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公開シンポジウム記録
変わりゆく図書館情報学専門職の資格認定
--専門団体はどう取り組んでいるか--

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V-3.質疑応答(後半)、及び、まとめ

根本
 今日は共同研究のメンバーがたくさん来ているのですが、そのメンバーからでも、それぞれの研究課題にかかわってのご質問、ご意見等があれば、お願いします。

鈴木
 文教大学の鈴木と申します。
 司会の方への質問でもよろしいでしょうか。
 先ほど東京大学での法人化に伴う人事制度の検討が行われていると、根本先生がおっしゃっていたのですが、新たな専門職という議論の中に、図書館職はなかなか参入しづらいということをおっしゃっていました。
 その辺はなぜ、そのようになってしまうのか。
 もしかしたら、笹川さんもかかわられているかもしれませんので、どなたでも結構なのですが、そこをお聞かせいただければ、参考になるかと思います。

根本
 なかなか微妙な問題が含まれているので、私の全く私見というか、個人的な感想ということで申し上げさせていただきます。
 特に東京大学のような場合に、図書館という位置づけがこれまで国立学校設置法に図書館を置くということが義務づけられていたわけですが、これからの法人化に伴ってそれがなくなっていくことによって大きな影響を受けています。
 これまで図書館は大学の中で特殊な位置づけにあったと思います。
 図書館長の位置づけはこの法に基づいていましたが、これからは各法人毎に位置づけることになります。
 ほかの事務系の職員が人事院の採用試験で行政職という一枚岩の基盤があるのに対して、図書館は独立の部門という感じがあるわけです。
 もう一つは、図書館の経営基盤の特殊性です。
 経営そのものは図書行政評議会という組織で、各部局から1名ずつ教官が出て構成しているのですが、そういうものはほかには評議会しかないのです。
 つまり、図書館の組織というのは全学の中で非常に特殊な独立王国的な位置づけを占めていました。
 これは東京大学の特別なことなのかもしれません。
 そういうことで、図書館職員は、これまで独立の部門を形成してきたわけですが、これからは、今、法人化後の全学的な組織づくりをやっているなかで、全学のサービス部門の一つに回収される方向にあります。
 他方、大学全体の経営にかかわっている教官や理系の教官のなかから、それぞれ大学経営の必要性あるいは研究の必要性から、財務や知的財産などの部門に本当に有能な人材を確保するためにそれなりの専門職的な位置づけが必要だという議論が出ています。
 しかしながら図書館員はどうかというとき、そういう議論をしている人たちの頭の中には図書館員のことがきちんと置かれていないというのが事実です。
 ただ、一部の、特に資料を重視するような研究所や学部の中では、図書館員がこれまでやってきたことが専門的であることが認められてきていることもあります。
 先ほど漢籍の講習会のお話がありましたが、図書館員しかできないような特別な仕事を認めている研究機関は幾つかあるのです。
 そういうところでは、それなりの位置づけをしたいという話はあがっていると思います。
 先ほど笹川さんが、主題専門性のことをおっしゃったと思いますし、さきほどの医学図書館協会の資格認定にしてもそうですが、研究分野と対応した専門性を主張することがこれからどうしても必要になってくるのではないかと、私は思います。
 これまでも歴史的な資料や特殊な言語の資料の扱いについては、伝統があり、確立されている部分があると思うのですが、それ以外の分野では、これまでうまく開発されていないのではないか。
 これが私の感想です。
 よろしいでしょうか。
 では、ほかに、いかがでしょうか。

田辺
 慶應大学SFCの田辺と申します。職員の研修の取り組みについては、今回のシンポジウムの中でたくさん取り上げられたのですが、職員の側から見て、大学での教育、特に学部での図書館学教育について、皆様方の要望をお聞かせください。

根本
 学部での図書館学教育というのは、図書館利用教育のようなものでしょうか。

田辺
 図書館学そのものです。

根本
 図書館員の養成というよりは、図書館を学問として学ぶという意味ですか。

田辺
 図書館員養成でも研究者養成でも、どちらでも構いません。

根本
 それは私も伺いたかったことです。現場の立場から見て、今の図書館学教育はどうかということです。
 どなたからでも結構ですので、お1人ずついただければと思います。

