W-1.質疑応答(前半)
根本
それでは、後半、第3部を開始したいと思います。
残り50分ほどになりました。
先ほどシンポジウムの目的について申し上げましたが、今、8人の方のご発表とコメントをお聞きになり、かなり多様で、一つにまとめる方向はなかなか難しいとお感じになったかと思います。
図書館学や図書館情報学、図書館界などと言っていますが、実質的にはかなり分断されて、さまざまな団体に所属している方が、それぞれの帰属意識のもとにこれまで活動されてきたという状況がありました。
私どもとしては、広く言えば図書館界ということになると思うのですが、それを結びつけるものとして、図書館情報学教育など、基盤的な共通の知的分野があるだろうということを前提に考えています。
その意味で、館種を超えた議論をする場はなかなか設けにくいわけですが、こういうところで少しそういう議論をして、図書館員の共通の知的基盤というものはあるのだろうか、もしあるとしたら、それをどのようにつくっていくことができるのかを最終的には構想していきたいと思います。
ここではコメンテーターの方のご発言は、どちらかというと、それぞれの館種を前提としていますので、固有の問題が議論の中に出てきたのではないかと思います。
両者のバランスをうまくとりながら、議論していきたいと思います。
最初に、コメンテーターの方からのコメントに対して、4人の発表者の方に簡単にお答えいただいて、それをもとに議論のきっかけをつくっていただきたいと考えます。
お一人、5分くらいでよろしいでしょうか。時間はお任せしますが、あまり長くならない程度にご発言いただきたいと思います。
では、まず三輪さんからお願いします。
三輪
渡辺先生、非常に示唆に富む、また、ある意味では我々にとって非常に厳しいご意見をいただき、ありがとうございました。
いろいろメモもありますが、一応、一つ一つについて簡単に答えていきたいと思います。
まず第1点、5)の(1)、研究班としての今後のリニューアルに対する見通しはどうなのかという点です。
これは多分、教育のリニューアルという意味だと思うのですが、今の私どもの立場としては、あくまでも実態調査の結果を重視して取り組んでいきたいと思っています。
今年度は、10月に機関調査を実施して、11月以降に大学で司書課程・司書教諭課程を担当していらっしゃる教員の方に対する意識調査を実施します。
その意識調査の中で、今後の司書教育、司書教諭教育にかかわるご意見、あるいは現状の問題点を指摘していただくための自由記述欄を設けようと思っていますので、そこで広く皆様のご意見を拝聴した上で、方向性を見出していきたいと考えています。
もう一つは、大学図書館班、公共図書館班、学校図書館班の調査の中で、現場の方たちがどういう教育、スキルを求めているのかということがもう少し明らかになってくると思います。
それを踏まえて、最終的に来年度のどこかでグループインタビューのようなことをして、そこできちんと議論した形で方向性を見出すような成果を出していければと考えています。
2点目の図書館情報学と司書課程との関連ということで、実務教育なのか、それとも大学で実施するわけですから、専門的、学術的なものを踏まえた教育なのかというご指摘がありました。
私は個人的に長くアメリカで教育を受けていたということから、アメリカでMLSができたときにも、こういう議論がかなり行われたという経緯を聞いております。
また、北欧4カ国で1980年代に、それまではいわゆる専門学校でやられていた司書教育が大学でやられるようになり、教育内容の大幅な変化が見られたという報告もされています。
現場では、すぐに実務に適用できるような教育を求めているようですが、実際に職場に就いて、そこで変化に富んだ、あるいは常に変化していくような環境の中で身につけたスキルが廃れていかないためには、理論的な根拠、応用力のある教育をしなければならないということで、ただ単に技術的、スキルの教育だけではなく、理論的な面を重視しようという動きがあると聞いています。
そういうことが今、日本でも問われているのではないかとのご指摘でしたので、これは非常にありがたいご提言だったと思います。
それから3点目、意識調査に見られる両極論ということです。
レベルアップの必要性を痛感している方と、「図書館への就職は無理だから、現状でも構わない」ということもおっしゃっていましたが、今までのインタビュー調査では、レベルアップの必要性を認識していらっしゃるという傾向と、それでも就職の機会が全員にあるわけではないのだから、教養的な図書館学というとらえ方と、その二つの方向があったように認識しています。
最終的にはアンケート調査の結果を見なければ何とも言えませんが、その辺のところで第2のものがあるのかどうかということはこれから見てゆきたいと思います。
それから、我が国の図書館情報学教育が閉塞状態に陥るであろうと書かれていますが、ケーススタディの結果から見ますと、アイデンティティが失われつつあるといいますか、何のために司書教育をやっているのかということが明確ではないという意見が幾つかのところで指摘されたということを考えますと、ある意味では、もう閉塞状態になっているのではないかという認識があるようにも思います。
逆に、そうであるならば、むしろその閉塞状態から抜け出さなければならない時期に来ているのではないかという感じがしました。
