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美術館における情報専門職制の枠組みの形成に向けて

                       波多野宏之氏

 ご紹介いただきました波多野です。私は最初に武蔵野美術大学の資料館[美術資料図書館]にしばらくいまして,それから東京都立中央図書館には20年近くいました。そして,1992年,国立西洋美術館に参りました。そういうわけで,資料館,図書館,美術館という異なる職場で働いてきました。そして,この3月に退職しましたので,美術館,図書館の仕事を外側から見てみると,中の仕事がいかに特色あるか,一般の人間から見ると,とりわけ美術館は変わった世界だというような思いもしています。先ほど中村さんのほうから,図書室を中心とし,しかし,多岐にわたる仕事の中身が詳しく報告されましたので,私は美術館の各職員はどういうことをやっているのか,とりわけ学芸部門――学芸課というところでどういう分担が行われているのか,その中で情報専門職の現状はどうか,どうあるべきかを国立西洋美術館の事例を含めながら,少しお話しさせていただきたいと思います。

 情報専門職のことを考えるわけですが,最初にどうしても全体的な美術館職員論というものを一度押さえ直しておかないといけない。その上で,情報専門職の職域はどういうものなのかについて考えたい――今,これは非常にあいまいです。美術館・博物館において情報専門職は重要であるということはわかっていながら,必ずしも,どこまでの仕事をするのかということは明確になっていない。そういうことだろうと思います。それから3番目に,文化行政といいますか,美術館行政を担当する人たちが美術館の現状をよくわかっていないと思います。ですから,そういうところに対する政策の提言もやっていかなければならない。最後に,今日はアート・ドキュメンテーション研究会の主催ということですが,研究会も14年の経験を経てきたわけです。常々,研修が必要だと言っていますが,具体的に次のステップを考えなければならない。そういうことについても触れてみたいと思います。

1.美術館ドキュメンテーションの「論理」と職員の「生理」

 美術館におけるドキュメンテーションというものは論理的にはだれも否定はしない。必要であるということなのですが,それぞれ異なった立場の職員の生理といいますか,「大切なことはわかっているが,そうもいかない」ということが非常に大きくあるということです。幾つかの特性を挙げてみます。

 まず,美術館の情報部門は,あくまでも図書室だけではありません。外側から見れば,図書室が公開されていれば,「情報・資料をきちんとやっているな」と思われる。あるいは,司書がいればいい,ということもあるかもしれませんが,そういうことではありません。

 次に所蔵作品の管理(コレクション・マネジメント)のことです。これは水嶋さんのほうからも詳しく説明がありましたが,基本的に美術館の所蔵作品管理ということが非常に重要になってきます。コレクションの収集,あるいは財産管理等々,全部門にわたります。そういうわけで,美術館のドキュメンテーションは,ひとり情報資料専門職がやるということではなく,全職員がかかわるものです。

 それからもう一つ,美術館では情報や資料を集積するわけですが,自分のところでたくさんの情報資料が出てくる。展覧会を開催すれば,当然,さまざまなやりとりの文書が出てきます。作品を購入すれば,写真を撮り,それが集積されます。展覧会カタログ,ポスター,チラシなどをつくります。このようにみずから生産したものを管理していくことも重要になってきます。

 そのような情報資源が,全体的にどのように使われているのかを,歴史的に一瞥してみたいと思います。1959年に国立西洋美術館がオープンするのですが,ご承知のように,松方コレクションがフランス政府から寄贈・返還され,これを受け入れて公開するための施設ということで,有名なル・コルビュジエという建築家に設計を依頼したわけです。事前のスケッチが出されておりまして,向かって左側の四角い建物が本館です。正面の入り口が右側,東京文化会館側になります。本館の下方に小さな建物があります。これは当初,1階にライブラリー,2階に講堂ということで計画されたものです。それから,上方の少し大きい建物が多目的スペースで,電気仕掛けのものや映像を想定した舞台など,そういうものまで当初は考えられていました。しかし,結果的には,これらのライブラリーや映像ホールは削られました。そして,右側は臨時展示館なのですが,これも当初建設されることはなく,メインの本館だけで発足します。これが1959年のことです。

