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エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立
第3回ワークショップ
「LibQUAL+の現在・過去・未来」

議事録

開会の辞 | 発表T(佐藤:前半) | 発表T(佐藤:後半) | 発表U(永田) | 発表V(須賀) | 質疑応答

::: 発表V(須賀千絵氏) :::

池内司会
 引き続き須賀先生からご発表をお願いしたいと思います。
 よろしくお願いいたします。

須賀慶應義塾大学
 慶應義塾大学の非常勤講師をしております須賀と申します。
 先ほどから佐藤先生、永田先生の発表がありましたので、それに屋上屋を架すような形とはなりますが、「SERVQUAL、LibQUAL+にできること、できないこと」というテーマで発表をしたいと思います。
 まず、サービスの量と質ということですけれども、図書館の世界では長いこと、サービスを貸し出し冊数であるとか、来館者数といった量的評価尺度を使って評価をするということが行われてきました。
 図書館はそういった環境の中で、図書館員の中にはサービスの量には反映されないが、私たちはよいサービスをしているというふうにいら立たしい思いをしている人もいるのではないかと思います。
 私自身は図書館員でしたけれども、やはりこういう思いがありました。
 この場合、よいサービスというのは、例えば少数のニーズしかないがそれに対応した高度なサービスを私たちはしているんだ、障害者の人は少ないかもしれないが点字資料をちゃんとつくっているんだとか、あるいは資料保存などといった現在の利用者にとっては不便かもしれないけれども、将来の利用を考えたサービスをしているんだとか、そういったようなサービスが当たるのではないかと思います。
 量とは違うよさをはかりたいというような希望というのは図書館員の中にあるように私は思います。
 SERVQUALとLibQUAL(リブカル)は先ほど……ライブカルと言うそうですけれども、私も文献ばかり読んでいたので発音がわかりませんでした。
 今日初めて知ってよかったと思います。(笑)
 SERVQUALをもとに開発されたものですからSERVQUALは基本原理ですので、SERVQUALに言えることはLibQUALにも言えることだと思います。
 SERVQUALとLibQUALはそれぞれ見てのとおり、ServiceのQuality、LibraryのQualityという言葉からつくられた造語ですので、この名称を聞いて図書館サービスの量ではない質がはかれるのではないかと期待した人もいるのではないかと思います。
 私自身は当初、非常に期待をしました。今回は、SERVQUAL、LibQUALというのは果たしてどんな質をはかろうとしているのかを確認してみようというのが内容です。
 まずSERVQUALについてお話をして、続いてLibQUALについてお話をします。
 まずSERVQUALについてです。
 SERVQUALの方法上の特色は、一つ目が顧客がサービス品質を決めるということ、二つ目が数値によってサービス品質が表現されるということ、3番目がGap値を使うこと、4番目がツールの標準化ということにまとめられると思います。
 これからこの四つの特徴に沿って何ができるか、あるいは有効であるための条件はどんなところにあるかということを考えていきたいと思います。
 まず顧客がサービス品質を決めるという特色ですけれども、品質判断、品質の評価においてはミシュランのレストランガイドのように専門家が品質を判断するというやり方をとることもしばしばあります。
 これに対して、SERVQUALは開発の過程から一貫して利用者の求めるものが質であるという立場をとってきました。
 図書館が利用者を対象にSERVQUALを実施することによって、利用者の求めている質とは何かを知ることができます。
 つまりSERVQUALというのは、先ほども説明があったように、開発に当たって何がサービス品質であるかということはあらかじめ規定しないで、顧客の判断に任せた点というのが最大の特徴だと思います。
 各図書館がSERVQUALを行う場合も、これはサービス提供者である図書館が設定した目標に対する評価ではないということに留意する必要があります。
 経営管理においては、評価は目標に対して行うという目標管理といった考え方もありますけれども、SERVQUALの評価というのはそのような考え方には立っておりません。
 別な言葉で言えば、先ほど佐藤先生の話の中にも出てきましたけれども、いくら図書館が高度なサービスをしていても、顧客が期待していなければそれはサービス品質として評価されません。
 例えば質問回答のサービスのレベルがいくら高くても、そもそも利用者が図書館にそれを期待していなければ、サービス品質としては評価されません。
 図書館は単にレベルの高いサービスを提供するだけではなくて、先ほどエビデンスという言葉で永田先生がお話しになりましたけれども、サービスの意義について利用者にわかってもらうという努力が求められます。
 永田先生、佐藤先生が局面とおっしゃっていたものと同じですけれども、SERVQUALの次元について、次元が不安定だというのがやはり批判としてあります。
 実際に幾つかの研究で、オリジナルと異なる次元が導き出されたというのは何回も研究で示されました。
 これはサービスが異なると求める質が異なるという考え方もありますし、また、顧客が変われば求める質も変わるという考え方もあると思います。
 第2の特徴は、サービスの質を数値化したという点です。これによって、サービスの品質を文章で表現した場合には、客観的な比較はなかなか難しいんですけれども、数値化によってほかの図書館であるとか、過去の実績との客観的な比較はできるようになりました。
