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文書館における情報専門職としてのアーキビスト養成

                       安藤正人氏

 国文学研究資料館史料館の安藤と申します。よろしくお願いいたします。今日の研究集会にお呼びいただき,心から感謝申し上げます。

 皆様,よくご承知のように,アーカイブズ,文書館の世界は,日本ではまだ幼稚園段階と言わざるを得ない状況であり,美術館,図書館,博物館の皆様と一緒に,同じ土俵の上で議論をするという段階にはまだまだなっていないかと思います。実際,日本に今,アーキビストがいるのかどうかと問われた場合,まだ本当の意味でのアーキビストはいないのではないか,そこから議論を始めたほうがいいのではないかとすら思っております。

 ましてや,このアーキビストを今後,日本においてどのように養成していくべきなのかということについては,まだまだ模索の段階であり,具体的なアーキビスト養成システムについての構想や,資格制度についての具体的な道筋というものが見えているわけではありません。したがって,本日の研究集会の意図に十分貢献できるかどうか,甚だ不安で,私はもっぱら,他の分野の皆様から学ぶことになるだろうと考えています。

 なお,先ごろ国文学研究資料館史料館から刊行された,柏書房の『アーカイブズの科学』という本のチラシが封筒の中に入っていたと思います。この全2巻の本の中に,「アーキビスト教育論」という論文を執筆いたしましたので,今日はその要点をお話しする形にしまして,報告にかえさせていただきたいと思います。

 なお,私のこの論文の要点につきましては,安澤秀一先生が11月30日に関西のほうで開催される文化経済学会のほうで詳しく紹介していただけるようです。「アーカイブ専門職とアーキビスト教育制度」というタイトルでお話しになるようです。そのレジュメが廊下のところに「自由にお取りください」ということで積み上げられていますので,もしよろしければ,それをお取りいただければと思います。そこに,私の書いた「アーキビスト教育論」の要点が掲載されています。

 私の今日の話は,このように四つの構成をとろうと思っています。主な表につきましては,お手元のレジュメにありますが,それ以外に幾つか,そこに掲載していない文章や表も出てまいります。

 アーキビストというのは,基本的にアーカイブ資料を社会に役立てるための専門的な仕事を担うプロフェッションであると言っておw)きたいと思います。専門的仕事とは何か,あるいはプロフェッションとは何かというお話がそれぞれあるかと思います。ここで深く述べることはできませんが,さしあたり専門的な仕事といえば,アーカイブ資料の保存,管理,活用にかかわる,極めて幅広い,専門的な知識や技能を必要とする一つ,あるいは二つ以上の業務,これを指していると言っておきたいと思います。

 それから,対象となる資料はアーカイブ資料であると今日は申し上げますが,アーカイブ資料,archival materialとは,簡単に言えば,人間が組織体または個人の活動を通じて生み出す一次的(primary)な記録物である。その中で,情報資源として継続的価値を有するもの。媒体のいかんは問わない。一応,そのように定義づけておきたいと思います。

 アーキビストの専門的任務,つまり職務の専門性とは何かということを考える場合,しばしば引用されるのが,イギリスのアーカイブズ学の父と言われるヒラリー・ジェンキンソンという人の「フィジカル・ディフェンス」と「モラル・ディフェンス」という言葉です。実際にはもう少し古い論文から出てきますが,1944年の論文から引用してきました。

 「フィジカル・ディフェンス」,いわば肉体の防御,物理的な防御ということですが,これはアーカイブズをモノとして,外形的破壊から守る。つまり,劣化損傷からの防御ということでしょうが,それだけではなく,形態上の原形保存も含めてのことだと思います。

 これに対して「モラル・ディフェンス」,これは例えて言えば,精神の防御ということなのでしょうが,アーカイブズの内面的特質を破壊から守ることを意味している。ご承知のように,アーカイブ資料というものは,○○県文書,○○会社文書,○○家文書というように,通常は組織体ごとの大きな資料群として存在しているのですが,こういう資料群には内面的な秩序というものがあるのだと。つまり,それぞれの組織体の構造と機能を反映した,有機的構造物としての一体性(archival integrity)があるということが特徴だということです。この資料群が持っているそれぞれ固有の有機的構造物としての特徴,一体性を保持することが肝要だ。これが「モラル・ディフェンス」ということです。

