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公開シンポジウム記録
図書館情報専門職の現在
--LIPER研究班の中間報告--

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V-1.図書館情報学教育班へのコメント(コメンテータ:渡辺信一)

根本
 それでは、25分になりますので、コメンテーターのコメントをいただきたいと思います。
 最初に図書館情報学教育に関して、同志社大学文学部教授、渡辺信一さんからお願いしたいと思います。

渡辺
 教育班のコメンテーターという大役で、とても私のこなし得るものではないのですが、根本先生のほうから「気楽にやってくれ」ということでしたので、お引き受けいたしました。
 しかし、実は三輪先生からいただいた資料をゆっくり読ませていただいたのは昨日で、お手元のレジュメも夕べこしらえたものですから、かなりいいかげんなものです。
 以下、お話しすることも大変いいかげんなことになるかと思います。
 その点、熱心になさっている数名の先生方には大変失礼かとは思いますが、これも中間的なコメントであるとお考えいただきたいと思います。
 私ども関西のほうでも、徐々にこのLIPERの話が出てきています。
 10月10日に私の大学でもシンポジウムを開きまして、根本先生ご自身にパネリストになっていただきますし、そのときにLIPERのお話が出ると思います。
 また、11月の日本図書館研究会の図書館学教育研究グループというものも本学でやっていますが、ここでは柴田正美先生がLIPERのお話をしてくださいます。
 私どもも徐々にLIPERに対する関心というものを植えつけつつあるような次第です。
 私のコメンテーターとしての立場というのは、実は顧問という立場ですので、あまり無責任に物を言うわけにはいかないと思います。
 そこそこお話をつけなければならないだろうということです。
 それから、現在は私自身、いちおう文学部の教育学専攻の中で専門課程、そして全学的な司書課程、司書教諭課程という三者に携わっていますので、この会での話題にそこそこついていけるのではないかと思っています。
 私が当初、考えましたのは、レジュメの2番、3番、4番についてかなり拾い上げたかったのですが、15分という時間もありますし、私自身がいいかげんな形であまりお話しするというのは申し訳ないと思いますので、今回はこれについて触れないことにさせていただきたいと思います。
 それは以下の部分です。
 2)教育班の中間報告に対する若干のコメント:疑問とするところ
 3)教育班による、春季研究集会での発表「日本における図書館情報学・司書・司書教諭教育の現状」との比較
 4)KALIPERとの関連で若干の指摘
 次に5番目ですが、「今後の研究活動への若干の疑問なり提言、期待」ということになりますと、そこに書いてあるような次第です。
 1番目に、「研究班としての今後のリニューアルに対する見通しはどうなのか」という率直な話をお聞きしたいという気持ちがあります。
 今日、ご回答いただく必要はありませんが、これが私どもの一番の関心事です。
 2番目に、「図書館情報学と司書課程の関係について」です。
 私自身、雑ぱくな知識しか持っていませんが、戦前の図書館員養成ということになりますと、どうしても教習所というものが関係してきます。
 その中で、実務的な知識、あるいは技術の伝達ということがかなり重視されてきたのではないか。
 それが戦後、大学教育の中で、これを取り上げるようになってきた。
 そうしますと、理念的には多分に教習所の流れが汲まれているのではないか。
 そこには専門としての図書館情報学の教育や研究ということにも、いささか影響を与えているのではないかと思われます。
 その結果、司書課程、司書教諭課程ということになると、非常に安易に考えられているのではないか。
 課程というのは一つのdisciplineであり、私どもとしては決して安易に考えるべきではないと思っています。
 そういうところから、もしも課程というものを軽視する風潮――私は非常に感じているのですが――がそのまま続いていくということになりますと、大学の世界の中では極めて異質であり、領域外の人たちから非常に軽く見られてしまう。
 その状況が続きますと、今後の専門職といいますか、あるいはそのレベルアップということに非常に大きな影響を与えるのではないか。
 LIPERプロジェクトの今後の活動や方向性に支障を来たすのではないかと考えています。
