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2005年度春季研究集会 研究発表要旨

No.1
◆氏 名 安藤 友張
◆所 属 名古屋芸術大学附属図書館
◆発表題目 1950-60年代の愛知県における専任司書教諭制度に関する研究
◆発表要旨
(1)研究目的
 本研究では、学校図書館法の公布後、間もない時期に敷かれた愛知県における専任司書教諭制度の実際の詳細をあきらかにする。先行研究では、二次資料のみに依拠した簡単な分析・記述にとどまっている。本研究では、二次資料のみならず、一次資料(愛知県教育委員会編集・発行の刊行物など)を収集・分析し、当該制度の実際と問題点をあきらかにする。
(2)研究方法
 文献調査とインタビュー調査を併用する。調査時期に関しては、2004年10月から2005年1月にかけて行った。インタビュー調査においてはスノーボール・サンプリングを使用した(被調査者数は5名)。当時の関係者(司書教諭など)に対して、制度発足の背景・制度の実際・制度崩壊の要因などについてインタビュー調査した。
(3)得られた(予想される)成果
 なぜ,愛知県では,教育行政サイドが司書教諭の発令に対して積極的であったのかに関しては以下の要因が指摘できる。まず,学校現場と教育行政のパイプ役である校長の中に,学校図書館の発展に対して非常に理解のある校長が複数存在したこと。次に,当時の県教委が学校図書館の振興に対して熱心であったことである。その証左として,当時の愛知県教育委員会は新聞社と共催で「学校図書館コンクール」を継続的に実施し,先進的な学校図書館を表彰していた。司書教諭に対して発令された辞令は,教科を受け持つ専任教諭を基礎身分とした補職辞令であり,定員上は,0.5人分の非常勤講師を加配するという措置であった。1957年に愛知県教育委員会が愛知県立学校長宛に出した通達によれば,「司書教諭は,教諭のうちで司書教諭の講習を修了した者を校長が内申し,教育長が選考して県教育委員会が任命する」という選考及び任命手続きになっており,さらに,発令を受けた教員が転任・休職・退職などによって当該勤務校を離れたときには,解職の辞令なしで自動的にその任務が解かれるという制度になっていた。発足当初から当該制度は,このような脆弱性を内在的にかかえていた。また,司書教諭の配置率は低かった(22.4%)。司書教諭と図書館主任の関係であるが,同一人物であるとは限らなかった。教員としての経験年数が浅い司書教諭の場合,図書館主任にはベテランの教員が配置された。司書教諭がベテランの教員であった場合は,図書館主任と同一人物であった傾向がみられた。ひるがえって,学校司書の存在についてみてみると,司書教諭が配置された県立高等学校には,司書教諭と共に学校司書が配置されていた(公費雇用または私費雇用)。学校図書館の実際の運営は,司書教諭と学校司書の協働によって成り立っていた。性別でみると男性教員に偏っていたが,ベテラン・中堅の教員,採用後間もない若手教員など年齢・担当教科・経験は問わずに発令された。司書教諭資格をもっていない者は「司書教諭心得」という辞令を受け,発令後すみやかに講習を受講し,資格を取得した。戦後わが国において,愛知県の専任司書教諭制度は当時の斯界において注目された制度であった。しかし,専任司書教諭制度が愛知県の学校図書館の活性化に寄与した積極的側面や歴史的意義はあったものの,学校図書館職員の専門職制度の確立という基本理念が制度発足時において欠如していたのである。


No.2
◆氏 名 谷口祥一,横田有未
◆所 属 [谷口]筑波大学 図書館情報メディア研究科
       [横田]筑波大学 図書館情報専門学群
◆発表題目 総合目録データを用いた異なる分類表間の対応づけ
◆発表要旨
 図書館業務における洋資料の目録作業は、例えば、国立情報学研究所による共同分担目録システムNACSIS-CATを通じて、米国議会図書館(LC)作成のMARCレコード等、国外の図書館で作成された書誌データを参照し流用することで、かなりの部分合理化され軽減化されている。他方、分類作業については、例えばLCによるMARCレコードではデューイ十進分類法(DDC)、米国議会図書館分類表(LCC)等の分類記号が付与されているため、日本十進分類法(NDC)を使用している大学図書館では、担当者が1冊ごとに新たにNDC分類記号を決定・付与しているのが現状である。
 本研究では、こうした洋資料の分類作業の軽減化を目的として、MARCレコードや手元の資料のCIP(Cataloging in Publication)データに記載されているDDC分類記号を手がかりとすることで、NDC分類記号の決定を支援するシステムを試作した。
1.DDCとNDCの対応関係を示す基礎データとして、NACSIS-CAT総合目録中に存在する図書の書誌レコード(2004年3月時点の全レコード)を活用した。まず、NACSIS-CAT書誌レコードからDDCとNDCの分類記号の組を抽出し、それぞれ分類表の版次ごとに、出現回数を含め集計した。
2.次に、抽出した記号の組に対して、対応関係をより理解しやすい簡便な形式で出力・表示できるよう、有効な編集処理を検討した。先の単純集計結果では、単一のDDC記号に対して、通常、多数のNDC記号が対応し、そのままでは理解しにくいものとなるからである。今回、以下の4つの編集処理を採用した。

  • 形式区分記号の除去:NDC記号に形式区分記号("03"から"08")を含む組み合わせを除去する。
  • 限定化:DDC記号の階層関係とそれぞれに対応するNDC記号の階層関係に基づき、階層関係から逸脱する、それゆえふさわしくないと思われるNDC記号を含む組み合わせを除去する。
  • まとめあげ:単一のDDC記号に対して展開のレベルの異なる複数のNDC記号が対応している場合に、階層が下のものを上のレベルに「まとめあげる」。
  • 出現回数の指定:指定した回数未満の出現回数をもつ組み合わせを除去する。
3.単純集計結果である対応づけテーブルをデータベースに格納し、検索・表示機能を加えた分類記号変換支援システムを構築した。構築には、Apache Webサーバ、 MySQLデータベース管理システム、PHPスクリプト言語を使用した。同システムのインタフェースとして、次の2種類のものを試作した。
  • 対応テーブル全表示:DDCおよびNDCの指定した版次に対して、分類記号の対応関係を一覧表示する機能である。
  • 条件指定検索:入力されたDDC記号による検索に加えて、上述の編集処理を組み合わせてかつ随時適用できるものとした。また、これらの条件を指定して得られた検索結果の上下の階層のDDC記号、前後のDDC記号にそれぞれ対応する記号の組み合わせを参照するためのリンクを自動的に設定した。
 また、NDC9版については、同分類法の機械可読版から各分類記号の項目見出しを抽出し、先のデータベースに格納した。これにより、NDC9版の分類記号の表示の際には、その項目見出しを併せて表示させることができる。


