<<< back

エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立
第3回ワークショップ
「LibQUAL+の現在・過去・未来」

議事録

開会の辞 | 発表T(佐藤:前半) | 発表T(佐藤:後半) | 発表U(永田) | 発表V(須賀) | 質疑応答

::: 発表T(佐藤義則氏:前半) :::

佐藤発表者
 佐藤でございます。
 よろしくお願いいたします。
 今日私は50分いただいておりまして、若干資料を用意し過ぎまして苦しいので飛ばしてやっていきたいと思います。
 永田先生と須賀先生から後ほど理論的なところを含めて詳しくご説明をいただけると思いますので、私はできるだけ実務的なところ、あるいは具体的なところを中心に展開させていただこうと考えております。(以下、パワーポイント使用
 最初にLibQUAL+のもとになりましたSERVQUALの開発過程を振り返った上で、1990年代の初めから開始された図書館へのSERVQUALの導入についてお話しさせていただきます。
 その後にLibQUAL+の開発プロセスや、現在はどのように行われているかといった点について説明をさせていただきます。
 そして最後に、より実際的な側面である、永田先生と私が行ったサービス品質評価の具体的調査手法等についてお話しをさせていただこうと思っております。
 まず、図書館サービスをどのように評価するかということについて、Orr(オア)は1973年の論文で、図書館サービスの良さは究極的には次のような二つの質問に集約できると書いています。
 一つは「サービスはどのような状態か?」、それからもう一つは「サービスはどのような良さをもたらしているか?」です。
 Orrは最初の質問が品質にかかわるもので、もう一つの後のほうの質問は価値にかかわるものだとしています。
 つまり、サービスの品質を査定する際の究極の評価基準は、サービス対象である利用者へのニーズの適合可能性であり、サービスの価値は究極的には費用を提供する立場から見た図書館の利用から生じる便益効果によって判断されるべきだとしたわけです。
 しかし、実際にはご存じのとおり、それらの直接的な測定あるいは把握は困難であることから、1970年代、80年代においては関連する間接的な評価基準である量的な指標として、投入資源あるいは利用件数等のアウトプットがいわば代用的に品質をあらわす指標として用いられてきました。
 消費者研究あるいはマーケティングの世界では、1970年代の後半ぐらいから、サービスをどのように評価するかという議論が始まりました。
 その中で、特に「サービス」と「製品(モノ)」の違いに注目が集まりました。
 そこから出てきた「サービス」と「製品(もの)」の違いには四つありまして、「サービスは行動あるいは行為であるためにかたちとして捉えにくい」という非有形性、「だれが、いつ、どこで提供するかによって変動する」という不均一性、「サービスでは生産と消費が同時に発生し、買い手もサービスの生産のプロセスに参加しパフォーマンスと品質に関与する」という不可分性、「保存や保管ができない、返品ができない」という消滅性といったことが指摘されました。
 この四つのために、サービスの品質を客観的にとらえることは難しいということから、サービスの品質は「サービスの卓越性」についての顧客の判断に基づいて把握することがふさわしいというような考えが導かれました。
 この結果、「主観的なものである認知品質が、客観的品質よりも購買(利用)行動をより良く説明できる」(Jacoby and Olson, 1985, p.xii)とか、あるいは次の文章はLibQUAL+の活動のなかでもよく引用されてきたのですが、「顧客だけが品質を判断できる。他のいかなる判断も本質的に見当違いである」(Zeithaml, Parasuraman, and Berry, 1990, p.16)というように表現されるようになったわけです。
 最初に述べましたように、Parasuraman、Zeithaml、Berryの3人がチームでSERVQUALという品質評価のための仕組みを作ったわけですが、彼らが最初にやったことはGapモデルと呼ばれる概念モデルの作成です。
 Gapすなわち不一致は、顧客の期待と経営側が顧客のその期待をどのように把握しているかの間の不一致についてのGap1から始まりまして、Gap5まであります。
 Gap2、3、4というのは経営内部の問題であり、それらが最終的に反映されるのがGap5です。Gap5というのは、顧客のサービスの期待と顧客が実際にサービスをどのように評価しているかの間のGapです。
 これまでのSERVQUAL調査で一番多くやられているのは、このGap5を対象としたものですが、実は数は少ないですがGap1を対象にしたものも行われてきています。
 Parasuraman等は、銀行、クレジットカード会社、証券業、製品修理・保守の4業種を対象にフォーカスグループインタビューを実施しました。
 その結果から顧客が注目する観点を97項目抽出し、さらに相関係数の分析や因子分析の手法を通して7局面、34項目に絞り込んでいき、そして最終的に5局面の22項目からなるSERVQUALを発表しました。
 この局面という言葉は、後でご発表になられる須賀先生は「次元」という言葉をあてられていますが、Dimensionの訳として使っています。
 五つの局面にかかわる22項目に関するサービスの期待とサービスの認知の差によって、サービス品質が把握できる。これがSERVQUALのもとになった考え方です。