 その後,本館の後ろに新しい建物--新館ができ,内部利用の書庫ができたりしますが,外部の専門家に対して公開できる施設になってくるのは40年以上たった2002年3月。こうした経緯を経て現在は,大学院生以上の専門家,学芸員等に公開しています。週に2日しか開室していませんが,内部利用から外部の方も利用できるものへということで,一歩前進しました。

 以上は,一つの例でしかありませんが,美術館の使命の認識と情報資源の位置づけにおいて,発足に先立ってフランス人が考えていた美術館のありようと,日本の受け入れ側との間にはこれほどまでの落差があった。そして,私が入ったのは1992年ですから,そこから新しい施設づくり,データの入力などを経て,オープンするまで,それでも10年かかるということで,何といっても,美術館における情報資源の位置づけは,いろいろな立場の人たちの中で,いかにも弱いものだ,ということを感じざるを得ないわけです。

 次に,美術館職員構成の未成熟と業務(職員)のヒエラルキーの特異性があります。先ほど中村さんから,レジストラーやコンサーヴァターなど,いろいろな職種があるというお話がありましたが,この専門分化ということがなかなかうまくいかない。「学芸員=雑芸員」と言われるように,学芸員は多くの仕事を抱えている,ということはあります。しかし,ある面からすれば,学芸員はすべてをやる,ものではない。そうではなく,情報のことは情報専門職に任せ,修復のことは修復専門職に任せる。そのように専門家を入れて,権限移譲をして,本来あるべき学芸員の仕事をするという形がなかなかとれていない。こういう現実も一方ではあります。

 また,庶務系職員の問題でいえば,業務にかかわる文書などをきちんと管理できているか。これも現用の文書と過去の文書をきちんと仕分けして,使わないものは図書室やアーカイブに回すということを必ずしもやっていない。庶務が管理していたものは,いつまでも庶務の管理下にある。恐らくそのような実態が多くのところであるのだろうと思います。

2.情報の流通・処理と情報専門職の位置

 国立西洋美術館を例に,情報にかかわる部門間の構図を示します。 左のほうに,美術系の学芸員が担当する業務として,作品収集,作品管理,学芸研究があり,作品管理に関係してレジストレーションがあります。そこに専門の人がいれば,これはレジストラーと呼ばれますが,残念ながら国立西洋美術館には配置されておりません。保存修復は配置済みです。そして,真ん中に「情報資料センター」とありますが,これは現在の「研究資料センター」です。ここでは,図書館,アーカイブ,フォトテーク(フォトライブラリー,スライドライブラリー),それに,ドキュマンタシオンの機能を果たします。

 ドキュマンタシオンというのは,特に美術館の場合には,作品の数もそう多くはありませんし,個々の作品が重要な情報を必要とするということで,作品1点ごと,あるいは作家ごとに作品台帳や購入時の文献,文書,あるいは印刷物に紹介された図版,展覧会に貸し出した際の記録,展覧会カタログの該当部分コピー,作品関連論文の抜き刷りなどがファイリングシステムで集積されます。ドキュマンタシオンは,そのような仕事をする部門と思っていただければいいと思います。そして,写真等は,右側に示した教育普及,広報部門との絡みの中で利用されていく。全体的に見てみますと不十分な部分もありますが,概ねこのような形で美術館の中の情報資料が動いていくということがあろうと思います。

 では実際に情報の流通はどのようになっているかということを見るのですが,もう一度,職員構成を見ていただきたい。これは国立西洋美術館学芸課の場合です。現在,独立行政法人になっていますが,もともと学芸員という言い方はしません。主任研究官もしくは研究員という名称なのですが,以下,一般的に学芸員と称しておきます。学芸課には,学芸課長以下全部で12人います。絵画や版画などの種類別に室があり,美術史系の学芸員がこれを担当します。ほかに専門職と言われるような立場の人がいる室があり,ポストが置かれた古い順に,保存修復,情報資料,教育普及,そして,もっとも新しいのが保存科学室です。学芸課12人のうちの4人が,専門分野をそれぞれ担当する。これが国立西洋美術館の現状です。こうした専門職化をしている美術館は日本ではまだ少数に留まっています

