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エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立
第1回ワークショップ
「図書館評価における来館者調査と住民調査のエビデンスの確立に向けて」

議事録

開会の辞 | 発表T(岸田:前半) | 発表T(岸田:後半) | 発表U(上田) | 発表V(歳森) | 質疑応答

池内
 どうも有り難うございます。お三方とも実際の調査体験に基づいた貴重なお話と,さまざまな論点を出していただけたことと思います。
 残された時間は当初の予定よりも若干少ないですが,どなたに対してでも構いませんので,ご質問・ご意見のおありの方は挙手していただけますでしょうか。ご発言の際は,ご所属とお名前をお願いいたします。宜しくお願いいたします。

::: 質疑応答 :::

三輪メディア教育開発センター
 メディア教育開発センターの三輪です。非常に丁寧な議論と説明をありがとうございました。
 先ほどの永田先生からの質問に少し関連したものですが,いわゆるサービス評価のところで,質問票の中で今日何を使いにきたのかということを聞いていらっしゃいますよね。それぞれのサービス項目について利用者の評価を得ているわけですが,例えば本の種類や数についてという評価であれば,その人がもし館内で本や雑誌を読むとか調べ物をするとかという目的であれば関連があるだろうけれども,それ以外の目的で来た人にとっては,この評価の指標というのはあまり意味がないような気がします。そういう意味で,来館目的と評価指標での満足度のクロスとか,それから実際全体を評価するときのそのあたりの重みづけみたいなことは考えられたのでしょうか。
岸田
 いま,三輪先生がおっしゃられたとおり,後からクロス集計をすればいいと思います。ただ,ここではやっておりません。方法としては,とにかく聞いておいて,いろいろな項目をとっておいてクロス,クロス,クロスで要因分析していくというのが,おっしゃられるように妥当なやり方だと思います。
三輪
 ぜひ,その辺も今後していただけると。

池内
 ほかにどなたかございませんでしょうか。

歳森
 岸田先生が先ほど,満足度という指標,つまり1から5までの5段階で「やや満足」とか「満足」というのを聞いたことが順序尺度であり,その平均値をとるというような尺度の構成,あるいはそもそも「満足」とか「やや満足」というのが間隔尺度的な操作をやるという意味でもそうだし,一人一人が感じる「やや満足」という度合いが違うだろうという意味でもやや不確かな尺度ではないかと,その結果への疑義というのを漏らされたというのが,私自身はちょっとそうなのかなという疑問を持っています。
 それについてはどういうお考えですか。分散とかあるいは値の集中とかを考えるとそんなに狂っていないと,私自身は調査をやると実感としては感じるのですが,それはやはり違うということでしょうか(笑)。

岸田
 歳森先生がそういう感覚を持っていらっしゃるのだったらいいのですが,結局,「満足」と「やや満足」の間と「やや満足」と「どちらでもない」という間が等間隔であるという仮定が1個置かれていて,常にそれが正しいかどうかというのはちゃんと考えないといけないよ,くらいな話です。これは後で池内先生にも聞きたいのですが。例えばそういった5段階で因子分析をかけたりするのですが,あれがどうも昔から気持ち悪くてしようがないのです。順序尺度で出ているのですから,5段階を3段階ぐらいに圧縮してパーセンテージで議論するのが真っ当なやり方だと個人的に思っています。それで,ああいうことを何遍も繰り返し申し上げました。
 ただ,5段階評価に対して因子分析をかけるようなのはマーケティングの分野では普通にやられていて,そんなに問題がないという認識でしょうし,いま歳森先生がおっしゃったように,歳森先生はそういうので大丈夫だという感覚であれば,それはそれでいいとは思います。何か変なこだわりかもしれないですが,そこら辺いつも気持ち悪く思っているくらいの話で,特に理論的にそれがいけないというのを示せるわけではありません。

池内
 ほかにどなたか何かございますでしょうか。

上田
 今の件ですが,岸田さんが調査をしたときには,「1 満足」「2 やや満足」「3 どちらともいえない」と全部書いてしまった中で選ぶわけですよね。

岸田
 はい,番号を打ちました。

上田
 ただ尺度1,2,3,4,5で1に「満足」,5に「不満」という中で,五つの選択肢の中から選んでくれという場合と結局同じことですかね。

歳森
 数直線みたいなものを加味する。

岸田
 そういう測定方法が心理学でありますよね。それのほうが個人的には気持ちがいいというか,それくらいのことをやったほうが抵抗感はないですね。

上田
 もう一点,住民調査の回収率の向上のためには督促が不可欠であるということで,督促でどのぐらい上がるのですか。

岸田
 一概にこの程度というのは言えないのですが,1950年代,60年代に統計学の分野で督促がどれだけ効果的かという研究がいっぱいなされていて,ちょうどブラッドフォードの法則と同じで収穫逓減になるのですが,2回目の督促でポンと上がって,だんだん効果がなくなっていくみたいな報告がありました。督促をかけたほうが回収率は確実に上がるというのは,統計学のほうでは……

