V-2.質疑応答(前半)
根本
それでは、5人の方に対するご質問でも結構ですし、ご意見等でも構いません。
ご発言いただければと思います。
お手を挙げていただき、ご所属とお名前を言っていただければと思います。
兎内
北海道大学の兎内と申します。
今日、お話を伺っていて「あれ?」と思ったところが一つありました。
図書館協会の松岡さんのお話の中で、地方公務員の人事制度との関係を考えていくことが大事だという話はよくわかったのですが、職階制度のない地方公務員制度というお話で、ちょっとわからないところがありました。
私は国会図書館に勤めていたこともありますが、あそこは職務職階制度ということになっています。
それは、国家公務員の制度が職務職階制度になっていて、この職はこういう級の人がなって、その級はこういう仕事をできる人がなるものであるという、一種のフィクションかもしれませんが、そういうものが前提になっています。
地方公共団体の職階制度、人事制度にも、そういうものがベースにあるのではないかと漠然と想像していたのですが、違うということであると、その辺をもう少し突っ込んでお話を伺えないかと思いました。
もう一つ、同時に思ったのですが、笹川さんのお話の中で、いろいろな研修プログラムがあるということでした。
国立大学の研修プログラムと、職務職階との関係があまりよくわかりませんでした。
例えば人事制度運用の前提としてそういうものがあるはずだと思うのですが、実際に研修制度の設計などの中では、その辺がどのように考えられているのかということです。
その辺をお話しいただけないかと思いました。
根本
それでは、松岡さんと笹川さんに、補足のお話ということでお願いいたします。
松岡
職務職階制は、地方公務員法第23条にあります。
ところが、それに基づく法律は用意されていないのです。
国家公務員のほうは法律があるのですが、地方公務員の場合にはありません。
またその後いわゆる本来あるべき職階制ということに照らした制度の追求がなされてきたかどうか、私には疑問です。
職階制とは、「職務の種類及び複雑と責任の度合いに応じて分類整理する」ものです。
職級は現在11級でしょうか、責任の度合いについてはかなり熱心に追求されてきました。
しかし職務の複雑に応じた制度かといえば、職務分析がほとんどなされず、職務の専門性の追求はほとんどなされていない。
手例えば、比較的しっかりした制度を持っている東京都の場合、管理職になった途端に、司書として採用されたとしても図書館に居続けられないということがあります。
そのように、職務の内容に応じた制度になっているかどうかは、大変疑問に思っています。
それは、地方公務員全体の職種にも言えるのではないでしょうか。
地方公務員法の解説書はいずれをみても職階制度は確立されていないと述べています。
さらに最近の行革方針では職階制の検討を止めることも提起する状況になっています。
先ほど職種の数を言いましたが、簡単に変えてしまうという状況があります。
それは、時代の変化によって変わらざるを得ないのですが、そもそもの趣旨は住民サービスに対して、安定的に職務に応じたサービスが実施できるように職階も備える制度だと思うのですが、そういうことがきちんとなされているのだろうか。資格付与というかたちで認定をしても、その方が成立母体である地方公共団体で1級上がるというようなことは、自治体の職員としてはあり得ないと、私は思うのです。
ですから、基本的には現場職員の「向上したい」という意欲をベースにした仕組みを何とかつくっていき、それを社会的に認知してもらうことが重要であり、それがこういう取り組みを行う背景にあります。
ついでにちょっと言わせていただきますが、例の地方分権の論議のときに、「必置職」ということが言われました。
法令上、必ず置くことが義務づけられている必置職があって、それを規制緩和の中でなくしていくということがあったのです。
そのとき、私がいろいろ調べた中では、地方公共団体に対して法令で職の設置、定数、資格等を規定されている職種の項目は800項目ぐらいあるのです。
そのなかで、必置職とみなされるものは、およそ300だと言われています。
分権一括法で整理されたのは、わずか30幾つでした。
定数や配置基準など、いろいろ細かく国が示している割には、その専門性を生かし、蓄積し、経験に応じて処遇される仕組みは、残念ながら用意されていないのではないかということを言いたかったのです。
ですから、必置職というものも、必置職という言葉で言えるのかどうか、あのときは大変疑問に思っていました。
笹川