 情報資料の流れとして,どのような分担が行われているかを見てみます。資料の収集は,文献等を司書,あるいは学芸員が発注する。新刊外国語図書は後者が海外に直接発注する場合が多い。高額図書などは司書のところでまとめる。公開の図書室等ができますと,当然,運用するのは司書の担当です。

 作品写真の管理については,学芸員が作品を購入し,レジストラーはいませんので,当該学芸員が外部の写真家に撮影を依頼する。その写真は,これまで時期によって扱い方が異なっていました。司書のほうに来る場合もあれば,学芸員のほうが管理する場合もありました。写真のデュープは,外部利用にかかわりますので,教育普及,あるいは庶務の職員が貸し出しを担当する。

 それから,記録文書やアーカイブということになりますと,庶務等で建物の設計図など各種の資料を持っていますし,学芸員のほうには展示関係の資料がある。今回,新しく研究資料センターに書庫をつくりましたので,そちらに回ってくるものも一部ありますが,まだ多くのものは学芸員や庶務系職員の手元に残っています。恐らくアーカイブがきちんと管理できている美術館はまだまだ少ないのではないかと思います。

 先ほどあげたドキュマンタシオンという名称で括られる類の仕事--作品ファイルについては,学芸員が関係記事の抜き刷りなどを入手する,あるいは,作品を貸し出した海外の美術館から,その作品が掲載された展覧会カタログを送ってくる。これが一定の経路とルールに従ってファイリングシステムのほうに入る。このような一連の仕事を司書系と学芸員系の職員が共同で行っています。

 それから,作品の管理に関わるコレクション・マネジメントです。美術館の情報活動の中で一番中心になるものです。しかし,わが国でレジストラーが置かれているところは,全国的にみても非常に数が少ないと思います。三館くらいしかないのではないでしょうか。国立西洋美術館でもこの職は置かれていません。当然ながらコレクション・マネジメントに保存修復の専門職もかかわっています。

 さらに情報システムの運用管理ということになりますと,これまで作品データベースの構築等を情報資料専門職のほうでやってきましたが,現状では,ホームページの運用は教育普及が担当していますし,情報工学系--コンピュータシステム,UNIXのサーバー等の運用になりますと,専門知識が必要ですので,これは業務委託の形で少し手伝ってもらうという形もあります。この辺は,システムのレベルや規模によって対応が異なってくると思います。

 いずれにしても,全職員が情報資源の処理や活用にかかわっているわけです。しかし,全体的にかかわっていればそれでいいということではなく,ある種の調整が必要になってきます。先ほどの図に出ているような各場面を全体的に統括する――というより調整する役目がどうしても必要になってきます。

3.何が問題か

 そこで,もう少し問題を整理して,どういうことが問題なのかをお話ししたいと思います。先ほど,美術館ドキュメンテーションの「論理」ということを申しましたが,その必要性は誰しも否定するものではない。しかしながら,実際には情報資料専門職の任用は少なく,その職務内容と位置づけは必ずしも明確ではない。

 美術館の図書室が近年,少しずつ発展してきた状況は,東京都美術館図書室の開設からずっと続いています。特に近年,東京国立近代美術館をはじめ,新しいライブラリーが公開され,それにふさわしい専門職が置かれています。つい最近,神奈川県立近代美術館葉山館ができたようですが,3人の司書が配置されたと聞いています。しかし,まだまだ専門職を置いていないところ,委託,アルバイトさんに頼るところが大多数でしょう。

 2001年にNPO法人ビュー・コミュニケーションズが調査した「ミュージアム 顧客満足度調査」によれば,悪いほうの2番目に,図書館・資料室がない,もしくは,充実していない,そういうことがあがっている。そのくらい図書室がまだまだ整備されていないという状況があると思います。また,図書室が整備されていればいい,ということでは決してないわけですが,それは別として,美術館情報専門職の研修制度を整備し,質を高めていくということが,これからどうしても必要になってきます。