No.3
◆氏 名 松林 正己
◆所 属 中部大学附属三浦記念図書館
◆発表題目 情報哲学(The Philosophy of Information)と図書館情報学:情報哲学の紹介と検証的読解の試み
◆発表要旨
(1)研究目的
近年「基礎情報学」等情報学の基礎付けを意図した著作が刊行されて、図書館情報学に もインパクトを与えていると思われる。欧米でも同様の観点で情報学の問題構制が再検討されている。中でもイタリア人哲学者ルチアーノ・フロリディ(Luciano Floridi)の情報哲学は従来の情報メディア論的議論を超えた視点で、認識論と存在論を再構築して画期的な評価を得ているが、日本では紹介されていない。そこで筆者は情報哲学を追跡・紹介(拙稿「情報哲学(the Philosophy of Information)」の誕生:図書館情報学理論研究における新たな動向) 国立国会図書館編集「カレント・アウエアネス」No.283、2005年3月20日刊行予定)してきた。この哲学は図書館情報学が自律する契機を内在させていると判断しており、欧米での評価のみならず、図書館情報学のあり方を再検討する諸要因があると考えるので、より詳細な議論を紹介し、さまざまな情報学の混沌状況から図書館情報学が自律する手がかりを模索したい。
(2)研究方法
 フロリディの著作(「応用情報哲学として図書館情報学を定義することについて(On defining library and information science as applied philosophy of information)」,「応用情報哲学としての図書館情報学あとがき(Afterword LIS as Applied Philosophy of Information: A Reappraisal)」と主著「哲学と計算(Philosophy and Computing)」)から、情報哲学の基礎概念と体系を抽出 し、全体像とその影響力を検討する。近年哲学研究における認識論(Epistemology)研究が世界的に進んでいることを視野に入れて、情報哲学の認識論的意義を検討し、シェラが提唱した社会認識論(Social Epistemology)と関係性にも言及したい。
 併せて基礎情報学等に対しても同様の読解作業を行い、比較検討する。連関して日本の類似した研究にも多少触れ、情報学および図書館情報学の体系に必要な要件を整理したい。
(3)得られた(予想される)成果
 図書館情報学(研究)は、情報哲学との応用領域と定義され、学的関係性において<百科全書>的展望を必然的に共有するがゆえに、他の諸科学の補助学ではなく自律した科学となりえる。情報哲学の体系を敷衍的に導入することで、精緻な学的体系を構築でき、存在理由を明快に説明でき、専門性の必当然性を説明できる。


No.4
◆氏 名 間部 豊
◆所 属 埼玉県立浦和図書館
◆発表題目 公共図書館における「図書館ポータルサイト」の研究
◆発表要旨
情報検索における課題として、(1)情報メディアの多様化における課題(2)情報検索システムにおける課題(3)情報検索システムの利用者の検索動向における課題の3点を問題意識として捉えた。本研究はそれらの課題をシステム的に解決することを目的としている。
 研究方法として、まず問題解決するための機能要件を分析し、次にその要件を満たすシステムモデル「図書館ポータルシステム」の理論構築を行った。
 その主な機能要件として、(1)ウェブ情報源を含めた多様な情報メディアを「図書館情報源」として一元的に記述管理する。(2)FRBRの概念を導入した新しい「全国書誌(メタ)データベース」の構築を行い、情報源の所在と所蔵を一元的に管理する。(3)「図書館ポータルシステム」に対応する利用者側のインターフェースを「図書館ポータルサイト」として提供し、情報検索システムの統一を図る。(4)主題からの検索を容易にする「主題文献リスト索引」や利用者の情報要求条件を検索に反映する「利用者要求属性検索」を有する。(5)FRBRにおける4つの実体を段階的に表示する、主題検索において主題の階層表示を行い利用者がより適切な検索語を選択できるようにし、利用者の直感的検索行動を抑え、その検索行動を支援する。(6)検索結果を 「文献リスト」として二次利用でき、利用管理や参考文献リストの作成、SDIサービス・グルーピング機能にも活用できる。(7)公共図書館の地域性を生かし、地域に関する情報源を集積した「地域情報リポジトリ」を構築・活用できる。(8)各公共図書館のローカルシステムと連動して一次情報へのアクセスまで単一のシステムで実現する。以上の8点である。
 続いてこれらの機能要件を元に主題検索・書誌検索・利用者要求属性検索など事例を当てはめ、「図書館ポータルシステム」の概念モデル上で検索のシミュレーションを行い、その有効性を検討した。検討の結果、「図書館ポータルシステム」は上記の課題の解決に有効であると判断できた。
 次にその実現性を、技術面・制度面・司書及び公立図書館の役割面などから考察した結果、(1)「全国書誌(メタ)データベース」の再構築のための課題(2)「主題文献リスト索引」作成のための課題(3)「図書館ポータルシステム」と各公共図書館のローカルシステムとの関係における課題が明らかになった。
 (1)については全国書誌(メタ)データベースを構築する組織のあり方やウェブ情報源の評価・組織化の方法、FRBRを具体的な記述にどのように当てはめるかを検討し、具体的な方法を挙げて実現性があると結論できた。(2)については機械的な方法に加え、図書館司書が主題調整を行うことで実現可能であると結論できた。(3)についても技術的・組織的に実現可能であると結論できた。
 本研究の成果として、「図書館ポータルシステム」を用いることによって地域の情報蓄積機関である公共図書館が利用者間のデジタルデバイドを解消し、一次情報源へのアクセス性が高まることが明らかにできた。研究集会では、特に「図書館ポータルシステム」の概要とその実現のための課題に焦点を合わせて報告する。


No.5
◆氏 名 Andrew B. WERTHEIMER, Ph.D
◆所 属  University of Hawaii at ManoaLibrary & Information Science Program
◆発表題目 ASANO Shichinosuke and the Topaz Relocation Center Japanese Language Library, 1943-1945: Reading and Toshokan-mairi as Cultural Resistance
◆発表要旨
Journalist ASANO Shichinosuke was only one of the 120,000 Japanese Americans exiled from homes on West Coast and sent into concentration camps during World War II. Like other Bay Area Nikkei, he was sent to the Army-run Tanforan Temporary Detention Center in 1942, where nearly all Japanese print material was confiscated. Mr. Asano was later sent to the civilian-administered Topaz Relocation Center in Utah. There he helped establish a Japanese language library to serve other Issei and Kibei-Nisei. This paper will explore Mr. Asano’s struggle to establish a Japanese language library in the face of administrative resistance. It will also look at reading interest of the detained Issei and Kibei.
This study was based on triangulation of oral history interviews, memoirs, and archival sources. It was part of the researcher’s University of Wisconsin Ph.D. dissertation (Wayne Wiegand, advisor). It is the first exploration of Japanese language reading and libraries in America’s concentration camps.


No.6
◆氏 名 三浦 太郎
◆所 属 東京大学教育学部 生涯教育計画コース
◆発表題目 占領期初代図書館担当官キーニーの描いた戦後図書館制度構想:「低予算で図書館サービスを実施するためのプログラム」(1948)に基づいて
◆発表要旨
 戦後占領期(1945-52年)日本では米国の影響下、諸制度の改革が進められた。図書館界においても、GHQ/SCAPに図書館担当官が置かれたり、米国から図書館使節が派遣されたりするなど、戦前の図書館制度を変革する動きが見られたが、とりわけ意欲的に制度改革構想を打ち出したのは、初代図書館担当官キーニーであった。発表者は、この時期における米国図書館思想の影響を明らかにすることを研究課題としており、その一環としてキーニーの思想性を探求している。(拙稿「占領期初代図書館担当官キーニーの来日・帰国の経緯および彼の事績について」『日本図書館情報学会誌』vol.45,no.4,2000,p.141-154.ほか)彼の図書館制度構想は、CIEの政策文書「日本のための統合的図書館サービス(キーニープラン)」(1947)や「日本の公共図書館制度の再組織化」(1948)に書き残されていることはつとに知られるが、これら以外に、カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館所蔵のキーニー文書に「低予算で図書館サービスを実施するためのプログラム」(1948)が収められている。本発表は、同プログラムの分析を通じ、キーニーの図書館観を明らかにしようとするものである。プログラムには以下のような特色が見られる。

