようなことは,実は,社会学の分野でも指摘されている。ここで認知的情報観と呼称しているものは,社会学の分野で議論されている自己組織性概念やオートポイエーシス理論に通じるものであるが,これらの概念では社会における人間を扱うことができないとして,階層概念を導入した新たなオートポイエーシス論などが提唱されるようになってきている。
 本研究では,このような社会学の領域の動向と問題意識を共有しながら,Alfred Schutzが現象学的社会学の領域において提唱した「関連性の体系」概念を導入し,情報行動の新しい解釈枠組を提示することを試みる。「関連性の体系」概念は,人間の主観的解釈をその根本に想定している点において,認知的情報観と発想を同じくするものであるが,そこに他者との意味の共有という発想が追加されていることで,情報行動が行われる状況や行為者が属する社会という要素を取り込むことができる。本研究では,研究活動と情報行動との関係に関する医学研究者に対するインタビューデータを「関連性の体系」の枠組から分析することを通して,個人の主観的解釈が社会・集団という枠組の下で行われている様子を可視化すると共に,研究活動における情報行動を社会学的に定義する。



(7)
◆氏 名 桂 まに子(かつら まにこ)
◆所 属 東京大学大学院教育学研究科
◆発表題目  多摩地域公共図書館における地域資料活動の歴史―三多摩郷土資料研究会を中心に―
◆発表要旨
 公共図書館における地域資料サービスは,図書館の現場では議論や実践の蓄積があるものの,図書館情報学の分野でこれを研究対象として取り上げ,議論するということがあまりなされてこなかった。また,先行研究から県立図書館を中心とした全国的な地域資料活動の歴史を概観することは可能であるが,同時期の市町村立図書館における地域資料活動の歴史については明らかにされていない。


 本発表は,地域資料活動の実績がある多摩地域の市町村立図書館を対象として,同地域の地域資料活動を今日まで支えてきた三多摩郷土資料研究会(1975年発足,以下「三郷研」)の活動を中心に,同地域の公共図書館における地域資料活動の歴史を検証することを目的とする。主な研究方法は,文献調査と多摩地域の市町村立図書館を対象とするフィールドワークである。三郷研の定例会活動(1975年度−2003年度:全163回)を5年度ごとに区切り,年次報告書など未公開資料をもとにその歴史的な変遷を検討したところ,以下のことが分かった。
 1970年代後半(1975−1979)の三郷研活動は,各図書館の地域資料を実際に見聞し,業務を把握することに重点が置かれた。この時期、地方都市での地域図書館活動の経験があり,地域資料活動について独自の理論をもつ青木一良という元図書館員が,多摩地域の地域資料活動を支え,その後の地域資料サービスの発展に大きく貢献したことが判明した。
 1980年代の三郷研は,青木を始めとする先駆者から地域資料の収集・整理についての教えを仰ぎ,地域内の類縁機関を積極的に訪問した。また,地域資料業務マニュアルを作成し,地域資料を整理するための三郷研独自の分類表を考案した。その他,1988年度の全国図書館大会では「郷土資料分科会」の運営に携わり,全国規模の地域資料集会を13年ぶりに再開させ,「地域資料」という名称を使用する意義を全国に発信した。
 1980年代まで地域資料の「収集・整理」に重点を置いていた多摩地域の地域資料活動は,1990年代初頭から「保存」という観点を取り入れ,利用可能な状態にして資料を保存することの重要性を認識し始めるようになった。この時期,多摩地域の地域資料担当者によって『新編武蔵風土記稿索引』(1996)が作成され,三郷研編集による図書館界初の地域資料を扱った入門書『地域資料入門』(1999)が出版された。 
 2000年以降の三郷研活動は,新聞記事のデジタル化,図書館ホームページを活用した地域資料・情報サービス,ビジネス支援サービスのように,地域資料・情報を図書館の外に向けて発信する試みや,利用者ニーズを考慮に入れた地域資料サービスの提供が顕著である。以上の考察により,多摩地域の公共図書館における地域資料活動は,「収集・整理・保存」の方法について熟考・実践する段階を経て,地域資料・情報の「提供」を意識したサービスに現在は重点が移行しつつあるということが明らかとなった。