山本
 それは、まとめのところに入っているのです。

根本
 では、それはまとめて最後に伺うということでよろしいでしょうか。

田辺
 わかりました。

根本
 では、もう1、2問、質問を受け付けて、最後にお1人ずつのご発言にさせていただきたいと思います。

平久江
 筑波大学の平久江と申します。
 森田先生にお伺いしたいことがあります。
 「解決しなければならない諸課題」というところで、司書教諭の任務の明確化ということを挙げられていたと思います。
 それは本当に必要なことだと思いますし、これから司書教諭が4万人に急増していくという中で、コンセンサスが得られることは非常に大事なことだと思います。
 これについて、例えばスタンダード、基準のようなものをつくっていくとか、いろいろあると思うのですが、何か具体的にお考えがおありかどうか、教えていただければと思います。

森田
 司書教諭の任務の明確化ということは、学校図書館には司書教諭と学校司書の2人が共同して活動を進めていくということが大前提になっていると思います。
 昨年の横浜での全国大会のときに、司書教諭と学校司書の職務ということで、全国SLAの案ではなく、討議過程のものということで提示しました。
 ただ、それは漠然というのはおかしいのですが、具体的にこういうことをやるという形ではなく提示したわけです。
 現在、全国SLAとしては、明確に提示できるようなものはありません。
 というより、司書教諭と学校司書の職務の分担といいますと、現実的になかなか難しい問題があります。
 難しいというのは、学校司書と一概に申し上げましても、されている仕事の内容に非常に違いがあります。
 それを一緒くたにして、これです、あれですというと、必ずはみ出てしまうところが出てきます。
 そのはみ出た部分はどうするのかということになりますので、なかなかできない現実があります。
 ただ、それを言っていますと、これから認定制度、専門職等を確立するためには、非常に難しい。
 要するに、どういうことをするのかということが曖昧なまま進んでしまいますので、認定制度を進めるに当たって、まず職務の明確化というところから始めなければいけないのではないかと思っています。
 認定制度をしっかりと位置づけるためにも、この部分で相当の時間がかかるのではないかと思っています。
 お答えにはなっていませんが、現状をありのままに申し上げました。

根本
 よろしいでしょうか。
 では、あとお1人、いらっしゃいましたら、お願いします。

大庭
 筑波大学の大庭と申します。
 笹川さんにご質問なのですが、来年度から始める予定の国立大学法人の選抜試験についてです。
 先ほどブロック別に試験の展開をされるというご説明があったのですが、1次試験、いわゆる共同試験の部分もブロック別に出題が変わるという方向なのでしょうか。
 それとも、すべてのブロックで、第1次試験の共同部分につきましては、統一試験を出し、その後の第2次試験は面接、あるいはペーパー試験で専門試験を出すところが数ブロックあるというような展開になるのでしょうか。

笹川
 今、あなたがおっしゃったとおりです。
 1次教養試験は全国のブロックの会場で行われるというだけで、試験内容は共通です。
 したがいまして、それを通過し、2次試験を受けられる方については、各国立大学法人ごとに面接考査を行うというのが、今のところの案になっています。
 例えば近畿ブロックでは、図書館学の専門試験をやる、面接ではやらないという議論もあったと聞いています。今、東京地区は議論の真っ最中です。

根本
 ありがとうございました。
 時間もぎりぎりになってきました。先ほど宿題もありましので、最後にまとめのご発言を、お1人2〜3分厳守でいただきたいと思います。
 山本さんから、お願いいたします。