国立大学のほうの研修と職階という問題ですが、例えば長期研修は、資料にも「係長相当」と書いてあるように、基本的に給与制度は行政職の1という人事院の枠の中で、図書館職員は6級まで、係員であっても行けるという世界になっています。
それ以上、7級からは管理職ということになっています。
その管理職のときに、すべての研修を受けていなければ管理職にはなれないということには、必ずしもなっていません。
ちなみに、私もこの研修は両方とも受けています。
司書ももちろん持っていますが、必ずしもそういうことではない。
それが前提ではないということだと思います。
6級まで行って、次に7級、8級、9級と行くのが、課長補佐から課長になって、部長になるということで、給与は上がっていくということになろうかと思います。
しかしながら、それは今までのことで、今後はそれぞれの法人が考えることです。我が東京大学でも、今、この制度を考えている最中だと思います。
法人ごとに異なってくると思います。
ただ、これまでにあった、特別昇給的なものは、それぞれの法人の中で、恐らく顔を変える形で手当がついていくのではないか。例えば、今、叫ばれているのは、単身赴任手当はなくすということも聞いていますので、大変な事態になるのではないかと思っています。
根本
今の二つのお話は多分、公務員制度、あるいは日本の会社も含めた官僚制全体の枠組みの中で、こういうスペシャリスト的、プロフェッション的なものをどう位置づけるかというお話だと思います。
多分、規制緩和、地方分権、あるいは法人化という流れの中で、個々の組織がある程度自由に位置づけられるような状況がつくられつつある。
そういう中で、基本的には図書館職、情報専門職というものがどのように位置づけられるのかというお話だと思います。
私も今、東京大学のその辺の関係のところをやっているのですが、全体の議論の中で、法人化の中で専門職的なものをつくっていこうという動きはあるのです。
これまで事務官、技官、教官という区別しかなかったものの中に、何か別の形で専門職をつくっていこう。
例えば知的財産権関係の専門職、あるいは財務関係の専門職、こうしたものを入れていこうという話はあるのですが、図書館員に関しては非常に微妙な位置づけにあると思います。
つまり、事務官の中にありながら図書館という別枠がすでに用意されています。
その意味である種の専門職的な枠組みがすでにあるのですが、今検討されている新しい専門職の議論の流れの中には、入れにくいような状況があるように思います。
こういう状況を長期的な変えていきたい。
今すぐどうこうというのは、なかなか難しいと思うのですが、今回のこの共同研究の最終的な目標は、やはり図書館情報学関係に有能な人材を引き入れたい、そういう魅力のある職場にしたい、あるいはそういう学問にしたい。
そういうことが最終的な目標になるのではないかと思っています。私の感想を申し上げました。
今の議論にかかわるものでも構いませんし、あるいは違うことでも構いませんが、お願いします。
岡本
宇部興産知的財産部の岡本でございます。
今の先生の知財関係の専門職ということに絡んで、情報提供ということでご説明しておきたいと思います。
あと、専門図書館の山本様の話された内容、原田先生の話された内容に関係するのですが、もし仮に、情報専門職の職域を拡大したいという発想であれば、例えば知的財産に関しては、知的財産情報に関して大きな領域なので、そちらの専門家が育つと非常にありがたいという考えを持っています。
それから、専門図書館協議会の資格試験案の7番目で、経営管理のことについて少しお話しされたと思います。
そういう観点から申しますと、現在、MOT(技術経営)の大学院があちこちにできつつありますが、そちらに絡めて情報管理のジャンルができてくれば、サーチャーなりインフォ・プロの職域拡大につながるのではないかということを考えています。
それからこれも補足情報なのですが、技術士試験というものがあります。
あれも以前は経営工学部門の中に情報管理というジャンルがありました。
企業のインフォ・プロ、サーチャーはその技術士試験を受けて資格を取っていたわけです。
しかし最近、経営工学部門に情報管理がなくなりまして、情報工学部門の情報システムというところで、企業の知的財産のインフォ・プロはその資格を受けることになりました。
さらに情報工学部門の情報システムは、来年から試験が随分変わります。
パブリックコメントとして私もいろいろと意見を申し上げたのですが、文部科学省の回答としましては、技術士試験の中に経営工学部門があり、その中に数理・情報という選択科目をつくる、そこに情報の管理とシステムという専門職をつけるので、図書館情報学や情報学の専門家の方は、そこで試験を受けてくださいということでした。