それから、出口調査の必要性ということです。
これは教員の出口調査ということですが、日本の場合、一たん就職すれば、そのままずっとそこにいるということが一般的でしたので、就職するまでは一生懸命に論文を書いても、その後は生産性が下がってしまう傾向があるのではないかというご指摘だったと思います。
これは現在、業績調査を実施していまして、それをうまく分析することで、例えば年齢による生産性の違いというような形で把握できればいいなと考えています。
いずれにしても、モチベーションを最後まで高く保つためにはどうすればいいかとか、最後に書かれている「辞めていく者は、身を賭しても守り通さなければならない」というところに赤線を引いておきましたが、これは非常に貴重なご意見だったと思います。
「終わりに」のところでは、今、図書館学研究者、司書養成者に問われるものは何かということで、来年度の終わりあたりにちゃんと答えられるようになっていたいと思いますが、今はお答えできません。
2点目のKALIPERプロジェクトに見られる大規模な変革はLIPERに期待されるのかということですが、私の理解では、KALIPERプロジェクトというのは、その結果が変化を生んだというより、むしろ90年代に起こったアメリカの教育における変化を把握するための調査だったと理解しています。
そういう意味では、日本の場合はそういう変化をこれから起こさなければ、大変なことになりそうだという感じがしています。
今後も渡辺先生を含めて、皆様のご協力、ご助言を期待していますので、よろしくお願い申し上げます。
根本
さらにコメントがあるかもしれませんが、また後の議論で渡辺先生にお願いできればと思います。
では次に、小田さんからお願いします。
小田
西野さんにコメントをいただき、ありがとうございました。
大変根本的なところをご指摘いただいたと受け止めています。
公共図書館班の目的は、図書館情報学教育といいましても、カリキュラム、その前提としての知識ベースの問題を取り上げるという基本的な方針で調査を進めていますが、西野さんのコメントの主眼はそちらではなく、公共図書館には制度的な面に問題点がある。
したがって、そちらに関係した研究活動を推奨されているのではないかと、行間の部分を読み取ったりもしました。もちろんその点は、こちらの今後の反省材料、検討材料にさせていただきたいと思います。
ただ、我々の研究班の進め方として考えておかなければならないのは、例えば西野さんのコメントで、表2に教員免許との比較があります。
お話の中では、小学校の学士の1種の免許が59単位であるという数字を例にしてご説明していただきましたが、その59単位の中身がどのような教育内容なのかというところが、我々の研究の進め方と対比させ、あるいは照合させるならば、重要になるのではないかと考えるわけです。数字の問題として、戦略的には、司書資格の20単位が少なく見えるのは事実ですから、そちらの改善を促すことはもちろん必要なのですが、その前提となる中身が本当にどのぐらいあるのかという部分を検討せざるを得ません。
言い方を変えますと、例えば60単位、図書館情報学で司書の養成のためにあげると言われたとき、60単位分の中身が果たしてあるのかという問題があるわけです。
逆に今、司書養成の科目は20単位ですが、その20単位の中の多くの科目は果たしてどのような構造で組み立てることが可能で、また、教育が実践されているのかということに関して、きちんと検討していくことが必要でないかと考えます。
それとともに、先ほどはちょっと言葉足らずだったかと思いますが、20単位と言っていますが、それはあくまでも司書講習での20単位です。
しかも、司書講習の中でも演習科目に関しては、講義科目の2倍の時間をとるということになります。
したがって、講義科目に換算しますと24単位という時間に相当するのが、ここの見方になります。
さらに、講習科目は1単位科目が数多くあります。
通常、多くの大学で、半期で2単位という科目設定をします。
すると、どういうことになるかといいますと、単独の独立科目で科目を開設するならば、20単位と言っていますが、実は30単位分なければ、大学の資格の科目が独立科目とはならないわけです。
そういう構造的な問題が背景にあります。数字のマジックで、20単位というと3分の1ですが、教職のほうの科目は演習実習科目が限られていますので、それで算定しますと、約半分になる。
そういうことさえあるものですから、数字上の問題を前提にして調査を行いましても、ただ混乱を招くばかりであるという認識を持っていまして、調査の中ではあえて取り上げませんでした。
それからもう1点、例えば学芸員が12単位となっていますが、学芸員の場合、例えば美術や考古学など、そういう領域の背景となる学問領域をもって、社会的に学芸員というものが認識されています。
資格としては、もちろん12単位でオーケーなのですが。
教職の場合、1学部1学科で一つの教員免許というのが現在の原則です。
原則外れの大学も幾つかありますが。
それは別として、それぞれの専門領域が教職の背景にあるわけです。
ところが、図書館情報学には背景となる領域があるのかというと、必ずしもなくて、すべての領域に開放されています。
大学に入ると、その大学のどこの学科でも、司書資格を取ることができる。そういう構造が見られるはずです。