 近年,リバプール大学のマイケル・クック先生が,最近のアーカイブズ学の動向を踏まえて,「モラル・ディフェンス」の読み直しを行っています。それによれば,「w)モラル・ディフェンス」の目的は,アーカイブズの証拠としての重要性を明確にすることであるとして,そのためにアーキビストは,アーカイブ資料群のコンテクスト,つまり,どのような組織によって,どのような文書システムのもとで作成され,保管され,使用されてきたのかということについてのコンテクスト研究をしなければならないと記しています。

 要するに,コンテクスト研究に基づいて,このアーカイブ資料群の体系的構造を保持していくということ,あるいは,しばしばアーカイブ資料群の体系的構造は長い年月の間に崩れている場合が多いのですが,そういう場合には,コンテクスト研究に基づいて,その構造を再編成していく。これが,いわばアーカイブズの証拠性を保障していくことである。それがあらゆる利用者にとっての利益につながるという考え方です。

 「モラル・ディフェンス」という言い方を現代的に読み直した表現であり,この考え方が現在のアーカイブズ学界の基本的な,いわば核心として認められていると言っていいかと思います。

 アーカイブズ資料の受け入れ,編成,提供というアーキビストの伝統的職務を念頭に置いたジェンキンソンの「フィジカル・ディフェンス」と「モラル・ディフェンス」という考え方は,もちろん現在も有効なのですが,それだけでは21世紀の電子情報社会におけるアーキビストの社会的役割を十分に説明したことにはならないと思われます。

 最近の考え方を,アメリカのデヴィッド・ベアマンの議論に見てみたいと思います。デヴィッド・ベアマンさんは,先ほどの水嶋先生のお話にも出てきた方で,最近,日本に来られました。ベアマンの主張を要約しますと,現代社会におけるアーカイブ活動の目的は,第1に,記録を組織活動の証拠,つまりevidenceとして保存公開し,それによって,人権の擁護や歴史事実の検証を保護することである。第2に,組織体がみずからの記録を情報公開することによって,accountabilityを果たし,市民の知る権利と批判の自由を保障することである。その2点になろうかと思います。

 近年の急激な電子情報社会への転換と,情報社会的,情報時代的な民主主義の進展を背景にした考えであり,世界のアーカイブズ界の潮流を代表しているのではないかと考えられます。

これはそのまま,現代のアーキビストが担うべき社会的役割は何かという問題に対する一つの答えを示しているように,私は思います。つまり,evidence(証拠)とaccountability(挙証説明責任)という二つのキーワードを用いて言えば,記録の証拠性を保障して,組織のaccountabilityを実現させることを通じて,民主主義と世界平和の実現に貢献する。これが現代のアーキビストの社会的役割にほかならないのではないかと思います。

 近年,世界のアーカイブズ学界,アーカイブズ界でも,アーキビストの専門性を,従来の伝統的な文化遺産専門職という側面に加えて,情報専門職という側面から説明することが非常に多くなってきました。その場合の情報専門職という意味合いは,多分にベアマンさんが言っているようなアーキビストの社会的役割ということを念頭に置いているのではないかと,私には思われます。

 私のまとめとして,非常にラフな言い方をすれば,現在のアーキビストとは,伝統的な文化遺産専門職としての側面に,現代的な情報専門職としての性格が加わってきた。この2面性を持つ存在,二つの側面を兼ね備えた存在が,現在のアーキビストとして,世界的な一つの通念になりつつあるということではないかと思います。

 そのことは,アーカイブズないしアーキビストの専門的職務を支える学問的体系にも反映していると思います。

 プロフェッションとしてのアーキビストを支えるディシプリン,すなわち,専門分野としての知識と技能の体系は,archival science,archival studiesと世界では言われているのですが,日本語でどのように訳してよいのか,難しいところがあります。私自身,かつては「文書館学」,その後には「史料管理学」,それから「記録史料学」と,いろいろな用語を使ってきまして,混乱の一因をつくった張本人になっています。現在では,カタカナそのままで「アーカイブズ学」と言ってしまおうということになっています。

 お手元のレジュメにもこの表が出ていますが,私はアーカイブズ学を,大きくアーカイブズ資源研究とアーカイブズ管理研究というように分けて考えればどうかと思っています。

 この図は,カナダのアーカイブズ学者である,ブリティッシュ・コロンビア大学のLuciana Duranti教授の考え方などを参考にしながら,また,世界のアーキビスト教育課程のカリキュラム等も参考にしながら,さらに日本の現状等も踏まえて,私なりに考えてみた私案です。

