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公開シンポジウム記録
変わりゆく図書館情報学専門職の資格認定
--専門団体はどう取り組んでいるか--

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U-4.パネリストによる発表(松岡要氏)

根本
 次は、日本図書館協会事務局長、松岡要さんから、図書館協会の研修を中心としたお話をいただきたいと思います。
 よろしくお願いいたします。

松岡
 日本図書館協会としてはすべての館種を対象とした発言をすべきですが、公立図書館に限って述べたいと思います。
 今日のシンポジウムのテーマは図書館の専門的職員の資格認定ということですが、公立図書館にとって資格認定は課題なのかということについては議論があるところと思います。
 図書館職員のレベルアップを目指すということ、その高度な専門性を評価しようということが現在重要であるという立場で述べたいと思います。
 日本図書館協会は今の現場職員の研修によるレベルアップが重要だという問題意識で、体系だった研修事業に取り組み始めたばかりです。
 それを中心に述べたいと思います。
 今日述べることは、日本図書館協会の取り組みについての公的な発言というより、私なりにこういう問題意識を持っているという立場で述べることを、最初に断っておきたいと思います。
 1 研修事業の取り組みの動機です。
 現場では、中堅職員に対する研修が大変弱い。
 今、雇用形態が様々な人たちが現場にたくさんいるという状況があります。
 管理者側にも司書の資格を持つ人が極めて少ない現状があります。
 例えば司書の有資格の館長は今、4分の1しかいません。
 こういう実態を考えると、中堅の司書、有資格者の役割が大変大きいわけです。
 事実上管理監督の仕事をせざるをえません。
 しかし、そういう人たちに対する研修が大変弱いという現実があります。
 それを体系立てて行う必要があるのではないかという問題意識です。
 もう一つは、新しく20単位の司書課程が進められていますが、それら新しい教育を受けてきた人たちが現場に来るようになりました。
 中堅の職員の人たちも、それに負けないというか、それに対応できるような、新たな研修、再教育が必要であると思います。
 2 取り組みの経緯です。
 日本図書館協会は昔から、研修は大事だということで様々な取り組みをしていましたが、とりわけ1998年には、ワーキンググループをつくり、公共だけではなく、学校、短大、大学の各図書館、それから国会図書館の職員、そして研究者の方たちによる論議を踏まえたレポートを出しました。
 それを受けて、その具体化を図ろうということで、第2次報告を2000年に出しました。
 これは、公立図書館と大学図書館の業務を分析し、研修のプログラムのモデルを提示したというのが成果がありました。
 しかし大学図書館についてはいろいろな機関でやっている研修もあるので、残念ながら、協会独自でやれる状況にはないということになり、公立図書館の司書についての中堅職員ステップアップ研修を具体化しました。
 2000年から始め、今年で4年目を迎えています。
 さらにステップアップ研修のもう一つの上のレベルのものを具体化しようということで、今、検討している状況です。
 この研修の具体化と同時に、このことについて検討してきた研修委員会では、高度な専門性を評価することが大変大事ではないかということが言われていますので、それに応える取り組みを具体化しようということになりました。この問題を検討したレポートを2002年に出しています。
 これについては、もともと生涯学習審議会社会教育分科審議会が1996年にレポートを出しています。
 その中では、「高度な専門性を評価する名称の付与」という問題提起がありました。
 これにはぜひ応えたいという気持ちがありましたので、ステップアップ研修を具体化すると同時にその具体化を図るという取り組みを検討してきました。
 これが一定のレポートにまとまりまったわけです。
 そして現在それを引き継いで、特別検討チームというものを新たにつくり検討しまして、今年(2003年)に報告が出されました。
 3 その研修のプログラムの内容を説明したいと思います。
 現在、各地各機関で行われている研修内容の経験を踏まえて考えると、こういう体系ではないかということで出されたのが、ステップアップ研修のT、U、Vというものです。
 これは司書、もしくは司書の有資格者を対象とする研修です。
 ステップアップ研修Tは、図書館経験が3年以上の司書を対象とするものです。
 現場職員には、様々な形で司書の資格を取ってきた経緯があります。
 講習で受けた方、図書館の専門大学を卒業した方など、様々あるわけですが、とりあえず実務経験を3年経た中で、最低ここまではという意味合いでラインを引く、レベルを上げる、統一化するというもくろみもあり、3年以上を対象にしました。
 それから、その後7年経験した人に対してのステップアップ研修Uです。
 もう一つは、ステップアップ研修Vということで、Uを修了した人に対して、これはもっぱら、先ほどの名称付与にかかわった形で実施する。