上田
 今でもというか。

岸田
 今ではわかりません。それは申し上げたように60年代で,その点でいうと,さっき歳森先生の話の中で,我々の調査の回収率が高かったという話がありましたが,あれはたしか何か物を出しているのです。ですから,今の時代でいうと,もしかすると督促よりもそういった対価として何かを差し上げるという仕掛けをつくったほうが上がるかもしれません。

歳森
 ここで一つ白状すると,私がやったつくば市の調査では督促していません。永田先生はたしか取手で督促されましたね。

永田
 督促はおっかないですよ。なぜこれをやらなければいけないのかという反応も随分多いです。ですから,(督促は)しますけれども,極めて丁重に督促状を出します。督促状ではないですね。もし違ったらごめんなさいという(笑)。

歳森
 そのときに上がったのですか。

永田
 ほんの少し上がりました。

歳森
 数%ぐらいですよね。

永田
 ええ,ほんの少しだけ上がります。ですから,調査者のほうの気持ちをおさめるという感じです(笑)。

岸田
 さっき上田先生の質問に対してお答えしたのですが,督促はもしかするとそんなにきいていないかもしれない。これは実際の調査は調査会社に任せているので,私も白状すると何%上がったかは確認していません。(笑)ただ一つ,いま数%とおっしゃいましたよね。数%でも督促をかけることによって,督促をかけない状況で無回答者の情報が得られるわけですね。それを統計学ではサブサンプルといっていまして,最初の段階で回答した人と督促によって回答した人で,本当に差がないかというのをチェックするのは割と効果があると言われています。ただ,数%でどれくらいの意味があるかというのは別で,やはり確かに最近では効果はないのかもしれませんが,やっておいてそこら辺のチェックというのはかけたいものだなと思います。

池内
 まだ時間が少しございますので,どなたかご質問・ご意見がございましたらぜひお願いします。

三輪
 エビデンスの話と直接関係はないのかもしれませんが,いわゆる図書館の利用者による評価という観点でいった場合,実際に来館しない利用者というのがふえているわけですよね。そうすると,来館者しない利用者の満足度を調べる妥当な方法というのはあるのか,あるとしたらどんな方法なのかというのをご意見としてお伺いできればと思います。

池内
 どなたにお伺いしましょうか。

三輪
 まず岸田先生にぜひ。

岸田
 非来館型というのは,例えばウェブ経由でですか。

三輪
 電話でもいいし,いろいろあると思います。

岸田
 ウェブ経由で訪れた人は,関係ないのかもしれませんが,例えば(このワークショップの)4回目で辻先生が「Yahoo!リサーチ」のお話をされるので,ウェブのほうの仕掛けでそういう方法があろうかとは何となく漠然と思いますが,電話ですか。それはインターネット以外の仕掛けを使おうと思うと,やはり住民調査で押さえるしかないのではないですか。ちょっとよくわかりません。

池内
 よろしいですか。

三輪
 ほかにもそれについて何かご意見とかご経験がある方がいらっしゃったら,ぜひお伺いしたいです。

永田
 ウェブ調査は一般に非常に回収率が低いので,サービスを使うときに必ず回答しないと使えないという調査がありますね。

三輪
 なさったことはありますか。

永田
 私はないですが,一般的にはやっています。

石原慶大院/神奈川県立図書館)  私は慶應義塾大学大学院で神奈川県立図書館の石原と申しますが,来館しない方に対する調査ということをしたくて,県政モニターという制度があって,それでやったことがあります。その結果を昨年の4月号の『図書館雑誌』に書きました。

三輪  そうですか。ありがとうございます。

石原
 あと,ついでにといっては何ですが,質問してもよろしいでしょうか。歳森先生に,つくば市の調査の内容ですとか,どのような結果だったかというものを,論文か何かにまとめていらっしゃるのでしたら教えていただきたいのですが。

歳森
 BIBLISで出てこないのには理由があって,論文にまとまっていないのです。(笑)一応調査の報告書自体はまとめていて,筑波大学の知的コミュニティ基盤研究センターの「モノグラフ」というのに載せています。筑波大学から知的コミュニティ基盤研究センターというのをたどっていただくと,ウェブのページからPDFで読めるようになっていますので,それを見ていただければと思います。
 先ほど住民調査で成果の公表が望まれているというのを見たときに,そうか,公表しないともう調査できなくなるのかとちょっとドキドキしながら言っていたりしたのですが(笑)。

池内
 ちょっとお時間が過ぎてしまいましたが,実は非常に多くの論点が提出されていて,皆さん整理がつかない部分がかなりおありになるかと思います。今後,今日の議事録をウェブに公開いたしますし,これをもとに同じテーマで二回目のワークショップを開催するということがあってもよいと思います。ということで,今日はこれで終わりにさせていただきたいと思います。次回以降のワークショップのご案内が今日お配りしましたA4の紙に出ておりますので,ご出席予定の方は事務局宛にメールを送っていただければと思います。
 今日は皆さんお忙しいところ,長い時間どうもありがとうございました。これで終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。発表者の方々に拍手をお願いします。どうもお疲れさまでした。(拍手

― 了 ―

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