U-2.パネリストによる発表(原田智子氏)
根本
続きまして、産能短期大学教授、原田智子さんからご発表をいただきます。
原田さんは、情報科学技術協会(INFOSTA)の理事でいらっしゃいます。
原田
ただいまご紹介にあずかりました、INFOSTAの試験担当理事をしています原田と申します。
よろしくお願いいたします。
お手元の資料に2ページほど、概略を書いておきましたが、パワーポイントを使ってご説明させていただきます。
私が所属しています情報科学技術協会の取り組みについてご紹介させていただきます。
これは情報科学技術協会のホームページのトップページです。
こちらに、試験に関する情報、研修やセミナーのご案内等があります。
今ご説明していると、とても時間が足りませんので、そちらのほうをごらんいただければと思います。
初めに、協会の沿革と事業活動についてご説明いたします。
1950年3月にUDC研究会が約30名で発足したのがきっかけで、同年9月にUDC協会が設立されました。
その後、1958年9月に日本ドクメンテーション協会に改名し、さらに1986年6月に情報科学技術協会に改名して、現在に至っています。
2003年8月末現在の会員数ですが、維持会員は企業会員で81社です。
特別会員は非営利団体等で126団体です。
普通会員は個人会員で1,468名です。
準会員は学生会員で66名です。したがって会員数の合計は1,741となります。
主な事業活動ですが、今回主にお話しするということで、認定試験をトップに挙げましたが、とくに順位はありません。
認定試験、研修事業、出版事業、研究活動、受託事業等があります。
それでは、今回のテーマである認定試験についてご紹介したいと思います。
実は、今年度から試験を一部改正しまして、新しい試験方法をいたしますので、昨年度まで実施していました試験を先にご紹介させていただきます。
初めに認定試験の実施に至る経緯ですが、1982年に第1回のデータベースフェアを開催しました。
そのころは、ちょうど商用のオンライン情報検索システムが、日本企業でも相当盛んに使われるようになってきた時代だと思いますが、1985年に「データベース検索技術者認定試験」、通称「サーチャー試験」と申していますが、この2級を開始しました。
翌年、1級を開始しまして、その後ずっと、昨年度までこの名称で試験が実施されてきています。
その間、3級レベルも実施したほうがいいという意見がありましたが、当時、科学技術庁の認定試験でしたので、3級を新たに付加することはできないということで、「情報検索基礎能力試験」という名称で1993年に新しく試験を開始しました。
「データベース検索技術者認定試験」は、検索技術者に必要な知識・技能を認定する、検索技術者の能力に対する社会的認識を高める、検索技術者の資質・知識・技能の向上を図るという3つのことを目的としておりました。
昨年お亡くなりになりましたが、INFOSTAの元会長である中村幸雄先生が科学技術庁に働きかけ、1989年から2001年3月まで、科学技術庁認定試験でした。
2003年4月から、行政改革で文部省と科学技術庁が一緒になるときに、科学技術庁がなくなるということで、この試験の認定も終わってしまいました。
今までの18年間の2級の受験者数・合格者数・合格率については、お手元の資料に書いておきましたが、グラフに示しますと、1990年と1991年をピークに、受験者数がかなり減少してきてしまっています。
これは一つの問題点だと思います。
2級の累計受験者数は10,211名で、累計の合格者数が4,106名、合格率の平均が40.2%です。
2級は大体4割の合格率ということになります。
1級は1986年から始まりまして、累計の受験者数は1,512名です。
ただし、初年度だけは2級を持っていなくても受験ができました。
実は私もこのときに受験して1級を取得しました。
その後は、2級の合格者でないと1級を受験できません。
累計の合格者数は243名で、合格率の平均は、16.1%です。
1993年に、新たに「情報検索基礎能力試験」を始めました。
データベースを効果的に検索・活用するための基礎的知識の保有者を客観的に認定する目的で実施されました。
試験の対象者はサーチャーではなく、企業などに勤める情報部門以外の一般社会人や、大学生などを対象に考えた試験です。
「情報検索基礎能力試験」の累計受験者数は5,848名、累計の合格者数は4,394名、合格率の平均は75.1%です。
1996、1998年あたりをピークに、これも減少しています。
試験開始後18年も経過しますと、その間にオンライン情報検索システムを始めとして我々情報を扱う分野で仕事をする者にとっての環境が大きく変わってきています。
特に1990年代後半に、日本でもインターネットが急速に利用されるようになり、情報検索の環境が大きく変化しました。
2003年度から試験内容を改訂して新たな試験を実施します。
実施に至る経緯ですが、2000年8月に、データベース検索技術者認定試験実施委員会(私が委員長をしていました)の委員の方々と構想案を作成し協会に提出しました。
その後、2001年7月に、新試験をするための委員会を発足させ、報告書をまとめていただきました。
2002年3月に、理事会で新しい試験への移行が決定され、2002年6月に新試験実施委員会が発足し、今年の11月23日(日曜日)に新方式での試験を実施することになりました。