  • キーニープランの骨子が継承されている。核となる考えは、@総合目録の作成に基づき図書館間相互貸借制度を確立することによって、限られた図書館資源を十分に活用すること。および、A中央処理機関を設立し、受入、目録、分類の実務処理過程を集約的に行うことで、作業上の重複を省いて経費を削減することの2点である。@については、建物という外枠にとらわれずに如何に資料自体を循環させるかという発想が根底にあり、Aに関しては、図書館サービスにかかる費用を経済的側面から算定し、効率化を図る意図が読み取れる。
  • 図書館が社会教育機関として位置づけられ、図書の提供に限らず、討論会や映画上映、レコード鑑賞、展示会などのコミュニティ活動が重視されている。そして、そこで働く「教師としての図書館員」には、思考や議論を刺激したり、コミュニティにおいて指導力を発揮したりすることが求められている。図書館の枠を超えて地域の人びとに対する啓発活動に従事することが、キーニーにとって重要な図書館的機能であった。
  • このプログラムでは、戦後再建を図る国に対して図書のみを提供するような支援方法はとられず、より抜本的に制度自体の改革が志向される。図書や情報・知識を求める人びとに対して、行政側が限られた図書館資源を用いてサービスを提供するための方途を提示している。


No.7
◆氏 名 大場 博幸
◆所 属 亜細亜大学非常勤講師
◆発表題目 所蔵に影響する要素:市町村立図書館における新書の選択
◆発表要旨
(1)日本の公立図書館の蔵書傾向について報告する。蔵書を形成する上で二つの論理が考えられる。a.多様性重視、b.なんらかの価値重視、である。前者に従えば、所蔵は出版点数に近くなるであろうし、後者では採用された価値の論理に従ってメリハリのついた所蔵を行うであろう。後者における「価値」にもいくつかの基準が考えられる。b1.需要重視(新刊書籍市場での売上が目安となる)、b2.その他の価値基準重視──例えば、専門的な読者の嗜好(書評数などから推定できる)、特定の内容(分類)、出版社あるいはシリーズの信用など──である。この報告では、所蔵がこれらのどの論理に近いかを検証する。もっとも、論理の採用が二者択一的であると想定しているわけではなく、「どの程度それぞれの論理に従っているか?」という程度の問題として考える。
(2) 上の試みのために、書籍各タイトルの公立図書館の所蔵数と、上記の論理を表現する各種情報源(ベストセラーリストや書評)あるいは各タイトルの属性(出版社や分類番号など可能な限り客観的に把握できる属性)とを対照させる。
所蔵調査の対象となった書籍タイトルは、2004年4月〜6月発行の新書234点である。それぞれは岩波新書、講談社現代新書、中公新書ラクレ、日経文庫、など14社20シリーズに属する。新書という性格はある程度読者層を限定するが、読み易さや価格が与える所蔵への影響を考慮しなくても済む。また、内容もさまざまでジャンルも多岐にわたっている。同程度の難易度で似た価格、しかも同じ時期に発行された書籍群という条件において、公立図書館がどのような論理に従って蔵書を構築してゆくのかを理解するのに新書は適している。
調査対象館は、全国18都道府県の市町村立図書館276館である。中央館を単位とし、分館は含まれていない。(OPAC検索の容易さを理由にこれらの館が選ばれている)。データは2005年2月中のものである。
(3)まず、aとbの論理をどの程度採用しているのかを検証した。234点すべてを購入している館は一館だけである。一方、一タイトル以上複本を購入している図書館は全体の40%ある。したがって、公立図書館は何らかの価値基準に従って所蔵を行っていることが確認できる。
続いて、所蔵がどのような価値基準に従っているのかを検討した。書籍市場での需要の多さ、出版社、分類などと所蔵を比較した。ベストセラーリストに載るような目立つタイトルは所蔵されるが、それ以外のタイトルの所蔵と需要の多さの関係は明白ではない。むしろ、全体としてはシリーズの持つ信用の影響が大きく見える。一方、書評数や分類などの影響はそれほど無いようである。


No.8
◆氏 名  大庭 一郎/田上 文子
◆所 属 筑波大学 大学院 図書館情報メディア研究科(大庭)
       鳴門教育大学附属図書館
◆発表題目  カリフォルニア州の公共図書館における雑誌の所蔵調査:Readers' Guide収録対象誌を用いた分析
◆発表要旨
 近年,日本の公共図書館のレファレンスサービスにおいて,情報源としての雑誌の重要性が指摘されるようになってきた。しかし,従来,日本の公共図書館のレファレンスサービスでは,情報源としての雑誌が十分に活用されてこなかった。そのため,現在でも多くの公共図書館において,雑誌のバックナンバーや雑誌記事の探索手段(レファレンスツール)が不十分な状態である。一方,米国の公共図書館では,以前から雑誌の重要性が指摘されていた。しかし,米国の公共図書館が,レファレンスサービスに利用できるような雑誌を,何タイトルくらい所蔵しているのか,どの程度の期間,どのような媒体で保存しているのかということについては,十分に明らかにされていない。そこで,本研究では,日米の公共図書館における雑誌に関する議論をまとめた。そして,米国の一般雑誌の雑誌記事索 引であるReaders' Guide to Periodical Literature(以下,Readers' Guideと略す)を用いて,カリフォルニア州の公共図書館における一般雑誌の所蔵状況を調査・分析した。
 研究方法としては,文献調査とReaders' Guideを用いた所蔵調査を用いた。所蔵調査においては,まず1900年から2003年までのReaders' Guideの累積版(vol.1-63)から,104年分のデータを集計した。タイトルが変遷しているものを現在の誌名へと一本化した上で,Readers' Guideに20年以上収録されている253誌を抽出し,調査用のチェックリストを作成した。その上で,カリフォルニア州の公共図書館11館を対象に,Web版もしくは冊子体の雑誌目録を用いて,各調査対象館の所蔵状況を調査した。  研究の結果,以下の事柄が明らかになった。

  • 米国では,新聞は日本の全国紙に相当するものが存在せず,ほとんど都市単位の地方紙である。しかし,雑誌は,全国レベルで読まれ,米国を代表するような国民的な雑誌が存在する。一方,日本の新聞には全国紙は存在するが,日本の雑誌には米国のような国民的な雑誌は存在していない。
  • 米国には,日常生活でよく使われる雑誌記事を探すことができるレファレンスツールがある。Readers' Guideは米国の一般雑誌の雑誌記事索引(1901年創刊)であり,Readers'Guideの収録対象誌には,米国の国民的な一般雑誌だけでなく,有名な専門誌も収録されている。
  • 調査対象館の中で,大規模図書館は,チェックリスト253誌の所蔵率が90%を超えている。他の調査対象館においても,所蔵率は60%を超えている。
  • Readers' Guide収録対象誌が,Readers' Guideに収録されている期間において,各調査対象館が所蔵している比率は,40〜91%とばらつきがある。大規模図書館においては,80%を超えている。
  • 媒体別の所蔵状況は,各調査対象館によって異なっている。雑誌が,冊子体で所蔵されている場合も多く,マイクロ資料が所蔵の中心であるとは限らない。
  • 中小規模の公共図書館においても,雑誌記事の全文を提供している商用データベースの導入により,バックナンバーの不足分を補い,大規模図書館レベルの雑誌を利用できる環境が整えられている。