 情報専門職と同時に,学芸員,特にレジストラーなど,コレクション・マネジメントを担当する部分が,どうも本格的に取り組んでいないという実態があります。つまり,美術史を勉強して美術館に入って学芸員になるという短絡したルートが何十年も続いていて,きちんとしたミュゼオロジー--博物館・美術館学--を勉強していないわけです。そういうことで,情報専門職のことを考えるだけでなく,基本的に学芸員ミュゼオロジー教育をきちんとやって,その中でコレクション・マネジメント,情報,保存修復,教育普及,これらを全般的に考えて,これからの美術館を見直していく,美術館の使命を考え直していく。現在,どうしても展覧会偏重というものがあるわけです。ですから,担当した展覧会を準備する(とりわけ作品借用手続きの)ために,極端に言いますと,所蔵品の管理--今,目の前に,また,収蔵庫にある作品の日常的な情報管理--ということが非常におろそかになる。

 ジャック・サロワ著『フランスの美術館・博物館』という本があります。私も訳者の一人として参加し,文庫クセジュの一冊として最近出しましたので,宣伝も兼ねて引用させていただきますが,著者は次のように書いています。

「恒久的コレクションや展覧会のカタログ編集にくらべるとおそらく満足度の得にくいものであろうが,明細目録をただ管理していくことも,絶えず喚起されねばならない学芸員の必須の使命である」

 あのフランスでさえ,こうした会計検査院報告を出されるくらいなのです。

 こうした本来的な業務をきちんとやっていく。そのためには職員の倫理を確立しなければならないだろうし,各種専門職の分業,連携の体制をつくっていく必要がある。しかしながら実際にはある種のヒエラルキーというものがあるわけです。どうしても多数を占める美術史系を中心とした職員と,そうでない専門職……。それぞれの領域で1人ずつしかいない専門職には,全体のかではそれだけの発言力しかない。そういうことが現実にはあります。

 フランスの博物館と図書館とは,どういう親和力,あるいは敵対力があるのかという興味深い本(M.ブラン=モンマイユール著『フランスの博物館と図書館』)が出ていますので,その中の一節を引用させていただきます。

 「博物館はどのような動機から,図書館をいわば拒否したり,誤解したりするのだろうか? この誤解は,図書館が文書資料の枠を超えて業務を行う際の難しさとも関連している。一般的に言うと,博物館は学芸員用の文書資料を求める場であり,それ自体は当然ではあるが,一般の利用者は対象外である。さまざまな階層からなる一般利用者を前に,博物館は一種のおそれをいだいてはいないだろうか?・・・中略・・・セシル・ギタールがその理由として,情報,作品に関する文献,美術史を共有するのではないかという恐れを挙げたことが思い出される。現代美術をめぐる文化のエリート主義とでもいうべきだろうか?」

 情報を公開したがらない。中の職員だけが情報資料を使い,これをベースにして研究を発表する。そのような閉じられた空間というものが,日本の美術館の実態ではないだろうか。そういうことも感じるわけです。

 それからもう一点あげるとすれば,内部の問題だけではなく,こうした職員のありようを,いわば野放しにしている美術館の行政,その構造的な欠陥です。美術館行政の担当が美術館のことを全く知らない,と言うと言いすぎですが,あまりよく知らない。そもそも美術館に来ない。本庁から美術館に「○○の資料を出せ」「○○をしろ」という命令が来ると庶務の職員が対応する。ですから,本庁の職員は美術館の中を知らない。こういう実態があります。

4.提案

 提案として三点あげておきます。まず研究すること。次に政策提言をしなければならない。そして,できることから実践する。

(1)研究
 美術館における情報専門職の職能の基準や配置モデルは,残念ながらできていません。これからきちんと調査し,分析を進めなければなりません。

 美術館・博物館の中の情報関連ポジションをもう少し子細に見てみますと,どういうものがあるのか。スミソニアンの職員研修を担当している人が書いた本(Glaser & Zenetou "Museums: A place to work; Planning museum careers")には,関連としてエデュケーター,コンサーヴァター,法律専門家,エディターなどがあるのですが,情報プロパーでは次のものがあげられていま。Archivistは説明不要でしょう。Information managerは特にコンピュータの専門家。Media managerは教育普及に当たってビデオなどの映像資料を扱う担当。Librarian, Registrar以外にもさまざまな情報にかかわる業務があり,大規模なところではこのようなポジションが設置されていることがわかります。