昨年まで全国5会場で実施されていた試験を、今年はもう1会場増やしまして、全国6会場で実施します。
新認定試験の概要ですが、名称に関しては、「情報検索基礎能力試験」(以下「基礎能力試験」という名称は変更しません。
「データベース検索技術者認定試験」は狭い感じがしまして、いろいろな議論の末、「情報検索応用能力試験」(以下「応用能力試験」)という名称に変更されました。
2級と1級があることについては変更ありません。
試験の目的ですが、「基礎能力試験」は基本的には変わらないのですが、情報を検索し、活用するための基礎知識を認定する。
さらに、情報検索能力に対する社会的認識を高めるということを目的としています。
一方、「応用能力試験」については、情報検索及び、その結果の評価・加工に関する知識・技能、それから企画・コンサルティング能力を評価する。
また、情報検索能力に対する社会的認識を高める。
情報検索者の資質・知識・技能の向上を図る。以上のことを目的としています。
試験の領域や内容で「基礎能力試験」が今までと大きく違う点は、共通問題と選択問題を設定したことです。
共通問題は全員が必修で解いていただく部分です。
その部分としては、情報の生産と流通、情報の検索と利用、コンピュータと通信、インターネット、情報倫理、セキュリティ、知的財産などの知識です。その後、AコースとBコースを、試験中に選択します。
一つは、Aコースすなわち情報検索コースで、主に図書館情報学を勉強したり、司書課程で勉強している方々が、その資格を取るときのために勉強する情報管理に関する知識と、データベースに関する知識です。
データベースには、商用データベースの知識も含むということになります。
Bコースすなわち情報リテラシーコースは、情報の活用すなわち検索した情報を評価したり加工したり発信することに関する知識と、ソフトウェアの利用に関する知識です。例えば文書処理や表計算などの利用ができるかどうかということになります。
「応用能力試験」に関しては、ITに関する知識、情報検索技術に関する知識と実践、主題知識と応用、情報源と情報流通の知識と応用、英語能力です。
それに加えて今回、論文執筆及びプレゼンテーション、教育・指導能力が追加されました。特に1級に関しては、教育・指導能力を問うということになりました。
想定する受験者層ですが、「基礎能力試験」は大学の1、2年生で取得可能なレベルとしています。Aコースは、図書館情報学の学科・司書課程の学生、情報学関連を専攻する学生、企業の情報管理部門の新人担当者等を想定しています。
Bコースは、教養教育として情報リテラシー教育を受けた一般大学生、あるいは一般の社会人ということを想定しています。
「応用能力試験」ですが、2級に関しては、情報検索業務に従事している方々、情報検索に関心の深いエンドユーザー、図書館情報学の学科・司書課程の学生を想定しています。
1級は、それよりも高いレベルの知識や応用能力者、高い専門性や指導力を併せ持つ方々ということを想定しています。
受験資格は、基本的には従来と変わっていません。
「基礎能力試験」と「応用能力試験」2級は制限がありませんが、1級に関しては、昨年度までの2級の合格者と、今後2級に合格した方々が1級を受験できます。
新認定試験のポイントについてご説明します。
「基礎能力試験」は、受験中に問題を見てからAコースかBコースを選択することができます。
また、「応用能力試験」2級と併願ができます。
従来と同様、同一日の同一会場で、午前と午後に分かれて実施しますので、同一日に受験することが可能です。
「応用能力試験」に関しましては、2級は筆記試験のみで従来と変わりません。
1級の1次は筆記試験のみの実施で、2次試験は、従来は面接試験だけだったのですがプレゼンテーションと面接試験をしていただきます。
「応用能力試験」の試験時間は、従来の試験と変わりまして、前半がかなり短くなり90分、後半が逆に長くなり60分になります。
また、1級の場合には、自分の専門分野を選択して解答することになります。
1級1次の後半は論文形式で、市販の印刷物3冊の持ち込み可ということになります。
2次試験は、1次試験の後半の小論文と同一テーマでプレゼンテーションをしていただき、面接試験に入るという方式に変わります。
1級は専門分野だけということではなく、共通問題プラス専門分野別問題が出題されます。その専門分野は、ライフサイエンス、化学、特許、ビジネス、総合に分かれています。
この総合は、図書館情報学分野を想定しておりライブラリアンの方々を受験者層として考えています。
後半は、前半と同一分野を選択しなければなりません。
例えば前半で化学を選んで、後半で特許を選ぶことはできないということになります。
また、分野の選択は前半の試験中に選択します。
試験と専門性の関係は、三角形の底辺に「情報検索基礎能力試験」があり、中間地点に「情報検索応用能力試験」2級があり、トップに「情報検索応用能力試験」があるというようにみなすことができます。
特に「基礎能力試験」でAコースを選択した方は、「応用能力試験」2級にぜひチャレンジしていただいて、最終的には1級に臨んでいただきたいというのが、試験を実施する側の意向です。
当然ながら、1級では高度な専門性が要求され、図書館情報学と主題専門分野の両方の知識やスキルが必要だと思います。
