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エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立
第7回ワークショップ
「眼球運動の測定がもたらすエビデンス」

議事録

開会の辞 | 発表I(倉田) | 発表II(大森) | 発表III(三輪) | 質疑応答

::: 開会の辞 :::

池内司会
 準備ができましたでしょうか。
 それでは、三輪先生よろしくお願いいたします。

三輪指定討論者
 私は、眼球運動の測定を補助的なデータとして使っているという立場で発表させていただきます。
 眼球運動そのものを測定してそれから何かを得ようというのではなく、むしろ情報探索プロセスの証拠というか、実際に探索者がどこを見ていたのかということを探索後のインタビューの際に探索者の記憶想起のために利用する。
 あわせて、ここを見ていたときに何を考えていたのかをインタビュアーが厳密に質問できるような材料として利用する。このような立場で使っております。(以下、パワーポイント使用
 方法論上の課題と、そういう方法を使う理論的な枠組み、実際にやっている実験とその効果ということについて順を追って説明させていただきます。
 方法論上の課題というのは、私も10数年来情報探索プロセスの研究というのをやっております。
 主に電子環境、ウェブに限らずコンピューター上での情報探索プロセスを研究テーマにしてきているのですが、従来は記憶想起といいますか、クリティカル・インシデント法のような手法を使って、情報検索が終わった後でインタビューによって探索プロセスを想起してもらうということで、それをデータとして分析していくというやり方をしてまいりました。
 それである程度信頼性のあるデータをとれるケースもありますが、日常の習慣的なウェブ探索プロセスのデータを収集していた際に、被験者の方から発話がありまして、情報検索という活動が割と普通の日常生活の一つになっていてあまりにも日常的なので、わからないことがあったらすぐインターネットで調べてしまうということがあって、いつ始まっていつ終わったかというのをあまり意識していないということです。
 こういったたぐいの発言が非常にふえてきている。
 それだけウェブを使った情報探索というのが定着してきているということの裏返しかもしれませんけれども。
 こういう事態になりますと、例えば昨日やった検索のプロセスについてインタビューをしたとしても、厳密に何時何分から何をやってどういう順番で探したかというような話がきちんと聞けない状況になっている。
 そうすると、信頼性の低いデータを使ってインタビューの結果を分析していくということは最終的には信頼性の低い調査結果になってしまうということで、信頼性を高める方法が何かないか、もっと密着した形で情報探索プロセスというのを見ていく方法はないだろうかということを長年考えておりました。
 それの解決策の一つとして視線の計測というのを使っております。
 方法論上の課題はもう一つあるのですが、探索型検索プロセスの実例を集めることをあわせてやっております。
 この探索型検索プロセスというのは、次の図「ミクロレベル:情報検索における探索・学習」で見ていただければわかりやすいと思うので、まずこちらから説明します。今の情報検索システムというのは、大きく分けて参照(Lookup)と、学習(Learn)、調査(Investigate)という三つの種類があるのではないかということを、Gary Marchioniniが去年のCommunication of the ACMで発表をしています。
 彼いわく、参照(Lookup)というのは事実検索、つまり何が欲しいかわかっていてそれを探すという場面での検索で、具体的に既知事項の探索とかナビゲーション、トランザクション、照合、質問応答といったものが含まれている。
 それに対して学習(Learn)というのは、知識獲得、理解、解釈、比較、統合、集約、社会化というものが含まれていますが、要するによくわからないことについて調べ物をしたりして知識を獲得していく、学びながら知識を構築していくというようなプロセスで情報探索が行われている。
 それからもう一つ調査(Investigate)というのは、いわゆる業界の調査あるいは技術の調査とかいろいろありますが、あるテーマについて深く広くその情報を収集して、調査結果それをまとめたりというようなことをやっていく。
 そのプロセスの中でだんだんフォーカスが絞られてきて、知識が構造化されてくるというたぐいのものです。
 この中で現在の情報検索システムでかなり支援されているのは参照の部分だけであって、私たちがExploratory Searchと呼んでいる学習と調査の部分が、ほとんど研究も十分に行われていないし、またシステムとしても十分なサポートがされていないということをこの論文で主張しています。
 同じようなことをその前から考えておりまして、こういったことを解決する一つの方法として視線計測を使いたいということもありました。