 しかし、SERVQUALの値というのは、いろいろな偏差値を使ったりパーセンタイル順位を使ったり、加工の仕方はいろいろあるのですが、基本的にどれだけ多くの利用者が高いサービス品質を認知したかにかかっていますので、したがってもともと対象が少数者しかいないサービス、先ほど言いましたように障害者サービスとか、高度な専門的なリファレンスサービスの評価には向かないといった点に注意する必要があります。
 第3の特徴は、評価に際してGap値を用いているということです。
 単に認知の値だけを使う場合に比べて、個々の図書館の違いを捨象することが非常に簡単になりました。
 例えば規模が違う図書館であるとか、もともとサービスのレベルが違った図書館でも比較をすることが可能になります。
 サービスのレベルが違うと言いましたけれども、SERVQUALは期待と認知の差の大きさを見るわけですから、サービスの絶対値が評価されているわけではありません。
 例えばあまり期待していなかったけれども、そこそこの味のファーストフードと期待は大きかったのにさほどでなかった高級レストランを比べた場合、料理の味や接遇は高級レストランのほうがはるかに上であっても、サービス品質はファーストフードのほうが高くなるということはあり得ます。(笑)
 またこの予想以上の味だったことから顧客の期待が大きくなれば、そこそこの味のファーストフードが精進して味のレベルを上げたとしても、サービスの品質が変わらないとか場合によってはダウンするということもあり得ます。
 SERVQUALでは、3種類の値を顧客に答えさせるわけですが、顧客にはこの3種類の区別が本当にできるんだろうかというような批判が上がっています。
 また、実際にサービスを提供した後に、3種類の値を基本的に同時に尋ねますので、理想や最低限の値は認知の値に左右されるのではないかという危惧も出ています。
 第4の特徴は、各種のサービスに共通して使える標準化ツールとして完成をしているということです。
 これによって業種の違いを超えた比較もできるようになりました。
 また、同時にさまざまな業種に適用するということから、どこの業種にもあるようなサービスの一般的な側面しか測定できないという制約もあります。
 この標準化ツールという特徴については、LibQUALの説明の中でも取り上げます。
 マーケティングの世界では満足という言葉が以前から使われてきて、サービス品質と満足とはどう違うのかというのが議論になっています。
 SERVQUALの開発者のParasuramanらは初期には、満足は特定の取引を通して得た感情であって、品質に先立つものであり、両者の関係は非常に深いというような説明をしていますけれども、それではあまり両者の区別が明確ではないという批判も確かにたくさんありました。
 これに関連して、サービスの品質と満足の関係をCroninとTaylorという研究者が認知の値だけのほうが、サービスの品質であるGap値よりも満足との相関が高いというような結果を出しています。
 彼らは4種類のサービスについてSERVQUALを実施する際に、サービスに対する私の感情は不満である、あるいは満足であるという質問を同時に行って、相関を見るという方法をとっています。LibQUALで使われているのと同じです。その満足が何かということは、とりあえず満足という言葉で顧客のほうにその判断を任せています。
 LibQUALについても同じような実験を行って、LibQUALのスコアと満足のスコアの相関を見ると、Gap値よりも認知の値のほうが相関が高いという結果が出されています。
 SERVQUALの開発者のParasuramanは、こういったいろいろ批判もあったので、その後、改めて個々の取引におけるサービス品質と企業に対する全般的なサービス品質を区別するという考え方を打ち出しました。
 個々の取引における満足は、サービス品質と製品の品質と価格をもとに形成されて、個々の取引における満足が、企業に対する満足やサービス品質や製品の品質や価格についての全般的な印象を形成しているというモデルを示しています。
 このときSERVQUALが測定している対象というのは、企業に対する全般的な印象のサービスの品質のことです。
 個々の取引におけるサービス品質というのは、現在のSERVQUALでは測定できないので、これについては今後開発していくべきだと述べています。
 しかし、このParasuramanらの説明もあまり明確なものではないので、この満足とサービス品質についてはいまだに議論が続いております。
 マーケティングの分野で開発されたこともあって、どちらかというと学問上の厳密な概念規定よりも、実務に活用できる診断ツールになっているかどうかというほうに関心があるように思われます。
 SERVQUALについてのまとめです。まずできること、最大のメリットというのは、ほかの図書館や過去の実績との比較が簡単にできることにあります。
 一方で品質の絶対評価はできない、また、少数者向けのサービス評価には向かないというような制約もあります。
 続いてLibQUALです。
 SERVQUALを図書館に適用するに当たって、まずSERVQUALのほうをほぼそのまま使う、あるいは設問を部分的に一部修正したり追加をするというやり方があります。
 これは初期の研究ですとか、佐藤先生や永田先生がやられたのもそのタイプですし、そのほか最近でもオーストラリアやインドの図書館で行われています。
 これに対してLibQUALやHernonらの研究というのは、基本的に図書館サービス独自のツールをつくるというもので、LibQUALのほうは標準的なツールをつくる。
 一方、Hernonらのほうは、永田先生の説明にもありましたように、図書館ごとに設問を変えるという方法をとっています。