(8)
◆氏 名 芳鐘 冬樹(よしかね ふゆき)/辻 慶太(つじ けいた)
◆所 属 大学評価・学位授与機構 評価研究部/国立情報学研究所 人間・社会情報研究系
◆発表題目 研究協力ネットワークにおける役割から見た研究活動の多様性
       :共著ネットワークの分析を通して
◆発表要旨
本研究では,各々の研究者の「研究協力ネットワークにおける役割・重要度」(によって表される「分野における役割」)に焦点を当てて,研究活動に関する分野の特徴を明らかにする。具体的には,「ネットワーク中での役割」と,研究者「個々の生産性」との相関の分析を通して,研究活動の多様性に関する知見を得ることを目的とする。

学術研究の世界では,通常,1人の研究者によって何の脈絡もなく唐突に成果が生み出されるということはない。その分野における先行研究の蓄積や,研究コミュニティの中での協力関係の上に,新たな成果が積み上げられていくのが普通である。したがって,知識生産活動に関する分野の特徴の把握を目的に,研究者の活動を見るに際しては,その研究者単独の活動だけ見るのでは不十分で,何らかのつながり(知的紐帯の構造)の中での位置付け・役割を考慮に入れる必要がある。そこで,本研究では,個人の生産性,研究協力における直接的な影響関係,そして間接的な媒介性という3つの観点から研究者の活動を分析する。それぞれの相関の検証に基づき,観点による評価の不一致から研究者の活動の多様性について明らかにしたい。

研究協力の状況は,共著ネットワークの観察を通して把握する。本研究では,ThomsonISIが提供するSCI (Science Citation Index)データベースの,1999年から2003年までの5年分を共著の観察のための情報源とした。対象とする分野は計算機科学に属すいくつかのサブドメインである。共同研究が活発な領域であり,ネットワークを考慮する必要性が大きいこと,そして学際的なサブドメインなど様々な性格のサブドメインが存在し,性格の違いに起因するサブドメイン間の傾向の差違から有用な知見が得られると予測されることが,計算機科学を分析の対象に選んだ理由である。それぞれの分野(計算機科学のサブドメイン)について,コアジャーナルに掲載された論文の書誌情報をSCIデータベースから抽出し,それらのデータを分析に用いる。3つの観点,「個人の生産性」「研究協力における直接的な影響関係」「間接的な媒介性」の評価には,それぞれ,論文発表数,次数中心性,Freemanの媒介中心性に修正を加えたものを尺度として用いる。観点(尺度)による評価の不一致・代替性の低さを分野ごとに整理することを通じて,研究評価において効率化「できない」部分を明確にするための示唆が得られるものと考えている。