 先ほどの局面、次元ですが、局面とは構成概念を形成するそれぞれの側面のことを指します。また、具体的観点としての指標が集まって構成されるものです。
 この図は93年のChildersとVan Houseの本に掲載されたものを持ってきましたが、局面と指標はこのような関係にあります。
 SERVQUALは1980年代の後半に開発されましたが、まず初めに、どれぐらい期待しますかという質問を22項目やりまして、その後にどのように評価しますかというのを聞く。
 最初に期待を聞いてから、認知を尋ねるというやり方を1カラムフォーマットと呼んでいますが、それで始まりました。
 しかし、いろいろな議論があった結果、93年の段階でzone of tolerance(許容範囲)という概念を導入します。
 要するに期待を2種類の期待に分けましょうということで、適切(adequate)なレベル、あるいは顧客が受け入れる最低限のサービスレベルと、それからもう一つの望ましい(desired)レベル、あるいは提供されるべきサービスレベルという二つを尋ねまして、その幅で期待を把握しようというものです。
 これに対応する形で94年には3カラムフォーマット、これは先ほどの適切(adequate)なレベルに対応するものですが、最低限のレベルと望ましいレベル、それに経験に基づく評価の3項目を1行に並べて尋ねる、現在LibQUAL+で使われている方式が発表されます。
 なお、もう一つ2カラムというのが途中に出てくるのですが、これは期待と認知を項目ごとに横に並べて尋ねるやり方です。
 この94年の段階で、リッカート尺度が7段階から9段階へ変更されます。
 これは5段階とか7段階ですと分散があまり大きくならないので、違いがはっきりわからないという理由からでした。そのほかにも質問項目の若干の入れかえなどが示唆されています。
 3カラムフォーマットというのはこの図のようなことを、期待されるサービスについて、望ましいサービスと適切なサービスの許容範囲で尋ねるわけです。
 先ほど申し上げましたように、90年代にアメリカで大学図書館あるいは公共図書館でSERVQUAL調査が実際に始められます。
 91年に健康科学専門図書館のオンライン検索サービスの品質保証プログラムの評価に使われたHumphries & Naisawaldのものが一番最初だと思います。
 それから二つ目がカナダの公共図書館におけるILLサービスということで、Hebertという人が93年、94年に論文を発表しています。
 これはミステリーショッピングみたいなやり方で、架空の図書を目録データベースに登録しまして、それをカウンターに行ってILLで尋ねる。
 それは実際にはないわけですから、そのときにどういう結果が出るかというような、要するにダミーによる調査でした。
 それから三つ目が、Niteckiという現在はイェール大学図書館にいらっしゃる人ですが、大学図書館へのSERVQUALの適用可能性を探るためにILL、リファレンス、リザーブを対象とした調査をします。
 Niteckiは、この三つのサービスの調査のいずれの結果からも、因子分析から得られた因子がSERVQUAL本来の局面と対応したのは有形性だけで、信頼性、応答性の項目は混在して、あるいは保証性と共感性の間にも区別が見当たらなかったという報告をしています。
 先ほど申し上げましたGap1の部分については、「大学図書館の利用者が情報サービスに抱く期待と、それらの期待を図書館職員がどのように捉えているか」というGapですが、この比較のための調査をEdwards & Browneが95年にやっています。
 この報告では、PZB(Parasuraman、Zeithaml、Berry)の3人から提案されたSERVQUALの5局面が、どうも大学図書館の情報サービスの品質とは異なるのではないかということが示唆されました。
 また、局面性の再現調査という面では、Andaleeb & Simmondsの2人が3大学図書館の利用者調査をやっています。論文としては98年と2001年に報告されています。
 ここでは「情報資源と態度が、利用者の図書館サービス品質の認知にもっとも大きな影響を与えている」というようなことが報告されました。
 後で永田先生からご説明いただけると思いますが、SERVQUALのもとになりました5局面とは異なる結果の報告というのが、実際いろいろなサービスの分野で出てきます。
 ガス公社に関しては1局面であるとか、3局面はカーサービス、4局面は衣服小売業、あるいは病院サービスでは5から9局面とか、その他どうも違うのではないかというような報告があちこちから出てきます。
 そういったことを背景にしまして、LibQUAL+というのが、実際に調査は2000年から始まるわけですが、99年から準備が始められます。
 では、主として開発にあたったのは、テキサスA&M大学のチーム、Colin Cook、Bruce Thompson、Fred Heath、Yvonne Lincolnの4人です。
 Cookは現在、テキサスA&M大学の図書館長だと思います。それから、Thompsonは教育心理学分野、心理統計の専門家です。
 それからHeathは別の大学の図書館長になりました。
 Yvonne Lincolnというのは『Handbook of Qualitative Research』という厚い本を書いている人ですが、質的分析の権威です。
