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エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立
第4回ワークショップ
エビデンスに基づく研究におけるインターネット・モニター調査の現在点」

議事録

開会の辞 | 発表T(辻:前半) | 発表T(辻:後半) | 発表U(長崎:前半) | 発表U(長崎:後半) | 質疑応答

::: 発表U(長崎貴裕氏:前半) :::

長崎指定討論者
 皆さん、こんにちは。インテージ・インタラクティブの長崎です。よろしくお願いします。まず、タイトルが実は完璧にかぶっていて、何にも事前に打ち合わせしていないんです。内容も相当かぶっていますが、できるだけ補完的な内容でお話しできるように、この場で工夫していきたいと思います(笑)。
 まず、軽く自己紹介です。ベンチャー企業の社長なので、どんなやつなんだという感じですが、実際はあまりベンチャー企業という感じではなくて、インテージという調査会社とヤフーさんの合弁会社です。インテージという調査会社は名前が2000年に変わりまして、その前までは社会調査研究所というグッとかたい名前でやっていました。昭和35年からある、本当に老舗の調査会社ということになります。私はずっとそこで、フィールド管理、調査員の管理から分析報告から一通りのことを経験してきて、ネット調査でもやるかということでインテージでネット調査を始めて、その後ヤフーさんと合弁会社をつくろうという話になって今の立場になっています。
 今日は、近年の調査事情から入ってインターネット調査の課題ということで話していきたいんですが、やはり国勢調査の話になります。ご存じのとおり国勢調査は、訪問調査、悉皆調査(全数調査)です。日本にいる人全員に調査をしようという調査ですが、5年に1回です。この間の国勢調査は2年前ですが、過去にない未回収率でした。基本的には、全部回収することになっています。その5年前は、全国で1.7%しかなかった未回収率が何と4.4%、210万世帯が答えてくれない。東京では13.3%の世帯が答えてくれなくて、なおかつ東京都中央区では3割が答えてくれない。どこが全数調査なんだというのが、今の国勢調査の実態になっています。
 何が原因かというと、個人情報やいろいろな原因はあるんですけれども、どうしようもないところがいっぱいあります。セキュリティの話、生活時間の話、個人情報の意識が高まるのは当然だし、訪問調査で全数とってこようというほうが、どうかしているんじゃないかという話もあります。5年に1回だけなので、環境の変化に対応できないというのは当然あります。これを毎年やっていれば徐々に悪くなっていって、その都度工夫していけばいいでしょうけれども、5年に1回では、やってみたら突然悪くなっていたということで、私としては多分だれが悪いわけでもないだろうと思っています。
 もう一個、世論調査のところで大きなことが起こっています。一昨年の秋以降、政府系の世論調査は軒並み回収率が7割から突然5割に低下しています。間抜けな新聞は、「個人情報の意識の高まりで2割落ちたんだ」というような記事を書いていたところもあります。ここに「もともと低かった?」と書いてありますが、一昨年の秋、ある調査会社の不正が発覚して、ずっと7割回収率があると言っていたんですけれど、不正を調査をしたら実際には5割しか回収率がなかったんです。その後やった調査は全部なぜか5割(笑)。
 我々もフィールドを管理していて、政府系の調査は当然入札になっていますが、仕様のところに「7割回収してください」と書いてあるので入札に応じられないんです。絶対に回収できないから。普通に考えて、訪問していって、国の名前が入っているにしても7割回収というのはあり得ないです。それに加えて、個人情報の意識、振り込み詐欺なんていうところもあるんですけれど、5割になっています。
 世の中の統計学者からいくと、当然のことながら住民基本台帳から抽出して一定の手順に従っておけば、統計的な誤差は推定できると。もちろん統計的な誤差はできますが、未回収が5割あったとき、それによる偏りがどれぐらいあるかということを実は測定していなかったんです。我々調査会社も、そこら辺の研究を十分にやっていたかというと、実はあまりやっていないんです。住民基本台帳から抽出して回収率を高く保つことが調査会社の責務であって、それを守っていれば許されるというか、精度は担保されるはずということでやっていたんです。
 ただ、もうこんなことを言っている時代ではなくなっています。今後、訪問調査はさらに厳しい方向になっていきます。国勢調査は、先ほどもお話がありましたけれど、MIXモードと言っていますが、いろいろな方法でデータを回収するという方向性で進んでいます。これも正直、どれぐらいうまくいくか、よほど手順を工夫しないと難しいと思っています。
 我々もMIXモードで回収することをいろいろ研究していますが、実は回収方法二つ以上提示すると、回収率が逆に悪くなったりします。郵送でもインターネットでも返していい。商品の選択もそうですが、こっちでもこっちでもいいと言われると、どっちにしようかなと思っているうちに戻してこないということが生じます。単純なMIXモードでやると、回収率がまた下がるのではないかという懸念は抱いています。一つの手法でなめておいてから、それでだめであったら、次の手法に移行するようなやり方をしていかないと難しいかと思っています。
 住民基本台帳の話ですが、我々業界の人間としてはとても悲しいですが、市場調査と世論調査が明確に区分されて、市場調査はだめです、世論調査はオーケーですと。これも「まあ、オーケー」という感じで、実際には自治体に行って申請すると一応受け付けることにはなっていますけれども、予約がとれないとか、いろいろな事情でなかなかすんなりとはいかないのが実情だと思います。あとは費用を取られるというところで、基本的に住民基本台帳による調査は難しいのかなと思っています。

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