(9)
◆氏 名 松戸 宏予(まつどひろよ)
◆所 属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目 特別なニーズを要する児童生徒への学校図書館支援の現状と課題
◆発表要旨
(1) 研究目的
 日本の通常学校においては、LD、ADHD、軽度知的障害、高機能自閉症など特別支援を要する児童生徒数が増えており、通常学級では、学級崩壊など深刻な問題が起きている。
 学校図書館においても、トラブルは起きている。学校図書館関係者向けのガイドラインも整備されておらず、個々の学校図書館関係者の努力に委ねられており、LD・知的障害児に対してどのように支援をしたら良いのか、戸惑っている状況である。しかし、生徒が学校図書館に求めるニーズ、支援の現状、学校司書、教師が考える支援と役割、支援推進の手だてなどの調査研究は、日本においてはこれまで取り上げられていなかった。
 本研究においては、生徒が学校図書館に求めるニーズ、学校司書、教師が考える支援と役割、支援の現状、支援推進の手だてなどの調査を行うことにより、今後の特別なニーズを要する児童生徒への学校図書館の役割と支援の指針を見いだすことを目的としたものである。なお、特別なニーズを要する児童生徒とは、「特別なニーズ教育」の視点に基づき、LD、ADHD、軽度知的障害、不登校傾向、クラスになじめない生徒を指す。
本報告では、特別なニーズを要する児童生徒への学校図書館支援の現状と課題を中心に報告する。
(2) 研究方法
 調査方法は選択形式の質問紙調査である。支援の有益度や実際の状況の程度を問う質問群の回答は5件法(1まったくない〜5かなりある)で評定を求め、評価している程度が高い方から5〜1点を与え、間隔尺度とみなした。質問の項目は児童生徒に対する対応配慮、学校図書館環境、利用者教育、レファレンス対応、障害児理解についての啓発の観点から19項目で行った。
 調査対象は千葉県浦安市、市川市、船橋市、千葉市、袖ヶ浦市の公立小・中学校に関わる学校司書103名と、教師144名を対象とした。調査時期は2003年5月に行った。なお、自治体によっては、11学級以下の学校に於いては司書教諭を発令していないところもあるため、本研究で調査の対象とした教師は、学校図書館に携わる司書教諭、図書主任、図書館担当、もしくは特殊教育の教師を含むものとする。
(3) 得られた成果
 支援項目によって学校司書の意識の度合いが異なることが明らかになった。しかし、支援の現状について、学校司書の属性による違い(司書資格の有無・勤務形態・学校種・所属地域)を検討したところ、個々の児童生徒の状況にあわせた支援、学習スキルに関わる支援、環境整備の支援の程度に差が出た。
 また、支援を阻む要因としては、1.意識的なもの、2.環境的なものに分けられた。
1.意識的なものについての理由項目では、「発想がなかった」と「学校司書の支援領域ではないと思う」が挙げられた。意識面では、「発想がなかった」として、「障害児理解を目的とした啓発」を挙げていた。また、「学校司書の支援領域ではないと思う」には、「パズル、カルタなど教具資料を揃える」、「コンピューターの利用支援」を挙げていた。
2.環境的なものの主な理由については、「予算の制約」、「買える範囲に制限」、そして「情報や研修を受けていない」であった。環境面では、「視聴覚資料の整備」、「ローマ字対応表などのコンピューターの利用支援」、「パズル、カルタなど教具資料を揃える」を挙げており、支援を行っていない理由として「予算の制約」、「買える範囲に制限」を挙げていた。「障害児理解を目的とした啓発」では「発想がなかった」他に、「情報や研修を受けていない」を回答に挙げていた。
 以上の結果から、支援項目によって意識の度合いは異なるが、特に、特別支援を行う際に効果があるとされる支援「視聴覚資料の整備」、「パズル、カルタなど教具資料を揃える」といった活字資料以外の資料を整備することについては、行政面と学校図書館関係者の意識がまだ育っておらず、実際の支援もほとんど行われていないことが明らかになった。
 しかし、支援推進の手だての関連では、学校司書と教師が考える可能な連携の意識調査から、教師は学校司書に調べ学習などの個別の対応、つまりティームテーチングや、資料の相談といった学校図書館の専門家としての連携を求める傾向にあった。今後、学校司書の支援対応だけではなく、学校図書館として司書教諭との連携による支援、学校としての特別支援、教育委員会の後方支援も含めた連携による支援を視野に入れる必要がある。



(10)
◆氏  名  呑海沙織(どんかい さおり)/北 克一(きた かついち)
◆所  属  京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館/大阪市立大学
◆発表題目  英国『フォレット報告』における図書館情報基盤政策の分析及び検討
◆発表要旨
(1)研究目的
 英国において1993年12月に発表された『高等教育合同財政審議会図書館検討委員会報告書(Joint Funding Council's Libraries Review Group:Review)』,通称フォレット報告は,英国図書館情報化政策の方向付けに大きな影響を及ぼしている。同報告を分析・検討することにより,英国の図書館情報化政策の形成,実現,評価の過程について考究する。
(2)研究方法
 フォレット報告は,本編8章,付録3からなる報告書である。本編は,第1章「結論の要旨」,第2章「序文及び作業方法」,第3章「背景」,第4章「高等教育機関における図書館及び情報機関の管理運営」,第5章「図書館と教育」,第6章「図書館と研究者」,第7章「情報技術」,第8章「勧告」から成り,これに「調査事項と構成員一覧」「略語一覧」「パフォーマンス指標」が付されている。
 本発表では,同報告の中で特に図書館情報基盤政策に焦点をおき,同報告書第7章の「情報技術」を中心に,その政策形成過程,政策実現手法,政策評価等につき,図書館情報化政策論の観点から分析を行う。特に,政策形成過程においては,委員会基礎資料となった各種調査報告や研究を合わせて検討すると共に,委員会組織構成も考察の対象とする。
(3)得られた(予想される)成果
 英国の1990年代以降の学術情報基盤政策を方向付けた同報告の分析と,同報告書が対象とする高等教育における英国の図書館情報化政策の形成,実現,評価の行政過程について,一定の知見を得ることができた。今後は,図書館情報政策論の観点から,同報告において展開された情報化政策を具現化したJISC(Joint Information Systems Committee)の組織的位置づけ,委員会構成の特徴,活動の評価に関して,詳細な分析と評価を進めたい。