 そして,我々がやらなければならないのは,そのポジションごとの要件--職務内容,教育資格,実務経験,研修歴--とはどのようなものか。それぞれについてこの本の中にも例示してあります。これを日本の実態に合わせて考えることが必要です。日本の美術館規模,現在の職員構成などの中で,こうしたポジションを全部置くということはとても無理ですから,情報専門家はどの範囲を分担するか。教育の専門はどういうところを担当するのか。そういうことをきめ細かく考えていく必要があると思います。

 ちなみに,もう一つ,資格付与ということで言いますと,これまでも言及されていますが,フランスの文化財学芸員という上級の学芸員の例です。Conservateur du patrimoineと言いますが,1997年の統計では,文書館,文化財目録,考古学,歴史的建造物,図書館の分野で,この上級文化財監督官とでもいうべきポジションの人が200人以上います。上記の『フランスの美術館・博物館』では図書館のところだけ「上級司書」と訳しておりますが,全部Conservateurです。図書館学芸員というと,日本語としては何か妙な気がしますが原名称は,Conservateur biblioth?queです。これは文化省の管轄下のものと思われますので,大学図書館などは入っていません。従って,図書館上級司書は5人しかいないのです。実際には,ルーヴル美術館にあるフランス文化省フランス美術館中央図書館の館長と次席の人,加えてギメ美術館など規模の大きい美術館の図書館責任者がこのポジションにいると思われます。実務に当たる,いわゆるBibliothcaireと呼ばれる人はもともとたくさんいるわけですから,これを見ると,美術館・博物館のConservateurと図書館のConservateurは,やはり扱いが少し違う。上級司書は数多くは配置されていないようです。いずれにしても,一つの資格として,このような大学院レベルでの教育を受けて得る国家資格というものも,日本でも考えなければならないのかもしれません。

(2)政策提言
 こうした職能の基準やモデルを研究し,それを提言していかなければならないでしょう。アート・ドキュメンテーション研究会を14年やってきて,研究会内部で我々自身の相互の研鑽,研究は積み重ねていますが,外に向けて,行政に向けて発言をしていくということが非常に欠けていたという気持ちもしています。2000年に,全国美術館会議で「美術館基準(案)」が検討されました。大変優れた内容の研究なのですが,案のままにとどまっています。先ほどから述べている職員論の部分をさらに深めて,その中で情報専門職のありようを考えていくことも必要だろうと思います。

 それから,若手の研修,中級の研修ということをよく言っていますが,美術館を変えていこうというときに,美術館の幹部職員,あるいは文化庁や教育委員会,県の文化部局の行政担当者を研修しなければ,はっきり言ってどうしようもないと思うのです。変わりようがない。下の者の研修ではなく,上の者の研修をしなければならない。そういうことも言っておきたいと思います。

(3)実践
 わが国の学部教育さらには大学院教育でのミュゼオロジーの実践ということでは,フランスにおけるEcole du Louvre,あるいは国立文化財学院のようなものはなかなかできません。しかし,幾つかの大学で本格的にミュゼオロジーに取り組み始めています。その中での情報共有ということもあるでしょうし,大学院教育の開発ということも考えていきたい。

 アート・ドキュメンテーション研究会でも研修委員会をつくろうということを言っていますが,なかなかできません。そこで,今日のシンポジウムを契機に,来年には中期計画も終わりますので次のステップとして,でき得る方法で--部会などを立ち上げて--実行に移していただきたい。言い出した者として,これにかかわっていく用意はありますので,ぜひ役員の方にご考慮いただければと思います。役員の方に全部押しつけても大変でしょうから,役員の方から「おまえ,やれ」「あなたもやってください」と仕向けていただければ,少しずつ動き出すのではないかと思っています。

 最後に,美術館,博物館,図書館,文書館,行政部局が,ただ「連携しましょう」ではなく,これらの間で何が違うのか,どこがあいまいだったのか,これを論争し,討議し,そこから差異を確認して,変革,連携を深めたいと思います。