 アーカイブズ資源研究というのは,アーカイブズ資料の素材や属性,存在の意味を科学的に明らかにして,それによってアーカイブ資料としての本質を理解するとともに,情報資源としての活用価値を探求するという研究分野です。それから,アーカイブズ管理研究は,アーカイブ資料となる素材そのものを収集,あるいは保存,保全し,記録資料として広く利用できるように,適切に整理し,永続的な保存公開システムを構築し,それを維持していくための理論と技術を研究する分野と考えています。

 この図では隣接分野との関連までは示していないのですが,言うまでもなく,アーカイブズ学は博物館学や図書館情報学など,いわば兄貴分と言えばいいのでしょうか,隣接領域があります。それはもとより,社会科学,人文科学,さらには自然科学などさまざまな関連分野の協力関係のもとで進めていかざるを得ない学問ではないかと思っています。

 3として,世界のアーキビスト教育の現状を簡単にご紹介したいと思います。

専門職としてのアーキビストの養成は,近代アーカイブズ制度の成立とともにヨーロッパで始まったわけです。1821年にパリに創設された国立古文書学校,Ecole nationale des chartesがその最初と言われているのですが,現在の世界のアーキビスト教育の状況につきましては, 1996年にスウェーデンの国立文書館が国際文書館評議会(ICA)の協力を得て,世界的な調査をした結果があります。それが比較的新しい。最新の状況につきましては,現在,ICAの専門職教育部会(SAE)という部会が調査を進行しておりまして,来年ぐらいにはその結果がホームページで公開されると思います。

 それを見れば,最新の状況がわかると思いますが,今,私の手にあるものの中で一番新しいのは,この1996年の状況ではないかと思います。これによりますと,49カ国に176のアーキビスト養成プログラムがあると報告されています。地域的な内訳は,ヨーロッパが21カ国,74コースということで,40%以上を占めています。次に多いのが北米の2カ国,45コース,約26%ということです。この多くは,大学院または大学院レベルの独立学校です。

 アジアは4カ国,14コース,8%となっていますが,ここで少し問題があるのは,アジアの中で例外的にアーキビスト教育に熱心な中国の20余りの大学が入っていません。それを加えれば,アジアはもっと増えるわけです。

 逆に,後でも紹介いたしますが,日本の国文学研究資料館史料館で行っている研修会,それから国立公文書館の研修会が入っています。これは決してアーキビスト養成大学,養成大学院とは言えないのですが,そういうものも若干含まれています。ですから,必ずしも正確なデータではないのですが,大体の傾向が読み取れると思います。

 司書教育,あるいはキュレーターの教育に比べて,アーキビストの教育は世界的に見て,まだまだ量的にも低いレベルであるということがおわかりかと思います。

 アジアの場合ですが,今ちょっと申し上げましたように,中国はやや例外なのですが,それ以外のところでは,一般的にアーキビスト教育は低調と言わざるを得ません。近年,それでも幾つかの国でアーキビスト教育が始まっています。1998年に私が実施した調査によりますと,インドやパキスタン,あるいはタイあたりで,新しいアーキビスト教育の大学コースが始まっているようです。  特に近年,発展が著しいのは韓国です。韓国では,金大中大統領のもとで,行政記録の保存政策が強力に進められ,1999年1月に「公共機関の記録物管理に関する法律」が制定されました。この法律は,中央並びに地方のすべての公共機関に記録管理機関を設置し,アーキビストを配置しなければならないと定めています。それに呼応して,大学や企業,団体でも,韓国では「記録館」と言うことが多いようですが,そういうアーカイブズの設置が進み始めています。

 そのような動きに対応するために,まず1999年4月に,韓国記録管理学教育院という特別な教育機関が設立され,続いて2002年までの3年間に,木浦大,明知大,釜山大,延世大等,全国12の大学が記録科学,ないしは記録管理学を標榜する大学院課程を設置しました。韓国で記録科学,記録管理学という場合は,archival scienceまたはarchive studiesを指していまして,事実上,アーキビスト養成大学院と見ていいかと思います。

 韓国のアーキビスト養成大学院の大半は単独コースではなく,史学科や文献情報学すなわち図書館情報学,あるいは行政学科等が中心になって運営する大学院共同課程,あるいは特殊大学院という形をとっているようですが,2002年現在の話によりますと,在学生は12大学院合わせて щuタ屋・ぢ人を超えるということで,ここ数年,急激な勢いで教育が進んでいるようです。 カリキュラムは欧米の先進事例を参考にしながら構成されているようですが,それに対して,すでに詳しい分析に基づく批判等も出されており,毎年のように改善が進められているということです。