(11)
◆氏 名 森 智彦(もり ともひこ)
◆所 属 東横学園女子短期大学
◆発表題目 公貸権導入論議に関する考察
◆発表要旨
(1)研究目的
 継続する出版不況の影響のためか、我が国でも公貸権制度の導入が提案されるようになってきた。作家である林望氏や楡周平氏、三田誠広氏らがそうした提案をしているが、他に出版関係者からも提案がされている。また、図書館関係者からはそれらに対する回答・批判もされている。しかし、作家側の図書館や公貸権についての理解が正確でなかったりするため、作家側の考えとは裏腹に公貸権制度導入の論議自体を深めさせないような一面をもっている。また、図書館関係者側でも公貸権について正しく理解していないために作家側への回答・批判となっているとは思えないものもあったりする。この発表では、公貸権について誤って理解している点を指摘し、作家側や図書館関係者がより正確な公貸権や図書館の理解に基づいて、公貸権導入論議が交わすことができるようになることを目的とする。当然だが、言説そのものを論難することは目的としていない。
(2)研究方法
 公貸権、著作権等に関する作家側の言説および、それに対する図書館関係者側の言説を検討する。書籍、雑誌・新聞記事や講演記録などの資料を参考として検討を行う。公貸権導入論議の端緒となった複本問題についても検討するが、これについては公貸権と関係したものに限定したい。公貸権自体に関してはイギリスの公貸権制度を中心に、その他諸国の公貸権制度を参照する。
 とくに、作家や図書館関係者の一部が、我が国でも公貸権制度が実施されている例として紹介している、公共図書館での「映画の著作物」の貸出し、が本当に公貸権制度なのかどうかの検討を加えてみたい。
 また、作家側は公貸権制度導入以外にも、新刊本の一定期間購入制限や、複本の制限なども主張しているが、これらと公貸権制度との関係や、実施の可否についても検討を加えたい。
(3)得られた(予想される)成果
 作家側、図書館関係者側とも公貸権の理解は十分でなく、それだけでも公貸権制度を導入すべきでないという方向に結論づけることも可能だが、我が国において今後も公共図書館が発展するためには公貸権制度導入の可否について論議をすること自体は避けることはできないし、議論はすべきである。しかし、現状では咬みあった議論がなされているとはいえない。作家や図書館関係者がより正確に公貸権を理解した上で論議ができようになれば、我が国における公貸権導入論議がより深まることになるのでその一助となりたい。



(12)
◆氏 名 森岡 倫子(もりおか ともこ)/野末 道子(のずえ みちこ)/嶋田 真智恵(しまだ ま
       ちえ)/寺尾 洋子(てらお ようこ)/上田 修一(うえだ しゅういち)
◆所 属 国立音楽大学付属図書館/鉄道総合技術研究所 輸送情報技術推進部/国立国会図書館/慶應義塾大学
◆発表題目 土木学会図書館目録・書誌情報検索システムのログ分析について
◆発表要旨 
 本研究では、土木学会図書館システムの利用者検索ログ分析を行った。このシステムは簡易なインタフェースとヘルプ画面で構成される典型的なWeb OPAC並びに書誌情報検索システムである。
 土木学会では、2002年12月からこのOPAC、書誌情報検索システムを提供している。最初に、利用の多いアクセス元サイト、利用の多いデータベース、利用される時間帯、利用される曜日、利用の多いキーワード等を分析することにより、本システムの利用者の全体的な傾向を把握した。
 次に、個々の利用者の検索行動を分析することを検討した。本システムは学会員に限らず誰でも利用が可能であり、検索利用の際にも特定IDによるログインする等の利用者の特定を行う仕組みは無い。そのためこのログ上には、個々の利用者を識別する手がかりとなるものはアクセス元のIPアドレス以外に無く、個々の利用者の検索行動情報を抽出することは容易ではない。不特定多数の利用者に公開されるWeb OPACシステムでは、こうした理由から、利用者を特定することができないWeb OPACシステムのログ分析については、利用頻度や使用した検索項目等の全体的な傾向数値を捉えている研究はあるが、個々の利用者の検索行動について分析を行うといった研究はほとんど見られない。
 本研究では、まず機械的に、同一日付の中での同一IPアドレス からのアクセスを1セッションとして取り出した。その中で、入力コマンド間の時間があいているセッションについては、検索内容から、別セッションとなるかどうかを判断した。逆に、同一セッションであっても、アクセス元のサイト環境によっては、別のIPアドレスが混在したログとして記録されている場合があり、これらについては、検索内容を見て、同一であると判断した場合は、一つのセッションとして編集した。
 この編集プロセスを経て認識されたセッションごとに、利用者の検索が主題検索、既知事項検索のどちらであるのかを判断し、検索の失敗と考えられる0ヒットやヒット過多を出した場合の理由とその後の対応、一覧表示画面から個別書誌事項の詳細表示を行った後の行動パターンについて分析を行った。この分析結果を元に、検索システム利用者のプロトタイプとして「効率的な検索式を作成することができる検索システムに熟練した利用者【熟練者】」「注意深く自分の失敗原因を検証し試行錯誤を行う忍耐力のある利用者【忍耐力あり】」を仮定した。その上で、検索利用の行動からこのプロトタイプ判定に影響を与えている要素として【熟練者】には@OR演算子や前方一致コマンドの使用 A対象データベースの変更 B一覧表示件数の変更、を抽出した。【忍耐力あり】としては、@入力したキーワード数が5以上 Aセッションを10分以上継続 B20件以上の一覧表示、とした。これらの抽出要素による利用者プロトタイプの自動判別の可能性を検証した。
 こうした利用者の行動の分析やプロトタイプの判別は、検索システムの改善やガイダンス機能の向上にも役立つものと考えられる。