 LibQUAL+が目指したところというか特徴としては、異なる図書館間及びサービス設定において、共通に使用でき、比較のための基準(norm)を提供できる調査ツールを開発しようとした点にあります。
 また、SERVQUAL本来の局面構成の修正を前提とします。それから、大規模なデータ収集、Webサーバーによる調査です。
 Webサーバー側では、これはいわば最近よく使われているPHPと同じようなタイプのものですが、ColdFusionというサーバーサイドのスクリプト言語が使われました。
 テキサスA&M大学では、1994年から3回にわたってSERVQUALの調査を実施していました。
 これらの結果はColemanその他によって1997年に論文になっています。Cook等はまず、その3回のデータをもとにして、SERVQUALの適用可能性について分析を行いました。
 具体的には、SERVQUALの信頼性と妥当性を検証し、それから主成分分析を行ってどういう因子構造が得られるかをということをテストしました。
 その結果、サービスの姿勢とここでは訳しましたが"affect of service"という局面が報告されます。サービスの影響と直訳したほうがいいのかもしれないですが、後々の内容を見ると"affect of service"で尋ねているのはどうも職員の姿勢ややりとりの部分なので、ここではサービスの姿勢と訳しました。
 Cook等によると、これはSERVQUALの保証性、応答性、共感性が融合しているというわけです。
 これが一つと、それから信頼性と有形性の3因子構造であったという報告が行われました。
 その次に行ったのはインタビュー調査です。60人に個別のインタビュー調査をしまして、Lincolnの指導のもとでその結果の質的分析をしていきます。
 彼女はグラウンデッド・セオリーに基づいた分析と言っていますけれども、私にはよくわからない部分があります。
 グラウンデッド・セオリーといっても非常に幅が広過ぎて漠然としているので、そういうふうに書いてあっても何をどうしたかということは定かではありません。
 ともかく、そこでの分析からSERVQUALに追加すべき三つの局面が抽出されました。
 場所としての図書館、コレクションへのアクセスの容易さ、セルフ・リライアンスの三つです。
 次に、この結果をもとにしまして2000年からLibQUAL+としての調査が開始されます。
 2000年の調査は、SERVQUALの22項目に加えて、場所としての図書館の9項目、それからコレクション&アクセス10項目、合計41項目で行われました。
 質的分析から得られたセルフ・リライアンスというのは、要するに1人でちゃんと使える、探し出せるとかそういうものですが、ここではコレクション&アクセスのところに含まれています2000年の段階ではアメリカ国内の13機関を対象にして調査が実施されました。
 その13機関から得られたデータをもとにしてCookとThompsonは分析を行って、追加した2局面の妥当性が確認できたという報告を行いました。
 続いて2001年の調査ですが、2001年には56項目の質問項目が用意されました。
 2000年、2001年というのはまだLibQUAL+を開発していく過程です。
 より大規模な調査ということで、ARL加盟館35館と非加盟館8館を対象にして調査が実施されます。
 56項目中の25項目を対象とした主成分分析の結果から、サービスの姿勢、パーソナルコントロール、場所としての図書館、情報アクセスという四つの局面が設定されています。
 ここでの主成分分析ですが、さきのインタビュー調査から得られたデータの質的分析から得られた局面に適合するような25項目を選ぶというやり方がとられました。
 ですから、先ほどの60人に対するインタビューから局面を抽出するというプロセスがLibQUAL+を考えるうえで非常に重要な箇所になっていると思われます。
 2002年には先ほどの25項目による調査が行われます。
 そして、より規模が拡大されます。
 164機関、7万8000名が対象です。
 この中にはコンソーシアムのOhioLinkであるとか、あるいはSmithsonian Instituteであるとか、New York Public Libraryの研究図書館部門も含まれています。
 2003年には、調査項目を25項目から22項目に削って調査が実施されます。
 局面としては、ここではService Affectというような用語を使っていますがサービスの姿勢と、場としての図書館、それにInformation Controlは情報提供と書きましたが、情報管理のほうがいいのかもしれません。
 こういう3局面でサービス品質を把握するというわけです。
 ここの部分のどうして4局面から3局面にしたかという点は、よく把握できていません。
 私にはわからないところでした。
 2003年には308機関に拡大されます。
特に英国のSCONULの20大学や、カナダやオランダといった米国外の機関にも展開されました。
 2004年の調査では204機関、2005年では255機関、2006年は307機関、そして2007年は247機関が予定されていると、LibQUAL+のWebページに出ています。
 現在の質問項目がどうなっているかというと、先ほどの3局面の22項目だけではなく、実際には追加質問として11項目が設定されています。
 次にコメント欄ですが、自由記述式のコメントはこの種の調査でとても重要なものです。
 コメントボックスがありましてそこに回答者が記入するわけですが、だいたい半分ぐらいの人が記入をしていると報告されていました。