ですから、そういうことからいいますと、経営工学寄りの情報管理というところに多少出ていきませんと、職域が拡大しないのではないかという印象を持っています。
さらに知的財産情報というところに入りたければ、知的財産法という形で入っていただかないと、多少難しいのではないかと考えています。
ですから、もし、職域を拡大させたいという発想であれば、こういうところを参考にしていただければ幸いかと思います。
根本
ありがとうございました。
今、情報専門職ということで、それを文字どおりとらえれば、かなり広いものが含まれるはずです。
我々、どちらかというと図書館関係でやってきた者にとっては、情報専門職とは、図書館学、あるいは図書館情報学から出発して、どうしてもそこに片足を置いたまま、少し広げたいという感じがあるわけです。
しかし、実際問題として、それでは済まない部分も出てきていると思います。
これを拡げようとするときにたいへん参考にご意見をいただきました。
今のお話に関して、パネリストで何かお話したいことがありましたら、お願いします。
山本
ありがとうございました。
今年の米国SLAの大会でも、Special Libraries AssociationをInformation Professional Internationalという名前に変えたいというときに、インフォメーション・プロフェッショナルにはどのようなものが入るかという議論がだいぶなされたようです。
ライブラリアンは一部だ。
そこに入ってくるのは情報コンサルタントであり、情報処理技術者であり、おっしゃったような知財の専門家など、そういうものを含めて職域団体を広げようということになってきていると思います。
こういう潮流は、我が国にもすぐに来ると思いますし、我々自身もそういう考えでいないと、我々のマーケットを広げることができないと思いますので、今おっしゃったことはまさに同感です。
岡本
専門図書館協議会がそれをつくられるときに、MOTの問題とリンクさせて、そういう領域を入れておいていただければ、企業にいるインフォ・プロとしてはありがたいと思っていますので、お願いいたします。
山本
ありがとうございました。
勉強させていただきます。
根本
原田さんは、今のことで何かございますでしょうか。
原田
先ほどスライドでお見せしましたように、インフォメーション・プロフェッショナルとしては図書館情報学と大学院レベルの高度な主題専門知識が要求されると思います。
根本
ありがとうございました。
それでは、ほかにご意見、ご質問はありますでしょうか。
三輪
メディア教育開発センターの三輪と申します。
ただいまご発言があったMOTの話にも関係があると思うのですが、知財法が最近、大きく変わっていることと、情報環境の中でデジタル化が進んできて、文字情報だけではなく、画像や動画が出てきました。
著作権問題が必ずどこかでかかわってくると思います。
だれがプロフェッショナルとして、それを担当していくのかということは、いろいろなところで議論されているのですが、一つの可能性としては、情報プロフェッショナルという意味での図書館、あるいは司書というところにあるのではないかと、私自身は考えています。
それぞれの資格認定の話の中で、こういう著作権の管理・運用ということはどのように位置づけられているのか。
もし、そういうことが議論の中で出てきているようでしたら、教えていただきたいと思います。
根本
パネリストの方で、この件に関して、いかがでしょうか。
山本
私がふさわしいかどうか、わかりませんが、私は企業にいますから、企業の図書館の中で、最後のほうにおっしゃった著作権、あるいは画像をどうするかについて対応を求められます。
特に著作権については、きちんと遵守しなければいけない。
そのためにどういう教育をするのか、我々はどういうことを知らなければいけないのかということは、個々の企業がやるというより、団体として考えることだと思います。
例えば専門図書館協議会にも著作権委員会はありますし、INFOSTAにもあります。
そういう中で、図書館員がどうしたら遵守できるのか。
また、著作権法に対して、我々ユーザーとしてどういう意見を申し上げればいいのか。
そういうことは団体を通じてやらなければいけないと思いますが、基本的に著作権が今の許諾権から利用権に変化するような働きかけを利用者団体を通じてしていくべきではないかと思っています。
根本