(13)
◆氏 名 歳森 敦(としもり あつし)/宇陀 則彦(うだ のりひこ)/坂井 華奈子(さかい かな
       こ)/松林 麻実子(まつばやし まみこ)/村上 泰子(むらかみ やすこ)
◆所 属 筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター(歳森,宇陀,松林)
       筑波大学大学院図書館情報メディア研究科(坂井)
       梅花女子大学文学部(村上)
◆発表題目 日本国内における自然科学系学術雑誌の購読状況
◆発表要旨
電子ジャーナルの導入が進むなか,代表的な利用者である研究者に焦点をあて,彼らの利用動向や評価,利用者の情報行動への影響などについて実態調査が行われ始めている.しかし,同じ現象を図書館側から眺めたものは,国立大学図書館協議会が出している調査結果などに限られており,実際にどの程度の資料が提供されているのか,ということについてはいまだ明らかになっていない.このような状況を受け,本研究では,学術研究機関の学術雑誌,特に科学・工学・医学系雑誌の購入状況を印刷体と電子ジャーナルの両面について調査し,館ごとにそのバランスがどのようであるかを検証した.また,日本全国における学術雑誌の分布・配置状況を示すと共に,大学間・組織間の格差について具体的に示した.

国会図書館と共同で大学図書館,専門情報機関,都道府県立図書館に対する郵送質問紙調査を2004年1月から2月にかけて実施した.質問項目は年間の購入学術雑誌タイトル数,科学・工学・医学系雑誌の購入タイトル数,新規購入タイトル数,中止タイトル数,購読電子ジャーナルのタイトル数,総額,コンソーシアムへの参加状況,代表的な電子ジャーナルパッケージの契約状況,館外文献複写の依頼先とその選択理由,機関レポジトリへの取り組み状況等である.

調査対象としたのは,987館である.その内訳としては,国公立大学および5学部以上を有する私立大学の中央館に対しては全数(189館),5学部未満の私立大学中央館に対して50%の抽出率で無作為に調査対象館を選定(219館)した.印刷体雑誌の購入状況やILLの利用先把握を目的に,分館・部局図書館(室)に対しても,雑誌購入費合計500万円以上(雑誌購入費の明らかでない機関にあっては資料費1000万円以上)の条件に合う289館全数を調査対象とした.また,専門情報機関は専門図書館協議会による「専門情報機関総覧2003」を元に,主題分野別索引のうち「H 工学・工業」「I 理学」「J 医学・薬学」に分類されている機関から,公共・大学図書館,JST,国立国会図書館支部図書館,博物館・科学館,文庫,「旅の図書館・すまいの図書館等,研究機関に属さない図書館」,私立病院図書館を除いた369機関から資料情報費500万円以上,資料情報費が未詳の場合にあっては購読洋雑誌数300誌以上の全館(184館)を対象とした.都道府県立図書館はその全数(64館)を調査対象とした.有効回答数は737通,有効回答率は73.7%である.