No.9
◆氏 名 Shaney Crawford
◆所 属 筑波大学 図書館情報メディア研究科
◆発表題目 カナダにおける図書館アドボカシー (Library Advocacy in Canada)
◆発表要旨
本研究は、カナダにおける図書館アドボカシーの実態を解明し、それを分析することを目的としている。カナダにおけるアドボカシーを理解することにより、カナダだけでなく世界的に図書館アドボカシーの取り組みを改善するための基盤を得ることができるであろう。
アドボカシーとは、「図書館に影響を与え得るような政治的決断を下す人たちに、図書館および図書館界の活動に十分配慮させるため、図書館員および図書館協会の職員をはじめとする図書館界が行う継続的な取組み」と定義でき、図書館は国の教育・福祉基盤に必要不可欠な要素であるが、その存在と機能は、政治環境の変化によって脅かされる可能性が大きい。
本研究ではアドボカシーの展開をLibrary Book Rate (LBR)を用いて明らかにする。LBRとは、図書館がカナダ国内の他の図書館や個人宛に本を送る際に利用できる郵便料金の優遇制度である。この優遇制度は、カナダ連邦政府の方針に基づいて、刊行物支援計画(Publications Assistance Program)の一環として行われている。LBRは1939年から実施されており、図書館界では1967年以来、この制度を維持するため、多様なアドボカシーの取組みを続けている。その中心的役割を担っているのが、カナダ図書館協会、フランス語を話す人を対象とした図書館協会ASTED、カナダ国立図書館、および連邦政府、カナダ郵政公社である。
本研究は、1960年代から現在まで行われてきたアドボカシーへの取組みの歴史を詳細に検討することにより、カナダの図書館アドボカシー活動の特徴を明確にし、図書館界が自らの利益を守るときに直面する問題を探ろうとするものである。LBRのアドボカシー活動は、1960年代後半にはカナダ郵政省との直接的な話し合いによって行われるものであった。1970年代後半に郵政事業が連邦政府から事実上分離し、国営企業として独立すると、ロビー活動の相手は連邦政府となり、連邦政府が郵政公社と交渉するという二段階方式がとられるようになった。最近ではプロのロビイストを利用したり、図書館界の主要なメンバーが直接国会議員に接触したりすることも一般化した。
カナダの図書館アドボカシーでは、党派の枠組みを超えて活動し、政治家より官僚に接触することに重点を置く。アドボカシーには活動期と休止期があり、近年ではこの活動期と活動期の間隔が短くなってきている。アドボカシーを成功させるためには、リーダーの存在が重要となるが、そのリーダーが交代すると、手法も変化せざるを得ない。また、カナダの図書館界では、説得術の有効性がよく理解され、アドボカシーに対する研究の重要性も認識されている。
カナダでの図書館アドボカシーの課題は、図書館界がコントロールできる因子とできない因子とに分類できる。図書館界は、アドボカシーの時期や関係議論の秘密保護の必要性に関しては、一定程度コントロールできる。内部の意思疎通を改善し、成功と失敗をどのように定義するかも自ら決定することができる。しかし、図書館界の主張がどの程度政界に受け入れてもらえ、どの程度情報を提供してもらえるかといった点や、特定の問題に長期にわたり取組んでいるときの関係者に蓄積される疲労の程度などをコントロールすることはできない。
本研究では、アドボカシーが多彩な因子を巻き込んだ複合的な過程であることを明らかにする。この複合性ゆえにアドボカシーの成否と特定のキャンペーンに投入した労力の大きさとはほとんど相関関係がみられない。図書館界に求めるものを最も効率よく獲得するためのアドボカシーの展開方法を知るには、さらに研究を進める必要がある。


No.10
◆氏 名 三輪眞木子、村主朋英、竹内比呂也、吉田右子、辻慶太、柴田正美
◆所 属: 三輪眞木子(メディア教育開発センター)
       村主朋英(愛知淑徳大学)
       竹内比呂也(千葉大学)
       吉田右子(筑波大学)
       辻慶太(国立情報学研究所)
       柴田正美(帝塚山大学)
◆発表題目 大学における司書・司書教諭教育の実態
◆発表要旨
【研究目的】本研究は「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する調査研究」(略称LIPER)の図書館情報学教育班の調査の一環として行われたもので、LIPER教育班は、日本の高等教育機関における図書館情報学の教育目標、教育体制、カリキュラムの現状を明らかにする目的で、2003年4月以来調査を実施してきた。2004年春には「日本における図書館情報学・司書・司書教諭教育の現状」という演題で2003年から2004年にかけて実施したケーススタディの結果を報告した。今年度は、ケーススタディから得られた仮説に基づき、2004年10月に実施したアンケート調査結果を報告する。
【研究方法】司書資格・司書教諭資格を付与している日本の294大学の学長宛に2004年10月15日付で8ページのアンケート票を送付し、12月末までに228大学から有効回答を得た(回答率78%)。
【得られた結果の概要】回答した大学のうち、司書資格を付与しているもの(司書課程・通信制司書課程・司書講習を含む)は186、司書教諭資格を付与しているもの(司書教諭課程・司書教諭資格科目・司書教諭講習を含む)は173、両資格を付与している大学は128であった。
回答大学が2003年度に司書資格を与えた学生数の合計は9,210名であり、年間1万人以上の者が司書資格を取得しているものと推定される。司書教諭資格は回答大学で合計9,612名に付与されており、資格取得者は年間1万人以上と推定される。
以下では、調査結果の分析から得られた司書資格を付与している186大学の傾向を示す。

  • 司書資格を取得するために必要な単位数は21-24単位とする大学が最も多く、短期大学は20-24単位のものが8割近い。
  • 司書資格取得に実習(単位あり)を含めているのは69大学(37.1%)である。
  • 文部科学省の省令で1単位とされている科目については、全てを1単位で開講する大学もある(25.3%)が、一部を2単位で開講(25.8%)、全てを2単位で開講(11.8%)のように、2単位科目で開設している大学もある。また、複数の1単位科目を合併しているケース(17.7%)もある。
  • 司書資格科目を卒業に必要な単位として認めるかどうかについては、全て認める(13.4%)、一切認めない(31.7%)、一部認める(40.1%)のようにばらつきが大きい。
  • 教員数については、専任教員が僅減している一方、非常勤講師が増加している。
  • 学生数については、やや増加傾向がみられる。学生の就職先では、専任の図書館員になる者が減少している一方で、図書館の非常勤が若干増加している。
  • 司書資格の規定について、学則で定めている大学は(81.2%)、学部規則で定めている大学(8.7%)、履修案内に記載しているもの(36.0%)がある一方、いずれにも記載していない大学(2%)もある。
司書資格を付与する186大学と司書教諭資格を付与する173大学について、大学種類および設置形態別にクロス集計を行い、傾向の違いを探求した結果、日本の大学における司書教育・司書教諭教育の概要がおおむね把握できた。


No.11
◆氏 名 安井 一徳
◆所 属 国立国会図書館
◆発表題目 「選書ツアー」はなぜ批判されたのか 〜論争の分析を通して〜
◆発表要旨
(1)研究目的
 公共図書館における図書選択について調査・検討している中で、「選書ツアー」という耳慣れない催しに出会った。これは一般の住民が図書選択のプロセスに参加するもので、要求論的立場の人たちが主導して行っているものであろうと当初は思い込んでいた。なぜなら伊藤昭治らの要求論的な「現場の理論」を突き詰めれば、住民と図書館員の「共同作業」としての図書選択に至ることは自明だったからである。だが少し調べてみると、実態はその予想と正反対のものであることがわかった。つまり、伊 藤らの理論を支持していると思われる日図研・図問研系の図書館員たちは、軒並み選書ツアーに仮借ない批判を浴びせていたのである。 この点について釈然としない思いが拭えなかったので、選書ツアーに関する論争を分析することで不可解な構図を少しでも解きほぐそうと考え、この研究を行った。
(2)研究方法
 研究の方法としては、各種の図書館関係雑誌に掲載された選書ツアー関連の文章を可能な限り収集し、それらの言説を整理・分析することにより考察を加えるという手法に拠った。その際の枠組みとしては、日本の図書選択論における「現場の理論」と「研究者の理論」との対立構造を前提にし、それが選書ツアーに関する言説とどう関係しているのかという点も踏まえつつ検討を行った。特に選書ツアー反対派が依拠する要求論的な「現場の理論」を中心に分析している。
(3)得られた成果
  選書ツアーに関する論争及び「現場の理論」を考察した結果、「現場の理論」の副次的な機能として、@図書館員と市民との間の対立局面が一切ないことにされる、A一切価値判断をしない図書館員の存在が正当化される(または問題化されない)、という側面が導き出された。選書ツアーはこの2点を揺るがすものになる可能性がある。したがって図書館員たちにとって純理論上は歓迎すべき試みであっても、実際には批判せざるを得なかったのだと考えられる。「現場の理論」は基本的には高い整合 性を持った理論であるが、都合の悪い部分(例えば要求の制限)をできるだけ見せないようにする志向性が強く働いている。選書ツアーは、「現場の理論」のそうした歪みを図らずも露呈することになったと言え、今後の図書選択論を構想するうえでの重要な素材の一つになりうると考えられる。


