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エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立
第4回ワークショップ
エビデンスに基づく研究におけるインターネット・モニター調査の現在点」

議事録

開会の辞 | 発表T(辻:前半) | 発表T(辻:後半) | 発表U(長崎:前半) | 発表U(長崎:後半) | 質疑応答

::: 発表U(長崎貴裕氏:後半) :::

長崎
 そのような中で、インターネット調査がふえてきました。これは、日本マーケティングリサーチ協会という業界団体のアドホック調査、いわゆるアンケート調査の手法別売上構成の2000年以降の推移です。日本マーケティングリサーチ協会といっても、基本的に世論調査もやっている会社がほとんど入っていますので、マーケティング・リサーチと世論調査を両方足した数字だと思っていただいて構わないと思います。
 2000年以降ですが、2000年に初めて統計上インターネット調査が「日本マーケティングリサーチ協会経営実態調査」に3%で登場します。これがどんどんふえていって2005年で28%、去年の数字はまだ出ていませんが3割をもう超えているでしょう。全部の手法の中で、インターネット調査は売り上げの構成が一番高い手法になっています。なおかつインターネット調査は、先ほど話がありましたが訪問調査よりも値段が10分の1ぐらいです。実際にやっている調査でいくと8割ぐらいがインターネット調査で、ほかの調査手法はすごく少なくなっています。
 2000年以前はどのような感じだったかというと、今から20年前、1985年だと58%ぐらいが訪問調査です。訪問調査がずっと減っていって、その後、郵送調査や電話調査がふえていって、2000年が電話調査の頂点で15%、これが一番ふえたところです。そこから電話調査はインターネット調査に食われていったのと、2004年あたりから激減してしまったのは、やはりオレオレ詐欺です。オレオレ詐欺と電話調査はよく似ていると言うとまずいですけれど、区別がつかない(笑)。
 先ほどのRDDでランダムに電話番号を生成して無作為性を担保するという調査手法のお話がありましたが、無作為に電話かけるところまで無作為性が担保されています。電話調査のときに、電話に出た人にそのまま調査をかけたらランダム性が確保できるかというと、それではだめなんです。電話に出やすい人に調査をかけてしまう。これは調査としてだめなので、一般的にはいろいろな方法でランダム性を確保しています。
 よくやるのは、誕生日法と言われるものです。電話をかけておいて、「今日と一番誕生日が近い人を電話に出してください」。怪しいですよね(笑)。これで出すような人は、完全にオレオレ詐欺に100%ひっかかるような人です。というふうに考えると、電話調査できちっとランダム性を確保したやり方でやろうとして答えてくれる人は、よほど間抜けな人だけということになります。逆に、これではランダム性が確保できているのかと。もちろん回収率も低くなっていますし、そういった事情もあって、どんどん電話調査が減っているというのが現状になります。
 インターネット調査は市場300億ぐらいです。1995年、1996年ぐらいはシステム的な研究の段階で、1997以降がインターネット調査のサービスが出てきた段階です。ここら辺ではネットユーザーも少ないので、一般的には先行指標やPCに関する調査、ネットユーザーに関する調査をやっていたということです。
 2000年、2001年が転換期で、その辺から特殊な層に対する調査ではなくて、生活者全般の代表として、もちろんインターネットユーザーに限られていますが、インターネットユーザーに調査すれば生活者全体の意見とみなしてもいいんじゃないかという流れが出てきて、そこからどんどんふえてきているということがあります。もちろん、常時接続のユーザーがふえてきて、接続自体に課金されなくなったということも影響はあります。調査手法としての地位が高まったとか、各社が品質に対して取り組んだというところもあるのかもしれません。
 昔は、よく私も「インターネット調査で大丈夫ですか」とメーカーの方などから聞かれましたが、最近は「インターネット調査で大丈夫ですよね」。要するに、基本的にはインターネット調査が広まってきています。
 長所である費用対効果ですが、学術的な世界も予算で成り立っている部分が大きいかと思いますけれど、当然、企業やメーカーさんは予算で成り立っている部分は大きいです。1000万円で調査をかければ、1000万円の利益が出るような施策やマーケティングや開発に対するものに結びつかなければ意味がないわけです。調査に1000万円かけておいて、売り上げが100万円伸びましたという話は基本的にはあり得ないです。2000万円で例えば訪問面接調査をやって、それにペイするだけの成果を上げるというのはとても難しい。
 一方で200万円で調査をやって、それがペイできる調査というのは簡単とは言わないですけれども、あり得るんだということで、インターネット調査が出てきました。
 短所は、ネットユーザーに限るというところになります。
 もともと市場調査・世論調査の一番大きな根源のところは、とにかく回収率を上げたいわけですから調査を無理にお願いする、無理にでも答えてほしい。ネットのビジネスの根本というのは実は違っていて、事前の了解を得なければやってはいけないというのがインターネットのビジネスのパーミッションです。実は、ここは相反するところが根源的にあるということです。その中で、どう折り合いをつけて調査をやっていくかということです。