結果として,日本の図書館が収集対象としている情報は,科学技術情報に偏重していること,特に国立大学においてその傾向が顕著であることが示された.また,電子ジャーナルのタイトル数に関して,国立大学を中心に意欲的に導入している館と公立大や私立の比較的小規模の大学との間に大きな格差が生じており,それは,コンソーシアムに加入しているか否かという要因により説明可能である.



(14)
◆氏 名 池内 淳(いけうち あつし)
◆所 属 大東文化大学文学部
◆発表題目 ウェブ統計調査におけるサーチエンジンの有効性
◆発表要旨
(1)研究目的
 ウェブの登場以来、その変化・成長・構造といった定量的属性を捉えるための様々な調査が行われてきた。ところが、ウェブ全体の急速な成長のため悉皆調査は極めて困難であり、かつまた、ハイパーリンク構造の不均一性から標本調査における統計学的な問題が指摘されてきた。これまで、無作為な標本集合を作成するための手法が幾つか提案されてきたが、それらは、あくまでも、リンクでたどることのできる部分においてしか意味をなさないという限界が存在する。以上のような経緯から、ウェブの計量調査では調査対象の大きさが重要な要素として認識されるようになった。ところが、既存の調査のほとんどはウェブ全体からすれば極めて小さい集合を用いているに過ぎず、最も大きなものでも数億ページであった。この場合、常に数十億のページを保持し、定期的に更新されているサーチエンジンのデータベースをウェブの統計調査に用いることには、調査の簡易性・継続性といった観点から、一定のアドバンテージが存在すると考えられる。そこで、本研究では、多言語をサポートするサーチエンジンを用いて、ウェブ・ページの計量調査を行った。
(2)研究方法
 調査対象とするサーチエンジンとしては、インデックス・サイズの大きさ、多言語をサポートしているか、検索オプションの豊富さ、経営の継続性といった観点を考慮し、AlltheWeb(http://www.alltheweb.com/)を選択した。調査項目は、(1)データベースの規模、(2)ドメインの分布、(3)言語の分布、(4)ページ・サイズ、(5)マルチメディア・コンテンツの比率、(6)テキスト以外のファイル・タイプの比率、(7)データベースの新鮮度等である。調査は、一年間に亘り、一ヶ月ごとに、専用のプログラムを作成して自動的に行うとともに、経時的な変化を把握した。
(3)得られた(予想される)成果
 ウェブはかつての急速な成長期から安定成長期に入っていると考えられるが、様々な統計項目についても、大きな変化は見られなかった。ドメインについては.comが半数弱、言語については英語が半数を超えている。平均ページ・サイズは既往調査間で必ずしも結果が一定ではないが、ほぼ10KB前後となっている。インデックスされたページのうち、90%は過去6ヶ月以内に更新されたもので占められており、全体の85%には画像ファイルが貼られ、50%にJavaScriptが使用されていた。また、swfファイルも5%程度あり、Flashの高い普及率を表している。マルチメディア・コンテンツは様々なファイル・タイプが同じページ中に共存する例も多い。おわりに、ウェブ統計調査における統計指標の標準化について考察を加えた。