山本
 先ほど残った話題がありましたので、それをお話ししてまとめにしたいと思います。
 この資格試験をする前提は、何度もお話ししておりますように、情報プロフェッショナルというものに求められる能力は変わってきているということです。
 ここに書きましたのは、何度も引用しまして申し訳ないのですが、米国専門図書館協会が1996年に公表したインフォメーション・プロフェッショナルのコンピテンシーです。
 情報の評価や利用者への指導・援助、情報技術の活用、情報ツールの開発など、11項目が挙げられています。
 ところが、これは1996年に公表されたものですが、この改訂版が2003年版として、今年、SLAのホームページにアップされたばかりです。
 1996年には11項目だったのですが、20項目に増えています。増えた項目は、情報プロダクト、あるいは情報サービスをどう提供するかという方法論、それから、情報技術の利用方法というような能力が強く求められていて、増えています。
 それから先ほどのご質問にありましたが、大学における司書養成等に期待することとして、これも「専門情報機関総覧」で集計したものですが、基礎知識をもっと習得させるというより、IT技術の講義を充実させろとか、現場に即した教育を行うようにカリキュラムを抜本的に改革してくれとか、そういう話が増えてきています。
 私も企業のライブラリーの運営をしていまして、司書の方や図書館情報学を修了した方を何人か採用してきましたが、一番基本的なところはもちろんOJTで教えますが、本当に学問としてだけしか学んできていないという学生が結構多くいました。
 やはり学生時代から、現場の教育をやっていただければと思っています。
 私どもは改めて、資格認定試験の実施に向けて議論を始めますが、課題としては、どういうステップで実現させていくか、どういう研修カリキュラムを持つか、試験内容をさらに詳しく検討したいということがあります。
 それから、一つの団体でやることは非常に難しいと思っています。
 他団体、とりあえずはINFOSTAとの協力関係を考えています。
 日本図書館協会が音頭をとっていただければありがたいのですが、どういう時点から協力関係が結べるかということを検討していきたいと思っています。
 それから、何度も出ていますが、資格認定試験をやりますので、そのアップをどうするかということも考えなければいけないと思います。
 社会的認知度についても、端的に言えば、だれが認定者になるか。
 専門図書館協議会の会長は、日本商工会議所の会頭ですから、日商認定でもいいのですが、それで本当に権威があるのかどうかという問題もあります。
 こういうことを考えながら、実現に向けて努力していきたいと思っています。

原田
 情報科学技術協会は18年の実績があるのですが、時代に応じた変革が必要で、今年から若干変更して新しい試験を実施します。
 今までこの試験は現場のサーチャーの方々が、社内においてほかの同僚の方からの信頼を得ることに寄与してきたかと思うのですが、試験に対するさまざまな角度からの評価が必要です。
 私は今、大学の教員をしていますが、その前は(財)国際医学情報センターで働いていました。
 そのときには、2級および1級の合格者に対して資格手当が出ました。
 ところが、企業で2級以上の試験に合格した方に伺ってみると、ほとんどの会社でそういう資格手当は出ていないのです。
 ただし、中には受験料の補助や一時金支給などがあるという会社はあるようです。
 そういうところも非常に問題であると思います。
 今、私は短大や大学で教えており、学生を社会に送り出す立場にあるのですが、学生は資格取得に熱心でいろいろな資格にチャレンジしています。
 しかし、資格が就職になかなか結びついていません。
 情報管理部門に興味を持っている学生がそういう部門になかなか就職できないでいます。
 資格試験に合格しても、就職状況の問題もあるのではないかと思います。
 私どもの卒業生や、私が非常勤をしている大学の卒業生で、情報関係の仕事、すなわち検索や情報管理の仕事をしている人は結構います。
 女性の場合、結婚して子供ができてもずっと続けていらっしゃる方が多く、長く継続して働ける職場としては人気が高いです。
 一方で不況の社会的要因もあってその部門での新人の採用がほとんどありません。そういうことが非常に問題ではないかと思います。
 せっかく資格を取っても、それが就職に結びつかないというところも、一つの問題点ではないかと思っています。
 それから、個人的な印象ですが、大学では「情報検索演習」が司書課程の必修科目で入っていますが、実践的な演習を教えられる教員も不足しているように思います。
 企業では実践的な教育を受けた学生が欲しいとおっしゃるところに、実際の教育とのギャップもあるのではないかと思います。

森田
 先ほど、薄日が差しているというお話をしましたが、確かに薄日なのです。
 ところが、学校図書館の外に目を向けますと、教育界の中において、学校図書館がどれくらい認知されているかというと、非常に寂しい限りです。
 教育関係の本を読んでも、学校図書館という言葉はまず出てこない。
 出てきたとしても、学校図書館は図書があって、読書指導するところであるという、30年、40年も前のような図書館観でいるわけです。
 ですから、そこを何とかして、学校図書館ですので、教育界においても認知されるような働きかけをしていかなければならないと強く思っています。
 それから、養成についてです。
 先ほどのお答えになるかどうかわからないのですが、司書教諭の養成あるいは学校図書館職員の養成であることを意識して学生たちへのご指導をお願いできればと思います。
 それから、現職の先生方への講習もありますが、いろいろな声が聞こえてきています。
 その中で、学校図書館の授業というより、どうしても公共図書館の授業のような感じを受ける。
 これで学校の中で即役立つのかという声も聞こえてきています。
 ぜひ学校の図書館であるということで、ご協力願えればと思っています。

