＜参加者＞
根本彰（東京大学）、三輪眞木子（メディア教育開発センター）、村主朋英（愛知淑徳大学）、鈴木正紀（文教大学越谷図書館）、竹内比呂也（千葉大学）、三浦逸雄（東京大学）、宮部頼子（立教大学）、三浦太郎（東京大学）、古賀崇（東大院）、�ﾞ在順（東大院）、松本直樹（東大院）、（東大院）

1. 文献情報学の変遷
   1950年代：図書館学科設立　延世大学校（1957-）ほか
   1970年代：学科名称の変更に関する議論
   1980年代：文献情報学科に名称統一
   2000年〜：文献情報学科などに記録管理学関係科目を開設

   韓国文献情報学の専門領域：図書館学、情報学、書誌学

2. 文献情報学教育機関の現状
   4年制総合大学163校のうち、文献情報学科設置：32校
   短大で文献情報学科設置：8校
   

   大学院	一般大学院 修士：23校（うち博士も併設：11校） 　教育大学院：13校 　司書教育院：3校…リカレント教育

   教育目標：情報専門家の養成
   教科課程　レジュメp.2表　人的要素が弱い点が問題

3. 司書の資格
   1963年　図書館法
   1991年　図書館振興法
   1994年　図書館および読書振興法
   　　1級正司書 … 博士、2級正司書のうち修士で勤続6年以上の者など
   　　2級正司書 … 文献情報学専攻の学士・修士など
   　　準司書 … 短大で文献情報科卒業者など
   　　司書教諭 − 全国に学校は約1万あるが、司書教諭は200人強のみ
   　　実技教師（司書）− 公務員試験の要件を満たしていない

4. 文献情報学科の抱える問題点
   （1）大学制度
   　　最小専攻単位認定制 → 複数専攻が可能に
   　　　　+ 第2専攻として選択する学生の増加
   　　　　- 専攻必修科目がなくなる。短大との資格認定差etc.
   　　学部制−類似の専門分野を1学部に置く
   　　　　+ 学際研究の拡大
   　　　　- 専攻の人気差が激しい

   （2）学問としてのアイデンティティ
   　・米国の研究の偏重でいいか
   　・伝統的な図書館の実践に根を下ろすのが先ではないか

根本　「学部制」について？
権　学部制は、類似する専門分野を一学部にまとめたものだが、教授陣はこの導入に反対している。
　制度的な背景を付言すれば、韓国では社会的ステータスとして大学卒業が求められ、大学のランク付けも厳格に定まっている。
　そこで教育部では、試験の点数だけで大学に入った学生たちが、少しでも関心ある領域を勉強できるよう配慮を行なった。
　　自分は「大邱大学校 社会科学大学 文献情報学・心理学科群」に所属している。
　大学校は日本の大学に、大学は学部に、学科群は学科に、それぞれ相当する。
　学部制が導入されるに当たって、文献情報学科は「手を組む」学科を見つけられず、たまたま同じように連携相手を探していた心理学科と一緒に「群」を形成することになった。
　教育部の目標としている形で学部制は運用されていない。

根本　レジュメp.3「司書資格」の認定はどこが行なうのか？
権　文化観光部の委任を受け、実務は図書館協会で行なう。

根本　2級正司書に関して、学部と大学院が同じレベルで、つまり学士と修士に対して資格を付与しているが、問題はなかったか？
権　特にはないと聞いている。

三輪　文献情報学教育機関の卒業生の働き口は？
権　日本と同様に、図書館で働きたくても就職口が少ない。
　例外的に延世大学では9割ほどが図書館に就職していると聞くが、大邱大学では年間（在学4年生40名に対し）10名程度である。

三輪　1級正司書、2級正司書、準司書の仕事は、図書館のなかでどう分けられているか？
権　1級正司書が現場で働くことは稀である。
　2級正司書と準司書の場合、任用時に資格要件が問題となるが、実務面での区別は曖昧である。

宮部　現場の図書館員が資格をもつ割合について？
権　館種によって異なる。
　公共図書館では資格をもたない人も働いている。
　彼らは、もし資格を取りたければ司書教育院で1年間学ぶ。
　大学図書館では、資格がなければ就職試験を受けられない。
�ﾞ　1980年代後半の話しになるが、自分の所属する国立中央図書館では、公務員のランク付けに従い、正司書か準司書の資格が必要とされた。
　20-30年前から、公務員は資格証をもっていれば手当がつき、それが資格取得のインセンティブのひとつとなっている。
　ちなみに、国立中央図書館で博士学位取得者は2人であり、彼らは管理職に就く。
　たいていの職員は2級正司書として勤め始める。

宮部　図書館員の主流は2級正司書と考えてよいか？
権　そう。
　1級正司書は研究者になることが多い。

宮部　図書館長の資格要件の有無について？
権　かつては司書館長と行政職館長がいたが、図書館および読書振興法によって、公共図書館に司書館長を置くことが定められた¹⁾。
　近年、名称に「図書館」を入れない「生涯学習センター」などが新設されているが、これは必置規定を避ける意味合いがある。