 これが日本図書館協会の考えた研修の体系です。
 4 研修プログラムの内容です。
 現場職員に必要な研修内容はこういうものではないだろうかという一つの問題提起のつもりです。
 ステップアップ研修Tは領域が三つに分かれていますが、合わせて12コマ30時間分を実施します。
 文部科学省が全国6カ所でやっている地区別研修というものがあります。
 それも3年を経験した人を対象にしていますが、その立て方をベースにして考えました。
 この地区別研修は始まってもう10年近くになるのでしょうか、かなり内容が様々なのです。
 率直に申し上げれば、これは現場に研修計画の立案能力があるかということにも関わることですが、やはり適切なレベルを維持したいという気持ちがあります。
 口幅ったい言い方かもしれませんが、地区別研修の質の維持を図るためにモデル的に示したいという気持ちもあったと思います。
 中身を説明させていただきます。
 領域Tというのは、今の状況に照らした図書館サービスについて研修しようということで、A、B、Cの三つがあります。
 Aが著作権、情報化、外国の図書館事情というグループ。
 Bが障害者、多文化、児童青少年、アウトリーチというサービスに関するグループ。
 Cがコミュニケーション、図書館の自由というグループです。
 A、B、Cそれぞれ、毎年、研修を企画する側が一つ選んでやっているものです。
 今、4年目をやっているところなのですが、「外国の図書館事情」と「利用者とのコミュニケーション」は、まだ一度もやられていません。
 コミュニケーションの重要性については、研修を企画する際に必ず出ることなのですが、これを何とか具体化したいということで、具体的に講師の名前を挙げながら検討したこともあるのですが、残念ながら実現できていません。
 司書としての大変基礎的な部分に当たるものなのですが、研修としてはなかなか立ち上げにくいという印象を持っています。
 領域Uは、高度かつ専門的な図書館の知識・技能の向上です。
 このA、B、Cはすべてやります。
 Aは図書館経営の問題、Bは情報サービス、Cは図書館資料ということです。
 Aの経営の問題については、経営の手法に近いこともあるのですが、3年目の方ですので、図書館政策全体の動向についても入れるようにしています。
 また、最近必要になっている評価、指標ということについても重視して、研修しています。
 それから、Bの情報サービスは、レファレンスツールの評価、レファレンスインタビュー、クエスチョン・アンド・アンサー、この三つの科目で行っています。
 これは演習的な要素が大変強いものです。Cの図書館資料は、収集の問題、コレクションの形成ということで、これも演習的な性格が強いものです。
 この中には整理技術の問題が加わっていません。
 これも、企画した側でも検討した経緯はあり、とかく現場では、整理技術の能力低下は否めないことなので、改めてそういうことも研修する必要があるのではないかと盛んに強調しているのですが、実現できていません。
 領域Vは、社会に存在する図書館のことを理解するためには、関連するテーマを選んで研修すべきだろうということで、これまでにやったのは、NPO、アート・ドキュメンテーション、eラーニング、今年は電子出版の話などを、専門家を招いて行うというものです。
 こういう内容で、3年たった方たちを対象にしようと考えているのですが、実際に受講される方たちは、3年よりも相当のベテランの方が多いのです。
 半分以上は7年以上ではないかと思われます。
 それからもう一つの特徴は、公立図書館を対象にした科目設定ですが、専門図書館、学校図書館の方が少なからずいらっしゃるし、大学図書館員も参加しているということです。
 これは、研修に対する期待が大きいことのあらわれであろうと思っています。
 次に、ステップアップ研修Uに移ります。
 これはまだ案の段階です。
 現在、検討中で近く実施したいと考えているものです。
 これは24コマ60時間の日程でやるものです。
 それぞれの領域を見ていただきますと、図書館経営、情報サービス、情報資源管理、図書館サービス計画という内容です。
 この対象として考えているのは、文部科学省の社会教育実践研究センターがやっている図書館司書専門講座並みの内容と考えています。
 この講座は、文部科学省がやっている図書館司書を対象にする研修の中では、昔から大変評価の高いものです。これにならおうとしているものです。
 ステップアップ研修Tについても、Uについては特にそうですが、最終的に修了課題に取り組んで文章で表現し、それを発表してもらうことになります。
 Tの場合は、修了した段階で、修了課題のレポートの提出を求めています。
 研修を終わった成果を評価する必要があるということです。
 内容でいえば、こういう課題を出しています。
 例えば「図書館の情報化」という研修内容に即して、現場の問題を出して、その解決方策を考えなさいという文章で出していただいて、その内容を一定のポイントで評価し、修了した、修了しないという評価をしています。
 これは今日のテーマに少しかかわることかと思いますが、こういう形で評価することが大事ではないかと思っています。
 ステップアップ研修Uでは、今、検討中ですが、それぞれの領域が終わった段階でレポートを求めることになると思います。