 つまり、標準ツールかローカルなツールかという二つの方向性があることになります。
 LibQUALはこのように標準的なツールであることから、多くの図書館が共通するサービスに焦点が当たる、あるいは、個々の館独自のサービスの評価には向かないというような制約があります。
 一方、これとは別に、参加館は国際的な広がりを見せていますけれども、やはりアメリカやヨーロッパの研究図書館が中心です。
 館種としてはまず研究図書館が前提となっていますし、また、設問の中身もアメリカやヨーロッパ型の大学教育のスタイルというのを反映しているように思われます。
 例えば「場としての図書館」というところに、「研究と学習に刺激を与える空間」という設問とか、「個人の活動のための静かな空間」というような項目があるんですけれども、これはやはりレポートや論文をしょっちゅう書かせるというスタイルを反映していると思いますし、また、利用者と職員との接触も日本より多いのではないかという気がします。
 これはきちんと検証したわけではありません。
 一方Hernonらは、個々の図書館に利用者が期待するものは違うので、図書館間の比較はそもそもできないというような立場に立っていて、けれども、ここは永田先生の話にありましたが、構成要素をリストアップすることができるだろうということで、資源、組織、職員に分けていろいろリストをつくっています。
 繰り返しますと、SERVQUALというのは、全サービスの分野に共通のツールであって、最も適用範囲が広く、続いてLibQUALで、最後にHernonらということになります。
 標準ツールを使用すれば、図書館間の比較はできますけれども、きめ細かい評価はできないというような制約はありますし、一方できめ細かい評価を求めるのであれば、ローカルな尺度というか、ローカルなツールをつくるしかないということになって、ローカルなツールをつくれば当然、図書館との比較はできないし、またつくったツールの妥当性の検証も手間も大変です。
 これらは相互に矛盾する関係にあって、どちらを重視するかということでHernonのほうをとるか、それともLibQUALのような標準ツールの方法のどちらかをとることになります。
 さっき追加の質問があると佐藤先生から紹介がありましたけれども、その追加の質問で満足に関するものとアウトカムに関するものがその中にあるんですけれども、これらを使って満足とサービス品質とかアウトカムとサービス品質は相関があるのかというような検証がなされています。
 先ほどSERVQUALでは満足とサービス品質という問題があって、そのほか価値という概念も取り上げられたりするんですけれども、このアウトカムという概念が取り入れられるというのは図書館に特有の特徴です。
 満足はサービスの姿勢とか、アウトカムは情報のコントロールに関係が深いとこの研究では示されています。
 いずれもサービスの品質との相関はあるけれども、満足のほうがより一層その相関が高かったそうです。
 図書館界では電子図書館のニーズというのが高まっているのですが、先ほどLibQUALではDigiQUALというのがあるという紹介がありましたけれども、これはLibQUALだけがやっているのではなくて、本家のSERVQUALもオンラインショッピングというのは人を介さないとか、物理的にその場所に行かないという、今までのサービスと大きな違いがあるので、独自のツールを開発する必要があるということで、これも発音がわからないんですけれども、オンラインショッピングを想定したE-S-QUALとE-Rec-S-QUALというのをつくっています。
 Hernonらも、e-SERVQUALというのを別途つくっています。
 まとめです。
 図書館の質という意味で、このLibQUALという言葉はつくられているわけですが、最初に述べた、私たちは量には反映されないけれどもいいサービスをしているんだというようなことがもとでLibQUALやSERVQUALに注目した人は、もしかしたらちょっとがっかりした点もあるかもしれません。
 これは顧客の主観に基づくツールであるという特徴であるとか、量vs質の質というわけではないということから結論として出されることだと思います。
 量vs質ではないといっても、サービス品質というのはその質の一つではあるんですけれども、質の全部ではありません。
 それは数値に変換できないとか、絶対評価ではないという特性から引き出されるものです。
 図書館の場合、相互評価を重視するのか、それとも評価のきめ細かさを重視するのかによって、LibQUALのような標準ツールでいくのか、それとも独自のツールをつくるというHernonの方式でいくのかを決めることになります。これは、どちらかに重点を置けば片方は弱くなるという関係にあります。
 日本だけではなく、研究図書館では、電子図書館サービスというのが物理的に来る来館型の図書館サービスに比べて、重要性がどんどん増しているわけですけれども、今までのLibQUALとかHernonらのものは、電子図書館サービスの一部は取り込んでいますが、その場に来てサービスを人から受けるというようなスタイルを基本にしていて、電子図書館サービスの評価については、十分な結果が得られるかどうかというのは、まだわからないと思います。
 これは今後開発されるようなツールを見て考えていくことになると思います。
 以降のものは補足としてつけましたので、ご興味のある方は見てください。SERVQUALの次元の紹介とE-S-QUALとE-Rec-S-QUALの紹介、あとHernonらがやっているe-SERVQUALのうち次元で名称が与えられたものを紹介しております。
 以上で発表を終わります。(拍手)

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