 これは明知大学校の記録科学大学院の昨年のカリキュラムです。開設2年後に早速,大幅な改善を行い,その結果,カリキュラムになったという話です。当初のカリキュラムに比べると,現代記録管理やIT関連科目の充実,さらには学生の研究能力向上のための改善を行ったということで,そういう分野の科目が非常に増えているということがわかるかと思います。

 さて,世界的に見て,大学院におけるアーキビスト教育プログラムの研究開発については,ユネスコあたりが主導して,国際文書館評議会(ICA)などが協力する形で,それなりに熱心に取り組まれています。1970年代ごろから,さまざまな大学院プログラムのガイドラインが出されています。ユネスコとICAのガイドラインとともに国際的に大きな影響力を持っているのが,アメリカ・アーキビスト協会が作成した幾つかのガイドラインです。

 アメリカ・アーキビスト協会は1994年に「アーカイブズ学修士課程のカリキュラム開発のためのガイドライン」というものを発表していますが,昨年,2002年にこれを改訂し,新たに「アーカイブズ学大学院課程のためのガイドライン」というものを出しています。SAA(Society of American Archivists)と言いますので,以下,「SAA2002ガイドライン」と略称します。このガイドラインは国際的にも高く評価され,各国のアーカイブズ教育に生かされています。

 このガイドラインを見ますと,最初にアーカイブズ教育の使命や目標について記しています。その中で,アーカイブズ学大学院課程を,なぜ大学院教育として行わなければならないのかという理由についても詳しく述べられています。

 「SAA2002ガイドライン」の影響力の一つが,カリキュラムの提示にあります。このカリキュラムにつきましては,お手元の配付資料に詳しく表を出しておきました。これによると,カリキュラムは大きく,アーカイブズ学中核知識(core archival knowledge)と学際知識(interdisciplinary knowledge)とに分かれています。アーカイブズ学中核知識とは,文字どおり,アーキビストとして習得すべき専門知識の中核を占める部分で,アーカイブズ機能の知識,専門職に関する知識,コンテクストの知識という3本柱からなっています。各柱の意図と基本科目構成はその図に示したとおりです。

 1994年のガイドラインと比べるとよくわかるのですが,特に「3.コンテクストの知識」というところが一つの柱として独立しているところであり,かつ,内容が強化されているところです。この辺に「SAA2002ガイドライン」の大きな特徴の一つがあるかと思います。最初に少し申し上げました,コンテクスト重視というアーカイブズ学界の大きな流れがこういうところにも表れているのではないかと思います。

 学際知識のほうは,従来,関連分野,関連科目と言われてきた分野に当たります。本当は1994年のガイドラインと並べるとより明確にわかるのですが,情報技術,マネジメントというところの比重が一段と高くなっているのが特徴かと思います。

 時間の関係で,世界の現状については以上にとどめまして,最後に日本の状況ということで,「育て,日本のアーキビスト」というところに入りたいと思います。

 アーキビスト養成の必要性ということにつきましては,日本でも早くからその声が上がっていたのですが,本格的に議論され始めたのは1980年代に入ってからではないかと思います。その一つのきっかけが,1986年にICAのマイケル・ローパー氏が日本に来られて視察をし,「日本における文書館発展のために」という報告書を出されました。

その中でアーキビストの必要性を強く訴えたということがきっかけの一つになっているかと思います。

 そういう動きもあり,日本学術会議は1988年と1991年の2度,公文書館専門職員の養成体制についての報告並びに要望を行っています。それから,全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)も1989年,1993年,1995年と,3度にわたってアーキビスト養成大学院の設置を提言しています。

 以上のような動きを受けて,国文学研究資料館史料館は1988年に,それまで長らく行っていた「近世史料取扱講習会」を「史料管理学研修会」という形に改組,拡充しまして,事実上のアーキビスト養成を行っていこうという方向に踏み出したわけです。この研修会は8週間の長期研修課程と,2週間の短期研修課程からなっていまして,史料保存機関の職員のほか,大学院生も受け入れています。 昨年から「アーカイブズ・カレッジ」と名を変えまして,6科目で構成される,より大学院課程に近い内容と形態に改善されています。

 それから,国立公文書館も1998年から,「公文書館等専門職員養成課程」というものを開始しています。この課程は現在のところ,国と地方公共団体の公文書館職員,現職者を中心とした4週間の研修会で,現職者トレーニングという形になっています。