 それから、発表する能力も必要になります。このあたりを評価として出すことになるかと思っています。
 以上が協会の考えている研修の内容です。
 5 名称の付与についてです。
 これは、先ほど申しました研修委員会の報告や論議を踏まえて、特別検討チームが専門職員認定制度についての報告を出しています。
 今、これを検討している状況です。
 大枠では、これを協会全体として進めていこうということですが、実際に具体化するに当たっては、いろいろ議論の余地があるかと思います。
 このことの「目的と意義」は、先ほどからのご報告にあるとおり、図書館の社会的な役割、位置を示すことが必要だろうということは根底にありつつも、私の問題意識からすると、図書館運営の中核を担う、そして今後担うとされる人に対して、高度な専門性を有するかどうかを評価することが大変大事ではないかということです。
 もう一つは、こういうことを実施することによって、日本図書館協会の社会的役割も認知してもらえる結果になるのではないかということも加えています。
 「対象者」としては、先ほどのステップアップ研修のTやUを修了した方、またそれと同等とみなせる、ほかの団体がおやりになっている研修も踏まえて、評価しようということです。
 評価するに当たっては、論文の提出を求めたい。
 それから、最近発表された論文も含めて審査の対象にしよう。
 そういう内容です。
 この認定制度の方向は、大枠としてはこれで行こうということですが、審査機関、審査するポイントの問題などは、もう少し詰める必要があり、現在、そのことを中心にした検討が進められています。
 それらが明らかになることによって、この認定制度が具体化することになると思います。
 もう一つの特徴としては、一たん認定したらそれでおしまいということではなく、5年ごとに更新するということを述べています。
 以上が紹介です。
 6 最後に私見といいますか、この問題を考えるに当たっての私なりの問題意識について、述べさせていただきたいと思います。
 今、申し上げたとおり、協会が考えているのは名称の付与ということですが、資格認定ということとはやや違って、研修を確実にやっていこうということがベースにあった上での話ということがあります。
 私としては、研修をもっと充実させる仕組みをつくることが大事だろうと思っています。
 親機関というか、図書館を運営している母体の人事管理がどうなっているかを抜きに、図書館の専門的職員の地位向上の問題はなかなか考えにくいだろうと思います。
 ですから、本日のシンポジウムを主催しておられるところが、この問題もぜひ調査研究の対象にしていただけないかということを述べたいと思います。
 今の人事管理、特に「民間でできることは民間にゆだねよう」という動きがある中では、地方公務員の、とりわけ専門性の高い職ほどアウトソーシングされやすい時代になっています。
 そのことは厳として認めざるを得ないし、そのことの評価もあるかと思います。
 公立図書館における司書職制度との関連でいえば、大変重要なことです。図書館法でいう司書は、任用上の資格なのです。
 任用上の資格なのですが、任用すべき相手が現場にいなくなるというか、居続けられるのかという問題です。
 そういう意味で、人事管理の地方公務員制度の見直しをどう考えるかということについて、調査研究の対象にされてそれとの関連での定義も必要ではないかということを申し上げたいと思います。
 具体的に言えば、1980年代から、公務員の世界では経歴管理システムというものが導入されました。
 これは一貫して、人事管理の基調になっていることです。
 つまり、採用して10年間に3カ所に異動させ、そこで職員の能力の状況を見て、適切なところに配置して、その能力を発揮させる仕組みをつくるということです。
 しかし、これは図書館の現場にとってみれば、結果的には機械的な人事異動につながる話です。
 これで果たしていいのだろうかということです。
 そういう問題がありますので、人事管理方針や地方公務員制度の見直しとの関係はどうなのかということについて調べていただきたい。
 もう一つ言いますと、東京都と特別区は、職員制度が大変きちんとしているというか、かなり制度的に厳密にやられているところですが、1996年に、特別区の場合はかつて44あった職種が22に整理された経緯があります。
 そのように、時代に応じて職種が変わっていくということはあり得ます。
 司書という職種、職名をどう考えるかということにかかわって、問題を考えていただきたいと思っています。
 それからもう一つ、地方公務員には職階制度がないのです。
 そういう日本の制度では、資格や名称付与をしても、人事管理上、居続けることが非常に困難なのです。
 それから政府は職階制度そのものについても、今はなくすという方向で考えている状況ですので、それとの関連で任用職種である司書との関連についてどうすればいいか、どう考えるべきかということもぜひご検討いただきたいと思います。

根本
 どうもありがとうございました。
 日本図書館協会の研修と資格認定、名称付与についてお話しいただきました。
 私どもの共同研究に対するご注文もいただきまして、これは後ほどの議論にしたいと思います。