 インターネット調査で何が起こったかというと、安くなったので調査発注者の裾野が拡大しています。今まで2000万かけて調査をやって取り戻すことができなかった小さな企業さんや、それほど市場が大きくないところでも調査をすることができるので、その辺が拡大しているというところがあります。大きなメーカーさんのところでいくと、一番大きいのは調査の多頻度化です。今までは大体シーズン物でした。食品など例えばおでんを調べるといったら、冬場に1回調査するという話でしたが、年1回調査しているのがシーズンごとになったり、だんだんマンスリー(月1回)になったり、ウィークリー(週1回)になったり、デイリーになったりしています。
 この辺の事情は、インターネット調査でスピードを持ってできるようになったことだけではありません。コンビニでいけば、新しい商品を出して最初の1週間で売り上げが悪ければ棚落ちしてしまう。要するに棚に入れてもらえなくなるので、いくらマーケティングを頑張っても手おくれです。そうすると、発売の立ち上がりのところをデイリーでトラッキングしていって、様子がどうなっているかをとらえて手を打つなら打たなければいけない。競合品に対しても出だしだけを見ていて、だめだったらこいつは棚からなくなるから気にしなくていいというような見方になっています。そうするとどんどん調査が細切れになっていって、多頻度化していっているという傾向があります。
 品質の話は、先ほど話をしていたので繰り返しになりますのでいいですね。
 バイアスの話もいろいろ書いてありますけれど、基本的には同じです。バイアスの検証は、我々も当然インターネット調査でいいのかという問いかけがあります。今どういう検証をしているかというと、前にやった郵送調査の結果と比べてみる、訪問面接調査の結果と比べてみるというやり方をしています。違う結果が出るというのは先ほどお話があったようなところが中心で、違いがあるということは把握しています。その上で使っているというスタンスをとっています。
 いろいろみんな言っていますが、本当はだめな調査票で調査しているところのほうが実はバイアスは大きいです。サンプリングの問題に起因するところの誤差のほうが、もちろん検証するとあるんですけれど、実は小さかったりするんです。いい調査票をまずつくったほうがいいのではないかという話も一方ではあります。
 あとはパラパラと話をしていきますけれども、今までの一番正統な調査で、下から2番目にインターネット調査を置いていますが、この間に従来の調査があります。業界内で売っているのは、どこまでが調査なんだろうという話は結構言われています。CGMの内容分析ははやりですけれど、ブログに何が書かれているかということを定量的にとらえて、今の世の中の流れを知ろうというようなものは調査でしょうか。これはものすごくバイアスがあるデータだけれども、どうなんでしょうかという話もあります。ネット投票のレベルは、一般的には調査には入れないと、答えたい人が投票しているだけだと。こういうようなものは誤差もはかれなければ、結果の評価もできない。こんなものは調査じゃないよという見方もあるんですけれど、この辺も含めてもう一回考えなければいけない時期に来ているなと思っています。
 それは、我々はマーケティング・リサーチをやっていますが、マーケティング・リサーチをどういう立場で考えるかによります。今までの話の中でいくと正確なデータというのがあるんですが、正確なデータは要らないよという話も一方ではあります。真実がわからなくてもいい、何かアイデアがあればいいというリサーチは当然存在しています。いや、調査結果そのものがダイレクトに事実でなければいけないという立場もあるし、プロペンシティ・スコアのような形でモデルを一回通して真実に近づければいいという立場もあります。
 一方、判定さえできればいいと。これを買いたいという人が7割いても、従来の調査もそうですけれど、7割の人が買うかというと絶対にそんなことはあり得ない。大体、それを半分にしたような数字というのが我々もわかっています。では、70%の人が買いたいと答えた商品はヒットする。逆に50%しか買いたいという人がいなければ、それはヒットしないという判定さえつけばいいんじゃないかという立場もあります。基本的には、メーカーさんはこの辺の立場です。とにかく判定さえできればいいんだと。自分たちの経験知で、どれぐらいの値であれば役に立つか、売れるかということがわかってさえいればいいという立場があります。
 今後、世論調査といった世界ではどこまで許されるのかというのは、かなり難しいです。要するに、B(モデルによる真実の推定)やC(モデルによる判定)になってくると操作性が入ってくるので、測定した世論調査の結果を違うモデルに当てはめれば、違う結果を真実として公開することもできるようになってしまう。世論調査というのは、A(真実の測定)になるべくならなければいけないのではないかという考え方も一つあるかもしれません。そこが、マーケティング・リサーチと世論調査の違いなのかなという思いも私の中ではあります。
 私は新人が入ってくると話しているんですが、すべての調査が正しくて、すべての調査が正しくないと。基本的にアンケート調査というのは刺激に対する反応なので、バックグラウンドの条件・手順が同じであれば、その刺激に対する反応という意味では真実ですけれど、それは手順さえ変わってなければ比較することが可能なものです。一方で、バイアスが必ず入っています。質問して答えるという行為を意識しているだけなので、その中にはバイアスが入っていたり、100%の真実をとらえていないという意味では、すべての調査は正しくないという言い方もできます。絶対に正しいものだというような言い方は、やはり難しいと思っています。
 ただ、手続論でいったところでの再現性は絶対に担保しなければなりません。要するに、同じことをやったら、同じような測定値が出てくるというのは絶対に担保しなければなりません。代表性という言葉は最近使いづらいですが、実際の市場の値とどれだけ近づけるかというのは、我々に課された課題だと思っています。
 一気にしゃべってしまいましたけれど、というわけでございます。

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