 ではどうすればいいのかというと、探索型のウェブ検索はある種のe-learningであると私どもは考えているのですが、自然に近いウェブ探索というのを実験室で再現する。
 それから習慣的にやられているウェブ探索プロセスを実験室で再現する。
 あるいは探索事後インタビューの記憶想起に視線計測を利用する。
 それからミクロレベルでウェブ探索プロセスをとらえる。あと、今年度の研究テーマは携帯電話ということでやっているのですが、携帯電話を使ったウェブ探索プロセスをとらえるということをやっておりまして、この中でゴールとしてはウェブ探索プロセスにおける知識獲得パターンと知識利用パターンを抽出しようということです。
 この二つが方法論上の課題と考えております。
 理論的な枠組みとしては、ブラウンジングというのが特にウェブ上で行われる情報探索プロセスの一つの重要な要素となっております。
 ブラウジングという情報行動の分析単位として視点(view)というのが使われております。これは画面ですが、スーパーマーケットでもどこでもいいですけれども、人間が何かを見ているときに頭の中では見ているデータを処理すると同時に、考えたり感じたり決断したり行動を誘発したりということを同時に行っている。
 実際に見ているものと頭の中で行われているものを一つの単位、分析ユニットとしてとらえていくというのが方法論上の理論的な枠組みです。
 先ほどの倉田先生のご発表でも最初のところに出てきた『アクティブ・ビジョン』という本があったと思いますが、これは多分同じようなことを言っていると思います。
 視覚的な選択プロセスというのは実際に視野に入るものの中から、自分の見たいものだけを、あるいは入力として識別された対応するもののみを抽出しているということで、見ているものすべてが実際に視覚にとらえられているわけではないというのがBertinの見解です。
 それからもう一つ、これがブラウンジングの分析単位ということですが、視点(view)というのは人がある時点で見ていると詳細に述べるものは注意の範囲であって、ブラウジング研究の焦点を物理的な動きから認知的な動きに移行させるものだと、Kwasnikが1992年に言っております。
 この二つを組み合わせて、ブラウジングの分析単位としてviewを使う。
 そのviewをとらえるための方法として視線計測を使うというのが、私どもの研究の枠組みです。
 もう一つ理論的な枠組みということで、想起刺激としての視線あるいは映像ということでいいますと、既往研究から得たヒントが一つあります。
 これは医学分野の情報探索、特に医者の意思決定のプロセスに関する研究ですが、医者と患者の診察セッションをビデオに記録して、ビデオ記録を医者に見せながら事後インタビューをし、どの場面でどんな知識が必要だったか、獲得できたか、どんな知識を獲得したのか、獲得できなかった場合の理由といったようなことを抽出して、これを医者のためのナレッジベースの設計に結びつけています。
 こういったものが頭の中にあって、視線移動データを記録した検索プロセスビデオを見せれば、検索プロセスにおける思考・情動の想起を正確に捉えられるのではないだろうかという期待がきっかけとなってこういう研究を進めております。
 研究の流れとしては二つあります。
 一つはウェブ検索実験ということで「ナイーブオントロジーの研究」というテーマでNII(国立情報学研究所)の神門先生と一緒に2005年から共同研究でやっております。
 これは歴史や地理の分野のウェブ探索を自由なテーマでしていただく中で、どんなふうに知識を獲得して構造化して利用しているのかを見ております。
 この研究は2005年に着手してから昨年までずっと2人でやっていたのですが、今年度からCognitive Research for Exploratory Search(CRES)という共同研究グループを神門先生が中心になって立ち上げまして、私と今日お見えになっている齋藤さん、江草さん、寺井さん、高久さんの皆さんと一緒に研究を進めております。
 この流れの中では、大体昨年度までに3種類の調査をやったのですが、方法論を開発することが最初の目的だったので、随分試行錯誤を重ねております。
 一番最初に実験を始めたときには、簡単な検索経験等に関するアンケート調査、質問紙調査をやった後で、探索のシナリオをこちらで用意して、それを提示して1人の被験者さんを対象に検索実験と事後インタビューをやりました。
 先ほどの大森先生の話にありました、あご台つきの視線移動記録装置を使って、お気に入りに登録というような形で実験をやって、その視線移動を記録したビデオを見せながらインタビューをしました。
 そのときに一つ一つの動作について、その動作の理由、例えばキーワードを入れたとき、なぜそのキーワードを入れたのか、あるいはブラウジングをしてあるところを集中的に読んでいるときに、その部分をなぜ一生懸命読んでいたのかといったようなことを一つ一つビデオをストップしながら質問していくことでインタビューをとっております。