(15)
◆氏 名 辻 慶太(つじ けいた)
◆所 属 国立情報学研究所 人間・社会情報研究系
◆発表題目 千代田図書館に関するアンケート調査報告
◆発表要旨
 本研究は,国立情報学研究所が東京都千代田区より受けた受託研究「新千代田図書館のあり方に関する検討」における調査結果を精査・拡充したものである。千代田図書館は,新築される合同庁舎に2007年に移転する予定だが,その新規開館に伴って,より良いサービスが実現できるよう,現在の利用者・住民・千代田区在勤/在学者のニーズの調査が行われた。主な内容としては,まだ日本の公共図書館ではあまり行われていないIT関連サービスや,各種住民向けサービス,及び調査機能に関するニーズを調査した。さらに,世界有数の古書店街である神田神保町近くに位置する立地条件と,昨今話題になっている出版と図書館の関係といった視点から,書籍購入と図書館利用に関する調査も行った。
 現利用者だけでなく潜在的利用者のニーズも広く把握するという目的から,調査は以下の4種類を行った。即ち,(1)来館者を対象としたアンケート調査,(2)郵送による区民調査,(3)インターネットを用いた千代田区区民/在勤・在学者調査,(4)千代田図書館周辺の通行者を対象とした調査,の4種類である。(1)は主に現千代田図書館のコアな利用者を想定対象とし,(2)は主に非利用者の住民を,(3)は非利用者でかつインターネット等の情報ツールを使いこなしている先行者を,(4)は非利用者でかつ地理的に新千代田図書館を利用できる可能性が高い人々,を想定している。得られたサンプル数は(1)は329,残りはいずれも200程度である。
 結果,図書館を利用する目的は娯楽・教養のためが最も多かったが,4人に1人は仕事の為の調査・研究と答えており,来館者の6割が日経テレコンといった商用データベースの導入を望んでいた。また商用データベースは,調査によっては非利用者の8割が導入を望んでいた。一方で,図書館のレファレンス・サービスについてはほとんど認知されていなかったものの,利用した人の多くは内容に満足していることが示された。
 メールを用いたカレントアウェアネス・サービスは来館者の6割が利用を希望し,非利用者の多くが関心を示していた。無線LANの導入,インターネット端末の導入,カフェの設置は,来館者・非利用者共に希望が多かったが,図書館のヘビーユーザーほど導入に消極的で,週1回以上現図書館を利用している人の2割が無線LANの導入に,3割がカフェの設置に反対するという興味深い結果も得られた。予約した本の宅配サービスに関しては,当初予想していた高齢層よりも,20代以下の若年層でニーズが高いことも判明した。
 最後に,書籍購入と関連して,図書館利用者の半数近くが図書館で借りた本あるいはその関連書をしばしば購入していること,また7割程度が,周辺書店で購入可能な本の検索システムを図書館に設置してほしいと希望している結果が得られた。



(16)
◆氏 名 三輪 眞木子(みわ まきこ)/村主 朋英(むらぬし ともひで)/上田 修一(うえだ し
       ゅういち)/竹内 比呂也(たけうち ひろや)/吉田 右子(よしだ ゆうこ)/柴田 正美
       (しばた まさみ)
◆所 属 メディア教育開発センター/愛知淑徳大学/慶應義塾大学/千葉大学/筑波大学/帝塚山大学
◆発表題目 日本における図書館情報学・司書・司書教諭教育の現状
◆発表要旨
 情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究(LIPER)の一環として、図書館情報学教育班が 2003年度に実施したインタビュー調査の結果を報告する。
(1)研究目的:日本の高等教育機関における図書館情報学の教育目標、教育体制、カリキュラムの現状を明らかにする。
(2)研究方法:ケーススタディ(ロバート・K・イン)手法を応用し、図書館情報学および司書課程を提供する12機関の担当教員を対象にインタビューを実施し、併せて関連資料を収集した。調査対象の選定は、『日本の図書館学教育』の掲載データに基づき、カリキュラム、開設時期、大学・短大の別、私立大学・公立大学・国立大学の別、などの観点から多様性を重視して行った。インタビュー結果及び収集資料の内容分析に基づき、日本の高等教育機関で実施されている図書館情報学、司書課程、司書教諭課程の教育教育目標、教育体制、カリキュラムの現状、および抱えている課題を把握した。
(3)得られた結果:調査結果、日本の図書館情報学教育は多様であることがあらためて浮き彫りとなった。
 沿革と概要:改組については、司書課程の場合、課程を設置している学部などの上位組織の改組に影響を受ける場合が多いが、図書館情報学専門課程では、大規模な改組やカリキュラム改定を経験しているところが多い。事務組織上の位置づけについては、小規模な組織では司書課程のための事務組織はおかれてものが多く、大規模な組織では資格関係を一括して扱う組織があるものが多い。理念・使命としては、図書館情報学の専門課程では、図書館情報学の発展、図書館情報学の専門教育が指摘され、司書課程では、所属する学部、学科などの特徴あるコースとして存在することが理念としてあげられている。
 司書課程科目を卒業単位として認定するか否かは、各組織でかなり異なり、全く認定していない、一部を組み入れる、学生の所属学科により異なる、学科の共通科目となっている等の多様なパターンがある。
 授業評価、自己評価、第三者評価を含む評価の実施は、機関ごとにばらつきが見られた。授業評価を実施している機関は比較的多く、学期の終了時に大学としてあるいは教員が独自にアンケート調査を行っている。
 卒業生の進路では、図書館司書の採用減を反映して司書資格を取得した学生が図書館員となるケースはきわめて少なくなっている。図書館情報学の専門課程では、卒業生は広く情報関連企業に就職している。
 教員同士のコミュニケーションに関しては、理念共有のため密接なコミュニケーションが行われている機関、定期的に関係者の会議を開催している機関、カリキュラム改革に向けて議論を行っている機関がある一方で、時間等の制約から教員同士が話し合う機会がほとんどない機関もある。
 調査を通じて大学等の設置母体に対する不満や運営上の悩みを把握した。司書課程では、人的資源、物的資源、時間割等のリソースに関する問題が指摘された。将来の課題として、実習を行っていない司書課程では希望者に図書館実習の機会を与えたいという要望が多い。また、現行の司書養成科目では公共図書館に焦点を絞っているが、大学図書館、学校図書館、専門図書館等に関する知識を教えたいという意見もあった。演習科目では司書資格を持つ図書館員に学生への説明を依頼しているが、有資格者が他部署に異動するため有能な司書の経験知を活用できないという問題が生じている。
 以上のほか、司書課程の存在意義、学内他学部との関係も課題となっている。さらに、司書課程を担当する教員個人の問題として、科目の過重な負担、研究と教育の乖離などが把握された。