ほかの方で、この件に関してご発言がありますでしょうか。
森田
司書教諭の講習科目の中にも著作権の項目が入っています。
学校図書館の担当者は、著作権について非常に関心があります。
ですから、私どもの認定制度の中に、当然、含まれます。
ただ、学校教育の中ですので、著作権法を守りましょうということに加えていわゆる情報モラル、情報倫理という形を強く打ち出したいと思います。
これは森田の私見になりますが。私も著作権のことでお話をさせていただく機会がよくあるのですが、ほとんどの学校現場の方が、これをやったら著作権法違反、これならいいとか、裏技を教えてくれとか、ぎりぎりのところを教えてくれとか、そういう要求が強いのですが、やはり教育の場ですので、法律に違反するからいけないということではなく、倫理、モラルに違反するということを強く訴える必要があるのではないかと考えています。
ですから、当然、認定のカリキュラムの中には入れていきたいと思います。
ついでに、司書教諭の講習科目の中の著作権については、本当にわずかな時間ですので、さわりの部分だけです。
それで果たして、司書教諭が学校の中で著作権の担当者として力を振るえるかどうか、今の段階では疑問に感じます。
ただ、今まで学校は、ご存じのように、著作権違法天国だったわけですが、それはかなり解消されるのではないか。
今の司書教諭でも、解消されるのではないかとは思っていますが、より強く推進する必要があると思っています。
根本
よろしいでしょうか。
原田
情報科学技術協会の認定試験では最初から著作権を含めていますが、今回、「基礎能力試験」では共通問題のほうに、知的財産や著作権問題を含めておりますし、今まで情報倫理という問題は具体的には書いていなかったのですが、これをはっきりと明示して基礎能力の段階からその知識は必要であると考えています。
2級、1級でも当然試験内容に入っています。
今までの1級の試験でも、著作権に関してはかなり出題されています。
ただ、1級の受験者の方々の中には案外ご存じない方も多いようです。
ネットワーク社会においては、これから小中学校の早い段階から著作権に対するきちんとした教育をしていくべきではないかと、思っています。
根本
では、岡本さん。
岡本
宇部興産知的財産部の岡本です。
今の補足情報ということで、ちょっと申し上げておきたいのですが、著作権の問題では、デジタルコンテンツの問題は、これから法的問題で専門家が必要だろうということが、企業にいる者の予測です。
現状では、弁護士に言っても「弁理士に聞いてください」、弁理士に言っても「弁護士に聞いてください」という形でたらい回しになるのです。
そういう専門家が非常に少ないという現状です。
そういうこともあり、昨年の弁理士試験からは、従来の特許法や産業財産権に加えまして、著作権が正式に試験科目に入っていますので、これからは弁理士がそちらにも手を出してくるだろうというのが現状だと思います。
それから、日本知的財産協会というところがありまして、企業の知財部員や社員向けに、いろいろな知財の研修をしているのですが、そちらでは、著作権は臨時研修で1回か2回しかやらないのです。
それでは困るだろうということで、通年の10回シリーズ、もしくは15回シリーズの著作権のコースをつくりましょうということで、今、計画中の段階です。
それから、ITに絡んだコンテンツの著作権の問題に関しては、民間団体のほうで、そちらに興味を持っている弁護士さんたちが、「ITリーガルスペシャリスト」というような資格をつくろうという動きがあるようです。
恐らくこれからそういうものができてくる可能性はあります。
補足情報として、あくまで参考までにお伝えいたしました。
根本
ありがとうございました。
図書館が従来扱ってきた領域の中に、この著作物の扱い、著作権の問題があるわけですが、館種というか、置かれた組織の性格で、その辺の位置づけは随分違ってくるのだろうと思います。
特に小さな企業や学校などのワンパーソン・ライブラリーのようなところで、その人が唯一の情報の専門家という場合、特定の個人か図書館の関係者が著作権まで含めた管理、マネジメントができるということが望ましいと思います。
もっと大きな組織では、ある程度分化していくことになるのでしょう。
これからの共同研究のなかでも著作権あるいは知的財産権の取り扱いの問題は取り上げていこうと思います。
一応、この議論はここで置かせていただきまして、全体の話でご発言がありましたら、お願いいたします。
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