 1回の探索の時間は大体20分ぐらいを記録しているのですが、事後のインタビューは40分から1時間ぐらいをかけてやっております。そのインタビューを書き起こしてコーディングをして、知識変化の分類枠組みというのをつくりました。
 2回目の調査から少し手法を変えました。
 1回目の調査で実験室の中で研究者に取り囲まれて被験者が非常に緊張してしまったということもあって、1人ではなくてペアでいらしていただくということ。
 それからこちらで用意したシナリオを使うと、途中で行き詰まってしまうケースもあったので、ある程度の大枠、例えば歴史とか地理というものを提示して、具体的にどこの場所について、あるいはどういう事象について調べていただくかは被験者の間で相談して決めてもらう形でやりました。後の部分は同じです。
 昨年やった3回目の実験では質問紙は同じで、関心トピックを相談するのとシナリオを提示するのと両方を使ってペアによる探索をし、このときから先ほど倉田先生が紹介されたVoXerという機械が入りました。
 ここでVoXerを使うことによって、それまではあご台つきで顔を動かせなかったものが顔を自由に動かせるようになったので、探索プロセス中の発話もとれるようになりました。発話も記録してVoXerを使って実験をしたということです。
 その後の部分は大体同じですが、データの分析というところで探索中の発話も書き起こして、事後インタビューの発話と対照させて信頼性のチェックをしたということと、それから知識変化分類枠組の検証、構築してきたもののある意味で確認のような作業を要するにトップダウンでやったということです。
 それから視線計測装置のあご台つきというのは「視線計測器」の左の写真で、VoXerは右の写真です。
 先ほど皆さんがお見せになったので、こんなものですということです。
 これが実際に視線移動を記録したビデオです。
 これは途中でとめていませんが、例えばじっと読んでいるところではぱっととめて、ここで何を読んでいたんですか、どんなことを覚えていますかというようなことをその都度聞いています。
 文章のところは確かに横にずっと読んでいくというので、倉田先生がおっしゃったのはまさにそうだなと思っていました。絵が出てくると多少変わるような感じはします。
 きれいな写真だとちゃんと見てくれるけれども、写真の解像度が低いとあまり見ないとか、そういうところは印象としては残っております。
 「結果 知識構造変化の分類枠組み」ということで、6種類のパターンを識別しました。
 獲得(adding)、訂正(correcting)、限定(limiting)、関連(relating)、詳細(specifying)、転換(transforming)と6種類出てきたのですが、新たに獲得するとか限定(limiting)していくというようなこと、あるいは詳細に深めていくというようなことは、表示された画面の中から得た情報でかなりやっていくことができるけれども、訂正(correcting)とか転換(transforming)、つまりあることについて異なる概念から見直すことはある程度検索のスキルが必要なのではないかということを、その後CRESのメンバーの方たちとも議論しております。
 もう一つがウェブ検索実験で、学生の就職活動におけるウェブと携帯電話による情報探索というので、これはもうすぐなくなる私の所属機関で同僚の高橋秀明准教授と一緒にやっております。
 これは基本的に方法としてはほとんど同じですが、目的がe-learningの環境をどういうふうにつくっていったらいいのかというところをねらいにやっておりまして、そういう意味で昨年度はウェブを使って就職活動をどんなことをやっているのかを見てきた。
 それから今年度はウェブと携帯電話の両方を使ってその継続の研究をやっております。
 これが携帯電話の視点移動を撮るために使っている「写ミール」という名前のカメラです。
 これをパソコンの中に刺激として取り込んで、実際には手元の携帯を操作しながらパソコンの画面上を見て検索をやっていただくというやり方をしております。
 ここでやってきたのは、先ほど知識の獲得のパターンというのはadding、correcting、limiting、relating、specifying、transformingというところまでですが、そのほかにclarifying(明確化する)、recalling(既に持っている知識を思い出す)、verifying(既に持っている知識が正しいかどうかを確認する)、それからinterpreting(解釈)、こういったものが知識がどう変わるかというパターンとしてさらにつけ加わってきています。
 もう一つ知識がどう利用されているかということですが、これは探索中に獲得した知識がどう利用されているかということです。
 始めるということでいうと、ブラウジングを始める。それからやめるということでいうと、ブラウジングをやめる、検索をやめる、探索そのものをやめるという、やめるために使われているケースがあります。