松岡
 現場では正職員よりも非常勤、臨時の司書有資格者の絶対数が増えているのです。
 正職員の司書有資格者が絶対数で減っているという状況があります。
 さらにアウトソーシングの進行により、派遣という形態の職員がいる。
 つまり、不安定雇用の人が現場にたくさんいるわけです。
 この人たちのスキルアップが欠かせないのです。
 人材派遣企業については、私自身いろいろな思いがあるのですが、現に派遣したいと考えておられる企業から協会に相談があるのです。
 司書の資格よりもレベルの高い制度はできないのでしょうかと。
 それはきっと、営業上、重要なことなのだと思うのです。
 そういうことが、この問題の検討の中では、かなり大きなウエイトを占めるということが一つあると思います。
 それから、養成機関についてですが、今回の研修を立ち上げるのに、自分なりにいろいろなレポートを読んだり、関係団体の方たちにも、いろいろと事情を聞いたのです。
 それで感じたのは、いろいろな館種の取り組みをきちんとつかむ必要があると思っています。
 ですから、大学という養成機関においても、できるところがあれば、館種ごとのコースをつくられたほうが考えやすいのではないかと思ったのです。
 公共図書館の現場の職員の研修ということではなく、既に大学において教育されている他の館種の人たちの成果が反映できるような仕組みができればいいと思っています。
 協会の役割として、先ほど山本様がおっしゃったことはなかなか実現できないのですが、分不相応のことはとてもできませんので、とりあえずは、ほかの館種でやっておられることの紹介などを積極的にやるべきだと、率直に感じているところです。

笹川
 毎年のことなのですが、慶應大学の学生さん、図書館情報大学の学生さん、国立国会図書館という三つの組織から研修生を受けて入れています。
 毎回、国立大学図書館の現状と課題を私なりに説明しているのですが、そうすると、先生方の講義と現実に、かなりギャップがあるというのが、実習生の率直な意見でした。
 何が足りないのかというのは、図書館職員、現場の人間もしかりなのですが、サービスと経営の戦略と戦術が立てられない。
 したがって、事業計画、業務計画を立てるときに、なかなか企画書がつくれない。
 企画書がつくれないから、予算が確保できない。
 予算が確保できないから、学生のために何ができるかということもなかなか進まない。この繰り返しになるのではないかと実感しています。

根本
 ありがとうございました。
 大変耳の痛い話を最後に突きつけられたような思いがします。
 今日は五つの団体からパネリストを迎えました。
 多分、こういう企画は我が国の図書館界では始めてだったと思います。
 このようなシンポジウムをきっかけにしまして、これからも館種を超えた議論を続けていきたいと思っています。
 最後に、今後のことをご紹介させていただきます。
 一つは、私どもの研究会の今後の予定です。
 この冊子の2ページに「研究の流れ」という表があります。
 その一番右の列に、「公開の研究活動(シンポジウム)」とあります。
 今年度については、大体このとおり進むのですが、今後、全くこのとおりになるかどうかはわかりませんが、私どもの研究成果を公開しつつ、皆様のご意見を伺いながら進めていきたいと考えています。
 公開の場を今後も設けていきたいということが一つです。
 それから、それにかかわって、1ページに戻っていただきたいのですが、「LIPERの今後のスケジュール」があります。
 10月25日に、アメリカのミシガン大学からデュランスさんという方をお招きし、アメリカの図書館情報学教育の最近の状況についての講演を予定しています。
 これは学会の50周年記念の式典の後に、記念講演という形で行います。
 会員の方にはご紹介しているのですが、つくばでやりますのでちょっと遠いのですが、会員外の方でもご関心があればおいでいただければと思います。
 ホームページをごらんいただき、手続きを取っていただくことになると思います。
 それから、11月15日に、LIPERの主催で、アート・ドキュメンテーション研究会との共催で、「美術館・博物館、文書館の情報専門職制の開発と養成−現状と課題」というタイトルで、隣接の専門機関における情報専門職について、それぞれの専門家の方に来ていただいて、議論する予定にしています。これも慶應大学で開かれます。
 LIPERのホームページがあります。
 まだ広報的な情報しかありませんが、研究成果等も徐々に出していきたいと思いますので、ごらんいただければと考えています。
 では、お約束の時間が5分ほど過ぎました。
 本日は私どもにとっても有意義なご意見をうかがう機会を持て、大変ありがたかったと思います。
 それでは、最後にパネリストの方に拍手をお送りすることで終わりということにさせていただきます。
 どうもありがとうございました。(拍手)

−了−