No.12
◆氏 名 黒川雅子・坂田仰
◆所 属 黒川雅子(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)坂田仰(日本女子大学)
◆発表題目 学校図書館を巡る学校スタッフの協働に関する研究−A県B市立小・中学校の調査から−
◆発表要旨
(1)本研究は、「公立学校における学校スタッフの協働に関する研究−開かれた学校という視点から」(2004(平成16)年度科学研究費)の調査データに基づき、現在進行中の教育改革において一つの柱を形成している「協働」という視点から、学校図書館を巡る学校スタッフの協働についての現状と課題を分析することを目的とする。
(2)調査は、A県B市の教育委員会と共同し質問紙形式で行った。調査対象は、B市が設置する全小・中学校(小学校8校・中学校4校の計12校)の関係教職員とし、校長並びに司書教諭・学校図書館担当教員各1名ずつから回答を得た。調査方法はメールサーベイにより、B市教育委員会教育長名でB市教育委員会所管の学校教育支援センターの指導員から各校校長宛で郵送し回収した(回収率は100%)。
(3)司書教諭の配置等、学校図書館の役割が見直され、その教育効果に脚光が集まっている。しかし、公立学校における司書教諭の配置方法は原則的に兼担であるため、学校図書館の教育効果を向上させるには、その他の学校スタッフと司書教諭・学校図書館担当教員との「協働」の必要性が高 いといえる。そこで、学校の現状は、学校図書館の役割が注目されているにもかかわらず、司書教諭がその職務を果たすには十分な体制が整っていないという仮説を立て、本調査に行うことにした。司書教諭・学校図書館担当教員は、学校図書館の運営を巡る学校スタッフの協働に関して、学校図書館を主に担当する学校スタッフ間の協働については約3割の回答者が、学校図書館担当の学校スタッフとそれ以外の学校スタッフ間では約1割の回答者が、「うまくいっている」と回答した。最大の課題は、「司書教諭・学校図書館担当教員の多忙さから協働がうまくとれない」という点にあり、この点については、校長の認識にも一致が見られる。現状改善のために司書教諭が求めるものの回答は、順に時間の確保・人員の確保・給与の増額であった。司書教諭・学校図書館担当教員が、教職員全体に対し て、学校図書館運営を学校全体で取り組むべきものと改めて認識してもらいたいと願う一方、教職員向けの広報活動や学校図書館に足を運んでもらうための雰囲気作りを積極的に行っていない現状が浮かび上がってきた。また、校長が、現在の司書教諭に発令した理由としてあげた「資格保有者であれば誰でもよかった」という回答や、司書教諭が、司書教諭の発令を受け兼担したメリットは「特にな い」という回答のように、消極的な意見も存在する。本調査結果から学校図書館を巡る学校スタッフ間の円滑な協働体勢を構築するには、司書教諭・学校図書館担当教員が、職務の遂行に使用する時間を十分に確保する方策について、優先的に考察していく必要性があることが明らかとなった。


No.13
◆氏 名 竹内比呂也、辻慶太、三輪眞木子、村主朋英、吉田右子、柴田正美
◆所 属:
竹内比呂也(千葉大学)
辻慶太(国立情報学研究所)
三輪眞木子(メディア教育開発センター)
村主朋英(愛知淑徳大学)
吉田右子(筑波大学)
柴田正美(帝塚山大学)
◆発表題目 司書・司書教諭資格取得希望学生の意識についての調査
◆発表要旨
(研究目的)
 本研究は、専門職としての就職が困難であるにもかかわらず、司書資格あるいは司書教諭資格の取得希望者が必ずしも減少していない、また司書課程を新設する大学もあるという現状を踏まえ、資格取得希望者がどのような受講動機や図書館での経験などを持っているかということ明らかにしようとしたものである。この調査に先立ち、図書館情報学教育の現状についてのケーススタディを行い、その際担当教員インタビューを行っているので、その結果を踏まえた調査となっている。
(研究方法)
 2004年5月から8月にかけて、全国18大学(短期大学を含む)の司書課程・司書教諭課程の初学者を対象に、初学者アンケート調査を実施した。調査対象大学は、ケーススタディに協力いただいた大学を中心にスノーボールサンプリングにより選定した。調査対象者としては、司書課程・司書教諭課程科目を初めて履修する学生、あるいは図書館情報学専攻等で専門教育を行っている大学において専門教育をはじめて受講する学生をターゲットとし、授業中のアンケートの実施を各調査対象大学の図書館情報学教育科目(司書資格・司書教諭資格科目を含む)担当の教員に依頼した。
どの科目で実施するかは各大学の事情によるので指定せず、上記の条件を満たす学生が受講している授業での実施を依頼した。しかしながら実際にはすでに数科目を受講した学生も含まれた。
(研究結果)
 18大学において、1,901の回答を得ることができたが、一定の条件を満たしていないものを無効としたため、有効回答数は1,810であった。この結果からは、全体的な傾向として以下のような点が明らかになった。すなわち、1)回答者は図書館に対してポジティブ(明るい、知的な、開放的)なイメージを持ち、図書館での経験が司書・司書教諭資格取得への態度や意欲に影響を及ぼしていると自ら認識している。2)資格取得を思い立ったのは、全体では「大学入学後」が最も多かったが、図書館情報学専門課程の学生では、「高校時代」が多かった。3)司書・司書教諭資格以外の資格では、司書課程の学生では「パソコン検定」が多い。4)司書資格取得希望者は、「本が好き」な者が90%以上である、5)「図書館」で思い浮かべるものは、「近くの公共図書館」が多いが、司書教諭資格取得希望者は「大学および中高の図書館」が若干多い傾向がみられる、6)「図書館」は「調べものをするところ」と答えた学生は、男性が女性より多い、7)図書館情報学専門課程受講者は、その他の学生と比較して、図書館は「様々な情報を入手するところ」と答えた者が多く、「本を借りるところ」と答えた者が少ない、8)将来の職業との関連では、司書資格取得希望者が「少しでも学んだことを生かせる職場」と答えた者が多い。また、特に受講意欲が強く、司書として働くことを強く希望する学生についての分析を行っているので、その結果の詳細についても報告する。
 なお本研究は「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する調査研究」(略称LIPER)の図書館情報学教育班の調査の一環として行われたものである。