 それから探索をさらに深めるというので、例えばウィキペディアで見つけてきたキーワードを使って検索を始めるというのがパターン化しているような方もいらっしゃいましたが、そのように、検索を始めるために獲得した知識を使うというのもあります。
 あとはchanging(変化させる)。キーワードを変更する、検索のロジックを変える、戦略そのものを変えるというようなところで使われている。
 それとあとは探索終了後に例えば図書館に行って本を借りるとか、だれかのところに相談しにいくといったような次のステップの行動を決めるために、その知識が使われていることがわかってきました。
 こういったようなことが今までの研究成果といいますか、視線計測を使ってウェブの探索プロセス、あるいは携帯電話を使った探索プロセスを詳細に見ていった結果としてわかってきたことです。
 全体としてまとめてみて、どういう効果があるのかということを考えてみますと、一つは先ほど来言っておりますように、ウェブ探索プロセスの記憶想起を支援するということです。
 詳細な画面、しかもそれもどこを見ていたかということを示しながらインタビューをすることで被験者がそのとき何を考えていたか、何を感じていたかということを再現してもらう助けになっていることを把握しております。
 それから、インタビューをするという研究者の立場からいいますと、インタビューにおける問いかけを非常に明確にすることができる。つまり、この部分を一生懸命見ていたでしょう、そのときに何を考えていたのですか、そこでどんな知識が得られたのですかということを詳細に聞き取ることができるというメリットがあります。
 あとこれは実際に探求型の探索を歴史・地理の分野あるいは就職活動の中でもやっていただいた中でわかってきたことですが、いわゆる情報遭遇といいますか、本来探していた情報ではないけれども興味のあるものに偶然出会って、そちらをじっくり眺める。
 実際の探索のプロセスの中で、そういったところにシフトしていくというものも事例として結構抽出することができました。
 これも恐らく視線移動を使って、なぜここに行ったのか、なぜここを一生懸命見ているのかを聞くことによって、それが本来探していたこととは違うけれども、シチュエーショナル・レレバンスといいますか、その人にとって何らかのレレバンスがあってそこを見ているということをデータとしてとってくることができたと考えております。
 情報探索プロセスのエビデンスを獲得するという意味では、視線計測というのは非常に役に立つと私自身は感じております。
 あと、パソコンと携帯電話による情報探索パターンの違いは、まだ分析が終わっていないのできちんとした報告はできる段階ではないのですが、パソコンは横に見ていくけれども、携帯の目の動きはほとんど縦に見ていく。
 ですから幅が狭いので、横に文字が書かれているけれども横の視線移動というのはほとんどないということがわかりました。
 あともう一つは、携帯ではexploratoryなsearchはしない。
 つまり、何を探しているのかわかっている、あるいはどこのアドレスに行くかわかっているような検索しかしないということも今回の比較をしてわかってまいりました。
 以上が効果ですが、他方でいろいろ問題点もあります。
 例えば今までに両方の実験で合わせて40人ぐらいの視線計測のデータをとろうとしてきたのですが、やはり20%から25%ぐらいはどうしてもとれない人がいます。
 これは目の形、つまり目が非常に引っ込んでいる人というのはなかなかとりにくいというのがあって、反射光が反射してこない。
 あと女性の被験者の方にはお化粧はしないでと言ってはいるのですが、それでもマスカラとかをつけてきてしまったりするととれないというのがあります。
 あと眼鏡でも最近はやりの小さい眼鏡はなかなか反射光が出てしまってとりにくいというのがあります。
 コンタクトレンズはハードはいいけれども、ソフトは結構難しいのがあります。
 あご台とVoXerと両方やってみて、それから帽子もやったのですが、帽子でやると確かに被験者は自由に動けるけれども、視線移動を記録したビデオを見せると画面が非常に揺らぐものですから、みんな船酔い状態になってしまい、非常に危険な実験になったので、これは途中でやめました。
 あと、あご台付きのものが一番正確にデータがとれるように思います。
 VoXerも頭を固定すればかなりきれいにとれるということで、今CRESのメンバーと一緒にやっている実験では、障害者用の車いすに頭を固定した形で座っていただいて、VoXerを使って視線計測をするというやり方をしております。
 大体そんなところです。

池内司会
 どうもありがとうございます。
 三輪先生からは、ウェブの探索プロセスを研究する過程で視線計測するということを、非常にコア的に使っていらっしゃる事例について詳しくご説明いただきました。

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