 ほかに企業史料協議会と法政大学産業情報センターが共同で開催する「ビジネスアーキビスト養w)成講座」というものがあります。これは企業の史料担当者を主な対象とし,1992年に開始されたものです。当初は週2回,3カ月の講習でしたが,現在は短縮され,週1回,1カ月間になり,名前は「ビジネスアーキビスト研修講座」となっています。

 一方,大学・大学院の動きについてです。現職者トレーニングや短期研修は,今申し上げたように,幾つかのものが増えてきたわけですが,本格的なアーキビスト教育大学院はいまだに設置されていないと言っていいかと思います。もっとも,駿河台大学が1994年に文化情報学部知識情報学科の中にレコーズ・アーカイブズ・コースというものを設置し,1999年からは大学院修士課程もスタートしていますが,これはやや例外的なケースです。

 それから,1993年にスタートした神奈川大学大学院の歴史民俗資料学研究科と,2000年4月に開設した東京大学大学院人文社会系研究科の文化資源学研究専攻。この二つは,目的の一部に文書館のアーキビストを養成するということを挙げています。

 しかし,これまでのところ,そのために準備されている教科目はほとんどないと言っていい状態で,あくまで将来構想の範囲にとどまっているようです。

 全史料協専門職問題委員会が実施した「記録史料学等の開講に関するアンケート調査」の結果が2001年に発表されましたが,それによれば,日本全国でアーカイブズ,あるいは文書館,資料館にかかわる課目を一つ,二つ設けているという大学や大学院は,随分多くの数になってきています。

 アーカイブズ学に対する関心が次第に高まっているのは事実のようです。

 このようなことを基盤に,将来的には本格的なアーカイブズ教育大学院ができることを望んでいます。例えば,今年度に初めて開設された,学習院大学大学院人文学研究科の史料管理学というものがありますが,これはとりあえず3科目を設けたということで,実験的なものです。これが順調にいけば,将来,先ほどから話題になっている専門職大学院というものになっていく可能性がないではありません。

 そういう発展を望みたいと思っています。

 私は,アーキビスト教育は世界の潮流にならって,大学院課程の中で,きちんとした理論教育のもとで行われていくべきだろうと思います。そういうものができた暁には,私どもが行っているアーカイブズ・カレッジという研修会は,いわば所蔵史料をふんだんに利用した,実幕uア研修の一部に組み込んでいくということが将来的には考えられるのではないかと思っています。

 さしあたりは,既成の大学院の中にアーキビスト・コースがない以上,具体的にどういうカリキュラムが必要なのかというカリキュラム研究も含めて,アーカイブズ・カレッジの中で,一種の実験的研究をやっていこうと位置づけています。

 皆様のお手元にもありますが,このアーカイブズ・カレッジの長期コースは,現在のところ,6科目の内容を持っています。それぞれの課目が15コマ,大学院でいえば,半期2単位分に相当するというような形をとっています。実際,このアーカイブズ・カレッジを単位として認定する大学も増えていまして,すでに10ほどの大学が単位認定をするということで,多くの大学院生が加わってくるようになっています。しかし,あくまで6週間という短期ですから,大学院課程と比べると,まだまだ試験的なものです。これではとてもよしとは言えないわけで,将来的にアーキビスト大学院を生み出す一つの契機になればいいと思っているところです。

 以上ですが,最初にも少し申し上げたように,アーキビストの社会的役割がいろいろある中で,今日は情報専門職としての側面に焦点を当て,その辺を中心にお話をしました。それは,アーキビストという専門職のいわば一面に過ぎないとも言えます。古くさいと言われるかもしれませんが,やはり歴史的な環境を保存する,歴史的な遺産を未来に伝えていくという伝統的な任務も引き続き重要ではないかと考えています。

 その点をも踏まえて,アーキビストの任務を全体的にまとめると,歴史的な環境を保全し,自由な情報の流通を促進して,国や民族の壁を超えて歴史認識の共有化を図ることであると,私は思っています。歴史的環境の保全は,豊かで独自な地域文化をはぐくむための源だと思いますし,自由な情報の流通は,民主的で平等な社会を維持発展するための基礎条件であると思います。また,歴史認識の共有化は,真の相互理解に基づいた平和の実現を可能にする根源になるのだろうと思います。

 記憶の守り手,情報の媒介者,いろいろな言い方があると思いますが,アーキビストの社会的な重要性というものをもっと認識して,その育成を急ぐ必要があると思います。