宮部　レジュメp.4にある「全国文献情報学科教授協議会」はどれだけの力をもつのか？
権　32校の学科（短大を含めると40校）の主任クラスが集まる。
　ちなみに学科ごとの教員数を見ると4-5人が一般的で、修士課程があれば5-6人、博士課程があれば6-8人が通例である。

根本　日本の大学設置基準では1単位の取得に45時間を求めるが、（15時間を講義、残りは自宅学習）韓国ではどのような基準か？
権　週1時間（50分講義）で16週間が1単位。
　たいていの科目は3単位である。

竹内　大学院学生にはどういった人がくるのか？
権　一般大学院の場合、学部卒業生が多い。

竹内　仕事をしながら学ぶ学生の割合はどうか？
権　詳しくは分からないが、仕事をしながら学ぶ人は少なく、仕事をやめて（休職して）くる人はいる。
　博士課程は、教員として教えながら博士学位の取得にくる場合もある。

根本　修士課程はプロフェッショナルを養成するのか、研究者養成か？
権　半々くらいであろう。
　文献情報学のカリキュラムは、各大学で特色に応じて作られる。

三浦（逸）　司書という言葉は、おそらく日本から入ったものだろうが、韓国で普通に使われているか？
権　図書館法で「司書」と位置づけられるなど、言葉自体は使われている。
　ただ、世間一般にはあまりなじみがなく、昔の図書館と関わった古いイメージが連想されるかもしれない。
　また、今日では情報専門家など「情報〜」という言葉が使われる傾向にある。

三浦（逸）　最小専攻単位認定制だが、米国の専攻／副専攻とは違うか？
権　専攻／副専攻の試みは1980年代に韓国でもあったが、失敗に終わった。
　最小専攻単位認定制は「複数の」専攻を取得する制度である。
　国家試験でライセンスを取る分野（法学、医学など）を除いて、韓国の大学で一般に採用されている。

根本　大邱大学では、心理学と連携して専門学群が形成されているという話しだったが、図書館員の養成において、心理学に強いライブラリアンを育てる動きはあるか？
権　そうした動きはない。
　また、学部制は、もしやる気のある学生たちばかりならうまく運用されるだろうが、出来の悪い学生たちが多ければ、複数専攻をきちんと修得するのが困難だという問題を抱えている。

三輪　専門図書館について。医学図書館や法律専門の図書館で働く人たちの職位はどうなっているのか？
権　やはり司書資格をもって働いている。

三輪　医学図書館員が医学の専門知識を修得する場はあるのか？
権　医学図書館協議会で研修などを行なっている。

三浦（逸）　「学問としてのアイデンティティ」について。
　文献情報学が新たな岐路に立っているが、いままでの領域を守るのか。
　それとも新しい領域を作るのか。
　どのような展望があるか？
権　残念ながら、明確な回答は持っていない。
　研究者たちの間でコンセンサスが得られていないのが現状である。
　ちなみに、1995年に韓国図書館情報管理学会の発表大会で「文献情報学」の定義に関する議論があった。
　ある発表者が「文献情報学＝情報学＋書誌学」と述べ、範疇に図書館学を入れなかったことに対して、猛烈な反発を呼んだ一件である。
　まったく新しい領域づくりは考えにくいかもしれない。

安　延世大学では、教授3人が米国で情報学博士号を取得し、カリキュラムも情報学に偏る。
　情報学領域にシフトしていく可能性は否定できない。
権　情報学の範囲をどこまで定めるかも問題となろう。
　例えば「図書館の自動化」を情報学に入れる考えもあった。

根本　英米のライブラリアンシップとアジア圏のそれとの比較が、今後ますます重要になってくると考えています。
　本日はご発表ありがとうございました。

第6条［司書職員等］
�@　図書館には、大統領令の定めるところにより、図書館運営に必要な司書職員、司書教師または実技教師（司書）を置かなければならず、社会教育法が定めるところにより、社会教育専門要員を置くことができる。
第24条［国・公立公共図書館の館長及び運営委員会］
�@　国または地方自治体が設立・運営する公共図書館の館長は、司書職で補する。

林昌夫「＜解説＞」ibid, p.121
“…国または地方自治体が設立・運営する公共図書館の館長について、「図書館及び読書振興法」第24条第1項は、司書職で補するとしている。付則第4条の経過措置では、大統領令が定める日までは司書職または行政職で補するとなっているが、これに関する当該大統領令「図書館及び読書振興法施行令」（1994.7.23大統領令14339号）は、付則第3条で「大統領令が定める日」を1996年12月31日としている。したがって1997年1月1日をもって、「図書館及び読書振興法」第24条第1項の公共図書館の館長を司書職とする規定が、発効することとなり、今日に至っているわけである”