(17)
◆氏 名  大庭 一郎(おおば いちろう)/高石 しのぶ(たかいし しのぶ)
◆所 属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科/北海道大学・情報科学研究科図書室
◆発表題目  公共図書館と学校および学校図書館との連携・協力:
       1945年から2003年まで
◆発表要旨
 公共図書館と学校および学校図書館との連携・協力については,従来から日本の図書館界で話題にされ,雑誌記事や研究集会などで採り上げられてきた。しかし,公共図書館と学校および学校図書館との連携・協力については,個々の時点でのサービス活動の紹介や報告は行われているが,それらをまとめて網羅的に分析した研究は行われてこなかった。
 近年,学校図書館は,「総合的な学習の時間」の導入にともなう調べ学習の重視や,12学級以上の学校に対する司書教諭の必置などによって転換期を迎えており,学校教育におけるその役割が注目されるようになってきた。一方,公共図書館にとっては,学校図書館は重要な連携相手のひとつであり,最近の学校教育の状況を踏まえた上で,連携・協力の問題を再考する必要が生じている。そこで,本研究では,公共図書館と学校および学校図書館との連携・協力に関する1945年以降の日本の文献を収集して,それらを分析・整理し,連携・協力の現状と問題点を考察した。
 研究方法としては,文献調査と訪問調査を用いた。文献調査では,公共図書館と学校および学校図書館との連携・協力に関する文献(雑誌記事を中心に約290点)を網羅的に収集し,時系列(年代別)とサービスの構成要素という2種類の観点から分析・整理した。さらに,訪問調査では,さいたま市で開催された研究集会に参加するとともに,千葉県市川市の教育センターを訪問して,担当者の方からお話をうかがった。
 研究の結果,以下のような事柄が明らかになった。
・公共図書館と学校および学校図書館との連携・協力は,図書館法や学校図書館法に規定されており,「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」,「ユネスコ公共図書館宣言 1994年」,「ユネスコ学校図書館宣言」においても,連携・協力について言及されている。
・連携・協力のサービスの構成要素は,(1)資料の貸出,(2)学級訪問,学級招待,(3)利用案内,行事案内,新着資料リストなどの印刷物の配布,(4)レファレンス質問への回答,(5)課題テーマ別コーナーの設置,ブックリストの配布(調べ学習への支援),(6)児童書や児童サービス技術に関する共同学習会(推薦図書目録の共同作成など),(7)除籍図書の学校への移管(資料の授受),(9)定例の連絡・協議,(10)学校図書館への指導・アドバイス,(11)その他,の11種類に区分できる。
・連携・協力の内容としては,公共図書館からの資料の貸出,学級訪問・学級招待の事例が中心を占めているが,近年は,調べ学習の導入が公共図書館によるサービスの展開に大きな影響を与えている。
・連携・協力関係を安定させるためには,図書館職員や教師の個人的なつながりのみに依存することなく,制度として連携・協力体制を確立することが必要である。公共図書館が,学校図書館の肩代わりをするのではなく,自立を支援するという立場で連携・協力に取り組むことも重要である。