No.14
◆氏 名 小田切 夕子1、 宇陀 則彦2、 永田 治樹3
◆所 属 1筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
      2筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
      3筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター
◆発表題目 学術情報アクセスにおけるリンキングプロセスの研究:適合性判定実験による文献選択行為の認知的分析
◆発表要旨
目録カードと学術雑誌総合目録が主な所蔵確認の道具であった頃の大学図書館において、文献データベースあるいは二次資料で見つけた文献情報から論文のコピーを入手するまでの経路は、時間と労力は要するが利用者からみれば単純であったと言えるだろう。現在では、デジタル情報資源の登場に伴い、その形態の多様化が保管場所の多様化と提供方法の多様化を生み、必要な文献を入手するための経路は複雑化した。一方、エンドユーザ検索が一般化したデータベースの検索環境も、蓄積されたデータ量の増加、提供される検索システムとそこから得られる出力結果の多様化という問題を抱えている。
かつて情報検索における利用者志向の研究において、利用者の問題状況をいかに検索システムに反映させるかについては、仲介者エキスパートシステムという成果へと結びつき、また利用者の情報要求の発生から探索そしてデータベース検索に至るプロセスには、多くの研究成果が残されている。しかし、現在では、検索の実行後から原報を入手するまでの過程においても多くの問題を抱える状況となった。この過程に関しては、検索結果の適合性判定に関する研究や、フルテキストへのリンキングに関する研究などがあるが、前者はあくまでも検索システムへのフィードバックの視点からの研究であり、両者が利用者の情報探索のプロセスとして関連付けられているわけではない。検索結果の選択過程をリンキングプロセスとして位置づけ、利用者に情報アクセスのための明確なパスを提示すること が必要である。
本研究はそのための基礎研究として、適合性判定の実証実験を行い、適合性判定のプロセスを利用者の認知的側面から分析し、文献を選択するプロセスをいかにリンキングシステムにつなげるかについて検討した 被験者は、図書館情報学、獣医学、動物応用科学を専攻する学部学生と大学院学生(修士)の7人である。被験者自身の検索要求に基づきJSTPlus(JDream)を検索し、プリントアウ トした結果に対して、注目する箇所にマーキングを行いながら適合性を判定した。判定の過程をすべて発話する発話思考法により被験者がどの様な内的プロセスを経て判定を行うかのデータを収集し、プロトコル分析を行った。プロトコル分析の結果、適合性判定のプロセスにおいて利用者は原報内容を予想、類推しながら判定を行っていることを支持する結果が得られた。また、適合性判定の基準としては、「主題性」が最も多く、次いで「文献あるいは文献が扱う内容の種類・レベル」、「新奇性」、「被験者との関連性」、「権威」、「新しさ」などが確認された。また、キーワード情報あるいは利用者自身の経 験に基づいた知識を用いる発話も確認された。以上の結果を用いて、リンキングプロセスについて検討を行った。


No.15
◆氏 名 松本 直樹
◆所 属 東京大学大学院教育学研究科
◆発表題目 図書館と地方議会との関係に関する分析
◆発表要旨
1. 研究目的:
 近年,地方分権が叫ばれ,不十分とはいえ,権限,財源が中央政府から地方自治体へと移譲されている。そうした中,自治体は,政策の立案主体として,自律性を高めると同時に,地域性を組み込むことが要請されている。地方議会は,自治体における二元代表制の一翼を担い,地方自治における住民自治を実現する上で,制度的な機関として重要である。首長の強い権限に比較すると,能力に限界があると言われるが,一定の行政監視機能を担っているとの研究も存在する。また,地方分権推進委員会の第二次勧告でも議会機能の拡大,活性化が指摘されている。図書館は,執行機関に属し,そこから予算や人などの資源を調達しているが,同時に,議会の動向とも無関係でないことは,これまでも経験的に指摘されてきた。こうした地方議会について,図書館との関係を検討する。
2. 研究方法:
 埼玉県内基礎自治体の地方議会を対象とし,2つの手法を用いて分析を行う。一つは,議会議事録の分析であり,一つは議員へのインタビューである。議会議事録の分析については,定例会の一般質問を対象とし,図書館に関する発言を分析する。地方議員が執行機関に影響を与える機会としては,議会内の発言に限定されないとも言われるが,議員の主張が顕在化する場として基本的であり,重要と考える。分析では,扱われるテーマ,関心をよせる議員の属性(性別,政党・会派等),そして,それらと図書館のおかれた環境(設置状況),活動(アウトプット)等との関係について取りあげる。つぎに,図書館に関し,頻繁に発言を行う議員に対し,インタビューを行い関心をもった背景などについて調査を おこなう。
3. 予想される成果:
 本稿の検討により,議会と図書館との関係に関し,実証的データを提供することができると考える。これまでも大きなイシューに対する議会の影響は指摘されてきたが,ルーチンの図書館運営にどのような関心が寄せられているのかも明確にできると考える。このことは,地方レベルの政策決定が実質的に大きな影響をもっている基礎自治体レベルの図書館行政にとって,重要な知見になる思われる。


No.16
◆氏 名 上田 洋、村上 晴美
◆所 属 大阪市立大学大学院 創造都市研究科
◆発表題目 携帯OPACの高度化 - 主題検索、配置画像表示、内容表示機能の試作 -
◆発表要旨
 現在の携帯OPACは、初期の携帯電話の仕様にあわせて開発されている。近年の携帯電話の大画面化や高解像度化、パケット定額制サービス等の割引サービスの開始によるデータ通信料の低価格化、第3世代携帯電話の登場によるデータ通信速度の高速化など、携帯電話が進化しつつある。これら携帯電話の進化にあわせた高度な機能の追加や、既存機能の設計変更が必要であると考える。
 本研究では、携帯OPACの高度化を目指して、主題検索機能、配置画像表示機能、内容表示機能の実装方法について、ユーザインタフェースに焦点をあてて検討する。本研究における、携帯OPACの高度化とは、古い携帯電話にも配慮しつつ、新しい携帯電話にあわせた高度な機能を実現することである。具体的には、インタフェースの設計変更と高度な検索機能の実現を目指す。
 携帯OPACの高度化を目指し、プロトタイプシステムを開発した。
 わかりやすいインタフェース設計として、検索条件入力画面は、文字入力部をひとつとし、項目選択は操作回数の少ないラジオボタンを使用することとした。検索結果表示画面は、概念検索と蔵書検索の2種類の検索結果を表示することとし、Yahoo!のディレクトリ検索の結果表示画面を参考に、概念を画面上部、蔵書を画面下部に表示するインタフェース設計を行った。
 件名や分類に関する知識のない利用者でも主題検索機能を利用できるようにするため、件名や分類を関連語として提示することとした。
 カメラ付携帯電話の普及にあわせて、携帯電話で高精細な画像の表示が可能となったため、地図情報や写真画像などが表示できるようになった。画像情報は、文字情報では表現しにくい地図のような情報を、分かりやすく表示することができる。プロトタイプシステムでは、配置場所の案内地図を画像で表示を表示することとした。携帯電話の画面はPCほど大きくないため、限られた範囲の配置場所しか表示できない。限られた範囲の配置場所の表示であっても、一目で蔵書の配置場所がわかるように、画像上の蔵書が配置されている位置に円を描くこととした。
 内容情報は、蔵書を探す上で重要であるが、現状ではほとんどの携帯OPACにおいて、書誌情報より詳しい内容に関わる情報は表示されていない。プロトタイプシステムでは、Amazonの書評情報である「カスタマーレビュー」を内容情報として表示することとした。
 大阪市立大学の学部学生を利用者としてプロトタイプシステムについての実験を行った。その結果、システムが実際に学生の持つ携帯電話で動作すること、キーワード検索機能と内容表示機能の有用性、概念・蔵書一覧表示画面の表示の有効性、を確認した。しかし、BSH4・NDC9を用いた関連語提示機能と配置画像表示機能の有用性については、検証できなかった。今後、これらの機能に関しての有用性の検証を行いたい。