 それからE-Mailアドレスの欄があります。
 これは懸賞贈呈用で、その大学によって当たった人に商品をさしあげますというようなやり方を行うためのものだということです。
 そのほかにローカル設定質問ということで5項目が用意されます。
 LibQUAL+チームが設定した100の質問から五つを選んで設定できるということです。
 もう一つ最後に、デモグラフィックな情報、所属であるとか専攻分野であるとか、そういったものがあります。
 ですから、これ全部を合わせますと、1人の利用者から得られる情報というのが100を超える変数になります。
 これがサンプルの画面です。こういうような形式によって9段階でMinimum、Desired、Perceivedの三つを尋ねます。
 それから、Perceived にはN/A(Not Applicable)という欄が用意されています。
 よくわからないとき、答えられないときはここにチェックをつけてくださいというわけです。
 Affect of Serviceは、"Library staff who instill confidence in users"といった9項目です。
 訳もしてみたのですが、変な訳でお出しするよりはこのまま見ていただいたほうがいいだろうということで、そのままにしました。
 少し眺めていただければと思います。
 かなり似たような質問もあるように感じられるかもしれませんが、それは要するに、その違いということも含めて把握をするんだというようなことが書かれています。
 なお、実はこの9項目というのは全部SERVQUALから引き継がれた質問です。
 次に、Information Controlです。
 先ほど情報提供というようなことを言いましたが、実際に内容を見ていただくと"Making electronic resources accessible from my home or office"など、情報へのアクセスというか利用に関わる部分です。
 これが8項目あります。
 それから場所としての図書館が5項目です。
 追加の質問については、これはThompson、Cook、Kyrillidouの3人が2005年に報告している中にあったものですが、Satisfaction(満足)、要するに全般的な満足度について尋ねています。
 "Overall quality of service provided by the library"、図書館によって提供されるサービスの全般的な品質、それから図書館での扱い方、サービスの接遇に対して満足しているかどうかとか、学習あるいは研究に対する図書館のサポートへの満足度。
 こういうような満足を尋ねています。
 それからOutcomesと書いていますけれども、情報リテラシとアウトカムの関連を尋ねています。
 この2005年の論文では、先ほどのサービス品質調査の部分とこれらの項目のクロスで相関分析を行って、その結果から、サービス品質の特にAffect of Serviceのところが満足に非常に関わっているというような報告がされています。
 国際的な展開という面では、これまでに、オーストラリア、カナダ、デンマーク、エジプト、フィンランド、フランス、ニュージーランド、オランダ、ノルウェー、南アフリカ、スウェーデン、スイス、UAE、英国、米国で実施されています。
 このため、たくさんの言語に対応するバージョンが用意されています。
 イングリッシュに関しては米語と英語と二つがありますし、フランス語、ドイツ語、スウェーデン語、ノルウェー語、オランダ語、フィンランド語、デンマーク語、アフリカーンス語という言語が用意されています。
 これに日本語が入るかどうかというわけです。
 この図は"World LibQUAL+ Survey"といテキサスA&M大学の人がお作りになったものです。赤い点のところで実施しているというわけで、世界中でこんなにやっていますという図です。
 ARLではStatsQUALという名で呼んでいますが、これはLibQUAL+の上位の枠組みに当たるもので、その中でDigiQUALというのとMINESという二つの調査がLibQUAL+の関連調査として位置づけられています。
 DigiQUALは電子図書館のサービス品質を評価するための取り組みです。
 これは、要するにLibQUAL+と同様の手法で、Gap分析で電子図書館のサービス評価をしましょうというものです。
 DigiQUALの開発はNSFのNSDL(National Science Digital Library)を対象として行われています。
 これまでに、フォーカスグループを2003年、2004年に行って、画面にあるような12のテーマに関連する180項目を確認したということです。180項目からこういう12のテーマを抜き出したわけです。
 次に、試験的サーベイということで2005年、2006年に180項目の中から電子図書館の開発者が項目を選定し,利用者ごとに5項目の質問(ランダム抽出)に回答を受けるというやり方で実際にテストが行われました。
 ただし、Kyrillidouが報告しているんですけれども、やはりなかなか難しいということです。
 特にNSDLの場合には、いろいろなコミュニティーがかかわっているので、コミュニティーごとにアクセスするページが違っている。
 そうすると、評価もそのコミュニティーごとに考えなければいけないというようなことです。
 どうも単一のものをつくるには時間がかかりそうだなという印象を受けています。

<<< back