今はだれでも気軽にインターネットで情報を検索する時代なのですが、2極分化の時代だと思われます。
特にエンドユーザーあるいは情報専門家になる予備軍の方々は、まず「基礎能力試験」あるいは「応用能力試験」2級を初めに受けていただきます。
そして、その中からインフォメーション・プロフェッショナルすなわち情報専門家として1級にチャレンジしていただくことになると思います。
それらの間には、図書館情報学教育や主題専門分野の教育が欠かせない要素だと思います。
また、それらの教育は大学教育との連携、あるいはリカレント教育、仕事をしながらもう一度学校に来て学ぶ教育体制も重要な要素と考えられます。
また、職場におけるキャリアアップを図るために、職場でのOJTなども必要になるのではないかと考えられます。
資格認定制度というのは、個人が所有する情報専門家としての主題専門知識やノウハウ、スキルや専門技術などの能力を職業的に認証するものと捉えることができると思います。
これは私の所属している試験合格者の会であるサーチャーの会で、人数は少なかったのですが、23名の方に対して各時代でサーチャーの担当業務がどう変わるかということをアンケート調査した結果です。
1970年代では圧倒的に代行検索業が多いのですが、2000年代を越えると、サーチャーご自身が代行検索業務は1割程度になるのではないかと捉えています。それに代わって、情報検索のコンサルタント業務の必要性が増してくると考えています。
情報専門家の専門性は、図書館情報学と主題専門分野のどちらも必要不可欠で、情報のプロフェッショナルとしては、どちらが不足していても業務ができないと思います。
21世紀の情報専門家が身につけておくべきセンス、知識、スキルですが、1番目に情報に対する高度なセンスが必要であると思います。
それにはトラディショナルな情報技術の習熟、特に主題分析能力が必要だと思います。
また、インターネット資源の活用能力、データベース、あるいはデジタルコンテンツ、情報検索技術などが活用できる能力が必要です。さらに今後はますます情報発信技術能力、すなわちデータベースの構築、ホームページの作成、論文執筆などの能力が必要になるでしょう。
また、知的財産や情報倫理についても習熟している必要があると思います。
2番目としては、コミュニケーション能力です。
山本様もおっしゃっていましたが、コミュニケーション能力は非常に大事です。特にこの2から6までの項目は、情報専門家であるからというより、社会に出て仕事をする上で欠かせない要素だと思っています。
コミュニケーション能力や、急激な環境変化に対応できる柔軟性、組織の一員としての問題解決能力、明確なコスト意識、エンドユーザー教育や指導能力があるということが必要なのではないかと思います。
今後の課題について申し上げたいと思います。
この試験も今年実施してみないとどのようになるかわからないのですが、「基礎能力試験」受験者の拡大を目指しています。
だれでもが大量な情報の中から、自分に必要な情報を的確に検索できる知識・スキルを身につけられるようにしていく必要があります。
受験者が年々減ってきてしまっていますので、その原因を探ることも重要です。
またインターネットを活用した試験方法など、受験者層の拡大を図る方策が必要であると思います。
大学教育においては、特に司書課程や情報リテラシー教育との連携を図り、資格を持った者を社会に送り出す制度というものが必要ではないかと思われます。
情報科学技術協会としては、新たな受験者層の拡大を図ることも必要です。
会員はどちらかというと、専門図書館や大学図書館に勤める方が多く、公共図書館員の方や学校図書館などに関連している方がほとんどいないのです。
最近の新聞にビジネス支援のための公共図書館という記事が載っていましたが、公共図書館員の方々や、学校の図書館司書、司書教諭、それから情報を教える小・中・高等学校の教員の方々など、「基礎能力試験」や「応用能力試験」2級の受験者層を拡大していく必要があるのではないかと思っています。
一方、「応用能力試験」1級ですが、主題専門分野と図書館情報学の高度な知識・スキルを持ったプロフェッショナルとして、情報の支援・サポートというより、プロジェクトの一員となって企画経営に参画して、問題解決に積極的に関わり、必要な情報を的確に提供できる協働者となれる人材育成への寄与を、この試験がしなければいけないのではないかと思っています。
医療の現場や法曹界、企業の知的財産部、研究所、大学の知的財産センター、大学図書館などで、研究という立場で他のスタッフと同等に活躍できる、専門に特化した優秀な人材が必要とされていると思います。
したがって、すそ野を広げると同時に、トップの高いレベルの情報の専門家というものも要求されている時代であると考えられます。
そのためにこの試験がどの程度寄与できるかということが、今後の大きな課題だと思っています。以上で終わらせていただきます。
根本
ありがとうございました。私もINFOSTAでやっている試験は、どちらかというと大学図書館、専門図書館にかかわって、そちらが中心だと了解していたのですが、今後はもう少しすそ野を広げるというお話で、今日の館種を超えた資格の問題にも密接にかかわってくるだろうと思います。
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