No.17
◆氏 名  三根慎二,汐崎順子,國本千裕1),石田栄美2), 倉田敬子,上田修一3)
◆所 属 1)慶應義塾大学大学院文学研究科,
   2)駿河台大学文化情報学部,
   3)慶應義塾大学文学部
◆発表題目  眼球運動からみた子どもの絵本の読みと理解
◆発表要旨
(1)研究目的
 読書論および眼球運動研究においては,a)子どもが,b)絵本をどのように読んでいるのかについては実証的研究が行われておらず,その実態を把握することを目的として昨年度より調査を継続している。眼球運動測定とは人がいかに対象物を見ているのかを測定する手法であるが,これにより絵本という絵と文字が混在したメディアを子どもはどう読んでいるのか,たとえば絵本のどの部分にどの程度の時間にわたって停留しているのか,どのような視線の軌跡をとるのかなどについて詳細なデータを確認することができる。さらに,子どもの読みを,読書経験,絵本の絵や内容に関する再認テスト,理解度テストといった方法によって補足的に測定する。
 本発表は,これまでの調査結果と継続調査の分析結果から新たに得られた成果をもとに,特に子どもがいかに絵本を読んでいるのかについて,新たに明らかになったパターンや文法を中心に報告するものである。
(2)研究方法
 上記の目的のもと,小学校中学年(3〜4年生)の男女9名を被験者として,絵本「もりのふゆじたく」を読んでもらい,彼らのa)眼球運動の測定,b)絵に関する再認テスト,c)内容に関する確認テスト,d)読書経験に関する質問紙調査およびインタビューを行った。
a)眼球運動の測定
 アイマークレコーダ(ナック社製EMR-8:帽子型)を使用し,被験者が絵本を読んでいる際の注視点を記録した。そのデータをもとにコーディングを行うことで,被験者の視線の停留箇所,停留時間,軌跡を解析した。
b)絵に関する再認テスト
   被験者に絵本の「絵」に相当する箇所をコピーした12枚のカードを提示し,それらの選定本における有無を尋ねた。12枚のうち,6枚は実験に用いた絵本,残り6枚は別の絵本(同作者による同シリーズの別の作品)から選び,両者を混ぜた上で使用した。
c)内容に関する再認テスト
 実験で使用した絵本の登場人物やストーリーなどに関して,正誤を判定する簡易テスト10問を行い,被験者の絵本に対する理解度を測定した。
d)読書経験に関する質問紙調査およびインタビュー
   被験者およびその保護者に対して,読書経験,絵本,書籍,漫画への嗜好に関する質問紙調査とインタビューを行うことで,被験者の読書に関する背景情報を確認した。
 最終的に,1)と2)3)4)とで得られたデータ間の関係から,総停留時間の比較,文字数と停留時間の関係,絵と文字の停留時間の比較,視線の変移,視線軌跡のパターン化などを調査した。
(3)予想される成果
 本調査により,停留箇所や視線パターンなど子どもの絵本の読みに関する基礎的な知見を得られることが予想される。


No.18
◆氏 名 岸田和明・金文
◆所 属 岸田和明:駿河台大学文化情報学部
       金文:駿河台大学文化情報学研究科修士課程
◆発表題目 言語横断検索のための質問翻訳と文書翻訳との組み合わせ方式の検討
◆発表要旨
(1)研究目的:言語横断検索の方法としては質問を翻訳する方法と文書を翻訳する方法とがある。一般には、実装の容易さから質問翻訳が利用される傾向にあるが、最近、文書のほうも同時に翻訳しておき、質問翻訳との結果を組み合わせる「ハイブリッド方式」が提案され、高い性能を示している。しかし、この方式についてはまだ研究成果の蓄積が十分でなく、よくわかっていない部分も多い。そこで、本研究では、中国語の検索質問に対して日本語の文書を検索する場合を取り上げ、テストコレクションを使って、ハイブリッド方式の実証分析を試みる。
(2)研究方法:国立情報学研究所のテストコレクションNTCIR-3を使って、ハイブリッド方式に関する検索実験を試みる。検索システムとしては、駿河台大学で開発された検索エンジンADOMASを使用する。中国語の検索質問を日本語へ翻訳するには、機械翻訳ソフトウェアを用いる。一方、日本語の文書を中国語に翻訳するには、文書データの規模が大きいため、機械翻訳システムは使えない。
そこで、機械可読型の対訳辞書を使った置換によって、文書を擬似的に翻訳する。ただし、日本語から中国語への直接的な対訳辞書を利用することができなかったため、インターネットからフリーで入手できる日本語・英語対訳辞書と中国語・英語対訳辞書とを用い、英語を仲介言語とした、いわゆる「ピボット言語方式」を使用した。以上の質問翻訳と文書翻訳のそれぞれを使って、標準的なOkapi方式で文書得点を計算する。各文書について2種類の得点が計算されるので(これをそれぞれxとyとする)、線型結合z=ax+(1-a)yによって、最終的な文書得点zを求めた。この線型結合の方式はおそらく本研究の独自のものである。本研究では、このパラメータaとしてどの程度の値が最適であるかの検討も試みる。
(3)成果:質問翻訳を単独で使った場合や文書翻訳を単独で使った場合に比べて、ハイブリッド方式の平均精度はわずかながら上回った。また、再現率の低いレベルでは、標準的なベンチマークである人手による質問翻訳の性能をも超えることがわかった。しかし、その性能向上はわずかであり、対訳辞書による文書翻訳の品質をさらに向上させる必要があることも明らかとなった。


No.19
◆氏 名 河西 由美子(LIPER学校図書館班)・堀川照代(同)・根本彰(同)
◆所 属 玉川大学教育学部教育学科通信教育部
◆発表題目 学校図書館運営担当者を対象としたフォーカス・グループ・インタビュー調査に関する報告 −LIPER(情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究)学校図書館班−
◆発表要旨
(1)研究目的
 LIPER(情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究)学校図書館班では、2003年度の調査研究開始より関係分野有識者へのヒアリング等を経て、2004年度は学校図書館の業務分析のための全国的な質問紙調査を実施した。それぞれ日本教育工学会(2004年9月)および日本図書館情報学会(2004年11月)において中間報告を行っている。
 質問紙調査の分析結果を通して現状の学校図書館における業務の中でも特に「ITの導入」、「教授のための教職員支援」の2つの柱に関して特徴的な結果が得られたことから、その背景的な要因を探るため、質問紙調査に回答を寄せてくれた対象校の中から、上記2種類の業務内容評価のポイントの上位・下位に位置する6校を抽出し、2005年1月にフォーカス・グループ・インタビューを実施した。
(2)研究方法
 フォーカス・グループ・インタビューは、マーケティングや政策提言などに活用されてきたデータ収集の手法であり、テーマに対する多様な意見を、グループダイナミクスの効果を利用して収集することを狙いとしている。量的に処理される質問紙調査では掬いとれない背景情報などを探索したり、調査側が想定しなかった要素を発掘するのに有効であると言われ、仮説生成のために用いられる場合が多い。分析には質的研究法を用いる。
 今回はカテゴリ分析を行い、インタビューのシナリオに沿って展開された情報提供者の発言に対し、主分析者1名、副分析者2名によるカテゴリ生成を行った。
(3)予想される成果
 本稿執筆時まだ分析の過程にあるため詳細を表示することができないが、以下のインタビュー構成の中から複数のカテゴリが生成され、学校図書館運営および専門職養成の課題としていくつかの要素が抽出されると予想される。

  • 専門家として周囲からの期待を感じているか
  • 司書教諭あるいは司書資格取得のための学習は役に立っているか
  • 学校図書館専門職養成内容の難易度の将来的な方向性について
  • 将来の資格・制度への態度
 本調査の結果を踏まえ、2005年度は最終報告に向け、さらなる調査研究を進めていく予定 である。