そう考えますと、そのあたりのことを考えなければなりません。
ちなみに、先ほど取り上げました8月の予備調査では、6ページの下のほうに「ホ、人文科学分野」「マ、社会科学分野」「ミ、自然科学分野」とありますが、これらの主題知識という項目に関してどうだったかということを申し上げませんでしたから、ここでお伝えいたします。
人文科学分野は18人、社会科学分野も18人、自然科学分野は17人という回答結果でした。
つまり、47人中、約4割の人が「特に重要だ」と回答していまして、主題知識に関する重要性の認識は、大学図書館の職員ではなく、公共図書館の職員でもかなり強く認識されているということが予備調査の中ではわかっています。
このあたりは議論の一つの材料になるのではないかということで、コメントに対するお答えとともにお示ししたいと思います。
根本
ありがとうございました。
図書館情報学の学問構造そのものに言及する話しだったと思います。それでは、永田さんからお答えということでお願いします。
永田
大埜さん、人材委員会というものをおつくりになったということなど、印象としてかなり明るいお話をいただきありがとうございました。
人材マネジメントという観点は大学図書館班の基本的な観点です。
人的資源経営という言い方をしていますが、基本的には同じことです。
なぜそうなってしまうかといいますと、大学図書館員には司書資格は不要となっているのです。
この間、法人化で新たな試験を設定するとき、司書資格を前提にした試験をするという話になって、みんなでこぞって反対したのです。
司書資格ということでは大学図書館員は規定できないということで、むしろそれからは自由でありたいというところがあります。
それ以上のものを何とかつくり上げていきたいということが裏側にあるのですが、そういうことで、大学図書館における図書館員の人的資源マネジメントはどこにあればいいかということが基本前提になると思います。
大埜さんから、「図書館長は教員でなければならない。
教員でなければ、大学の中では話が通じない」というニュアンスのお話がありました。
実際、現場ではそのようなところがあるのですが、欧米の大学図書館の館長の動きを見てみますと、必ずしも日本の大学が自然だとも言えません。
プロフェッショナル・リーダーシップをとっているし、図書館員に任せているという事実があるわけです。
したがって、日本の大学図書館員は変わらなければならない。どのように変わればいいかということが問題なのだろうと思います。
変わらなければならないところがかなりたくさんあるように思います。
私も長いこと大学図書館員をやっていて、今、図書館行政に教員としてかかわることが多いのですが、図書館員と教員のギャップをかなり感じます。
そこで図書館員がリーダーシップをとれるような雰囲気はまだありません。ともあれ、変わらなければならない。
変わらなければならないところは何であるか、ということをアイデンティファイできればいいのかなと思います。
私どもの研究の中では、今回の調査では、どのような人材が必要か同定しよとしております。
私どもの研究でも確認できると思うのです。
その結果を出して、改めて検討する機会があれば、ひとつよろしくお願いしますという感じでコメントを承りました。
根本
ありがとうございました。
大学図書館班には人材マネージメントの発想をもとに研究を行っているというお話でした。
それでは最後に、堀川さんからお願いします。
堀川
小林先生、コメントをありがとうございました。市川の状況について、写真を交えながら説明していただいたことで、フロアの皆様も学校図書館の状況、そして学校図書館の先頭を走っている市川市の状況がよくおわかりになったと思います。
小林先生がおっしゃっていたのは、本も大事にする。そして、情報教育とどのように融合させていくか。
そして、それぞれの実務担当者である必要はなく、コーディネーターとして動くことが必要なのだ。
そして、教育をするということを押さえておかなければならないし、学校間の連携もある。そのように、現在の制度の中で、本当にバランスよくといいますか、司書教諭の重要な役割がきちんと押さえられている市川市の現状だと思います。
しかし、我々が学校内情報メディア専門家と仮称しているものがどの程度の働きをするものかというようなお言葉が、小林先生のお話の中に挟まれていました。
我々はそれをこれから本当に真摯に考えていかなければならないと思っています。
1953年に学校図書館法が制定されて以来、司書教諭を置くということになっていて、そのままに50年たち、やっと置かれたという状況で、将来を見据えた現時点で司書教諭がどうあるべきかということを、今までの流れの中につかったままではなく、将来的に、我々はどうあるべきかということを検討していきたいと思っています。
学校図書館ということではなく、教育全体の中で司書教諭といいますか、専門職がどのような役割を担っていくかということをいま検討することが、将来の学校図書館の方向を決める重要な通過点であると自負しています。
市川市の現状なども参考にしながら、これから進めていきたいと思います。
根本
ありがとうございました。
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