No.20
◆氏  名  永田治樹、戸田愼一、逸村裕、小山憲司、斉藤泰則、鈴木正紀、高橋昇
◆所  属  筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目  大学図書館における情報専門職に関する調査: LIPER大学調査班質問紙調査
◆発表要旨
(1) 研究目的
 本研究は、「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究(Library and Information Professions and Education Renewal: LIPER)」の一環として、大学図書館における専門的職員を中心とする人的資源マネジメントのあり方、及び今後の「情報専門職」に求められる要件を把握するものである。この発表では、昨年度秋の研究大会における中間報告に引き続き、大学図書館班が 2004年度に実施した質問紙調査の結果について報告する。
(2) 研究方法
 大学図書館班では、グループインタビュー調査を踏まえつつ、現在あるいは今後の情報専門職にどのような知識や技術が求められているのか、またこれらをどのように習得するのが望ましいかについて、2004年6月末から7月にかけて全国の687国公私立大学図書館を対象に質問紙調査を実施した。調査対象者には、各大学の図書館長、管理職(事務(部)長・課長)、中堅職員、若手職員それぞれ1 名、計4名を設定した。これは、情報専門職に対する考え方や捉え方について、役職や年代、経験等による相違を観察するためである。回答数はそれぞれ382(回答率55.6%)、395(同57.5%)、404(同58.8%)、384(55.9%)であった。調査票は、「図書館長」、「管理職」、「若手・中堅」の3種類を用意し、それぞれフェースシート部分と、「大学図書館員に必要な知識・技術について」、「図書館情報学教育・図書館員養成教育について」から構成されている。これらの回答結果を各グループにおける単純集計のほか、大学の設置主体、大学の規模、グループ間の比較分析等によって、それぞれのグループの認識を確認する。また、1989年に東京大学教育学部によって「図書館学教育の実態と改善に関する調査:大学図書館編」が行われており、その調査結果との比較を試みる。
(3) 予想される成果
 本研究によって得られる知見には次のようなものが考えられる。

  • 現在の大学図書館において必要とされる知識や技術の内容の確認
  • 専門的な知識や技術の習得機会(教育・研修)に対する実務者の意見と期待
  • 図書館長、管理職、中堅職員、若手職員の各グループの情報専門職についての考え方や捉え方の相違
  • 大学の設置主体、規模等による情報専門職についての考え方や捉え方の相違
  • この15年間での大学図書館における情報専門職の意識変化


No.21
◆氏 名 天野 由貴  野添 篤毅
◆所 属 愛知淑徳大学大学院文学研究科図書館情報学専攻
◆発表題目 高校生の情報探索過程におけるメタ認知的記述の分析
◆発表要旨
(1)研究目的
学校図書館において,生徒の情報リテラシー能力育成のためにどのような支援を行えばよいのか,問題解決学習時に,生徒自身が自らの情報探索行動を振り返り,情報探索過程を記録することで,その記録の中から探索行動に影響を与える要因,探索結果に対する生徒自身の評価である情緒的な記述,メタ認知的な記述を抽出し分析し,探索結果における評価と要因,同じく評価と情緒的な記述及びメタ認知的な記述との関連性を明らかにする。
(2)研究方法
高校1年生405名を対象に,1人1問の問題を与え,情報探索実習を行った。また,その探索過程と問題を解決した結果を記入すると共に,生徒自らが探索過程を振り返り,その過程や結果についての評価を選択式のアンケートおよび自由記述方式で答える質問紙調査を行った。調査は,クラス単位(10クラス)で行い,調査時間は,図書館利用指導を含むオリエンテーションを1時間(50分)受けた後,引き続き情報探索実習1時間(50分)を行った。なお,調査終了後,生徒には,解答用紙作成のために1週間の猶予期間を与えた。この調査で回収された解答用紙は405枚のうち306枚であった。306枚の解答については,作成した評価表をもとに評価を行った。
全ての調査結果をデータ化し,情緒的な表現に関する分析にはKuhlthauの分析レベルを,メタ認知的な記述の分析には,BloomのTaxonomyの認知領域における2001年の改訂版から,メタ認知に関する知識の認知過程レベルを分析レベルとして採用しコーディングした。質問項目間の関連性については独立性の検定を行なった。
(3)得られた成果
検定の結果,情報源からの信頼できる情報を選択できる否かが,次回の情報探索行動に大きな影響を与えることが判明した。
解答に基づく評価結果と情緒的表現の記述およびメタ認知的記述の分析においては,実習結果の評価が良い評価であるのにもかかわらず,情緒的レベルでの分析で「不満」と答えた生徒が多いという結果が得られ,自らの探索行動を監視.制御し管理する「メタ認知」が働いていたからと考えられた。情緒的レベルの「不満」は,情報リテラシー能力に関しての「不満」であり,「メタ認知」能力が高ければさらに強まるが,高次レベルの「メタ認知」能力に達し,情報リテラシー能力が身につけばいずれは解消されると考察された。
これらの結果から,生徒の情報リテラシー能力を育成するためには,メタ認知能力を育成することが重要であることが検証された。


No.22
◆氏 名 野末俊比古(のずえ・としひこ)※1、小田光宏(おだ・みつひろ)※2
ふりがな 大谷康晴(おおたに・やすはる)※3、大庭一郎(おおば・いちろう)※4
◆所 属 青山学院大学文学部(※1、※2)、青山学院女子短期大学(※3)、
◆発表題目  公共図書館職員の知識・技術に関する意識等の実態:LIPER 公共図書館班アンケート調査における傾向の分析
◆発表要旨
(1) 研究目的
本研究は、日本図書館情報学会 LIPER プロジェクト実態調査グループの公共図書館班による研究成果の一部である。すなわち、図書館情報学教育のあり方の検討に向けて、まずは「公共図書館の職員は、図書館職員に必要な知識・技術をどのようにとらえているか」という、意識等の実態を把握することを目的とした。
(2) 研究方法
上記目的を達成するため、全国の公共図書館職員(常勤または常勤相当の職員)に対し、アンケート調査を実施した。具体的には、次の通り。

  • 調査時期:2004年9月3日〜10月20日
  • 調査方法:質問紙(郵送)による標本調査
  • 調査対象:『日本の図書館』(日本図書館協会)掲載の公立図書館から、人口規模別に無作為抽出した175自治体の図書館職員(「常勤」または常勤相当の非常勤職員等(週40時間勤務)」)
なお、質問紙は、職員に必要だと思われる知識・技術(領域)を列挙し、それぞれについて、重要度を尋ね(A)、重要だと回答したものについては、「図書館情報学教育で養成すべきか、実務(図書館勤務後)で習得すべきか」を尋ねた (B)。ほかに図書館勤務年数や司書資格の有無などを尋ねるフェイスシートがある。
(3) 得られた成果
サンプル数等は次の通り。
  • 発送図書館(自治体)数:175
  • 回答図書館(自治体)数:120
  • 回答(者)数:1266
  • 有効回答(者)数:1266
 集計の結果、A「現在の公共図書館職員にとって重要なもの」としては、上位(「特に重要」「重要」を合計した回答数)から「レファレンスサービス」「資料選択・蔵書構築」「著作権(知的財産権」「情報検索」「個人情報保護」「コンピュータ・インターネットの利用」... となった。「レファレンスサービス」は「特に重要」との回答が群を抜いて多く、現在の公共図書館職員が注視している領域であることがわかる。また、上位の項目からは、「情報化」に伴う関連技術・法規に強い関心が集まっていることが伺える。
 B「教育で養成すべか、実務で習得すべきか」については、「図書館関係法規・基準」「図書館史」「書誌学」「著作権(知的財産権)」「図書館の自由」... の順で、「図書館情報学教育で養成すべき」と回答した割合が上位であった。
 法制度、理念・歴史などは教育に役割を期待する傾向が見られる。
 さらなる集計および分析の結果は当日、報告する。