 そういうところから、たとえ司書課程、司書教諭課程の専門という立場だけで採用されることがあっても、専任教員の採用ということになりますと、私どもの身の回りによく起こることではありますが、定年退職者の人たちがやってこられて、「これで大学の教師が結構務まるのだ」という安易な形でやっていくということになると、非常に大きな支障になるのではないかと思っています。
 もちろん図書館学、図書館情報学というものは現場の経験ということがしばしば言われていますので、それはそれなりに大事なことです。
 それから先ほどのご発表にもありましたように、担当者の学歴が高学歴化に進みつつあるということですので、ある程度安心できるのではないかとは思いますが、現場の経験だけで大学の教師が務まるということであってはいけないわけです。
 そういうところは、今後の学問研究の広がり、あるいは深まりという意味からは、極めて重要なことではないかと思っています。
 3番目ですが、意識調査に見られる両極論、二極化というものが感じられます。
 これは私の前の日本図書館協会の教育部会長もやってこられたことでもありますし、私の後の高山先生もこの種のことをやっていらっしゃるので、大体わかるわけなのですが、大きく分けますと二つ、多少細かく分けますと三つに回答が分かれます。
 一つは、「レベルアップの必要性というものを痛感する。
 だから、そちらの方向に行かなければならない」という考え方を持ってくださるグループ、人たちです。
 あるいは、「大学で図書館員を養成しているにもかかわらず、実際には図書館員になる人が少ない。
 大学として十分なことはできないのではないか。
 だから、研究・養成ともほどほどでいいのではないか」という考え方です。
 三つ目に以前からよく言われることですが、教養図書館学という方向、考え方です。
 教養図書館学というものは決して逃げ道であってはいけないわけで、逆に学問的な視点を確かにするという考え方が非常に大事ではないか。
 そういうことを考えた上で、もしも大学における司書課程がつぶれるということがあれば、大変冷たい言い方ではありますが、スクラップ・アンド・リビルドといいますか、リニューアルの結果であると考えて、全国的なレベルで考えますとむしろ好ましいのではないか。
 これに対してはご異論もあるかと思いますが、そういうことがあります。
 レジュメに書いたように「今や図書館情報学教育の大きな変動期にあって、現実が大きく変わっていく現在、将来を見据えて改革を推し進めていかなければならない。
 さもなければ、わが国の図書館情報学教育は閉塞状態に陥るであろう」と。こういうことを強調したいと思います。
 4番目の吉田憲一先生の主張というのは、『図書館界』の今月号の「座標」という欄に「大学等における図書館学(司書課程)の今後」という一文を書いていらっしゃいます。
 以下はそれを要約したものです。
 近年、司書の新規採用は全国的に厳しい状況にあり、地方自治体の財政悪化に伴う業務委託や市町村合併等による正規職員採用数の減少、その代替としての臨時職員や派遣職員等の増加が著しい、としたうえで、これまで実施されてきた自治体の採用が近年の子の時期、ほとんど実施されていない;派遣会社や請負会社のアルバイトに集中する傾向が見られ、「市場原理の外」にあるべき図書館の本質的な役割は果たせない;試験問題そのものも外部機関への委託が増えていると指摘しておられます。
 同様に、大学図書館も国立大学法人化により今年度から国家II種の図書館学が外され、一般事務職員とは別枠で司書が採用されるものの、採用数は極めて少なく全21機関でわずか5名にすぎないという。
 いっぽう教職の採用が昨年度2万人を超え、両者の差が大きいことを指摘しておられます。
 また、図書館情報学教育にあっては、「実学的な分野である図書館学の教員には司書としての現場経験が欠かせない。」とする意見に対して、「教育・研究上からは大学院時代は切磋琢磨する鍛錬の時期」と認識し、その時期を欠くことは研究者としての基礎的素養を行き届かなくする面がある、というもっともな意見を述べておられます。
 そして「専門職員認定制度の来年度実施が検討される中、養成側として教育・研究に当たる教員側にもさらなるグレードアップが求められる。」(『図書館界』2004年9月号 p.157)
 要するに、吉田先生は、現在の大変厳しい状況をまず認識された上でご意見を述べておられるわけです。
 これについても私は全く賛成で、そのことを我々は意識していかなければならないと思っています。
 グレードアップというものが求められるという締めくくりです。後で同誌を読んでいただければと思います。
 最後に、教員の出口調査です。
 この言葉がふさわしいかどうかはわかりませんが、これまでずっと親しかった先生方が定年で辞めていかれる。
 私自身ももうすぐ辞めるわけです。
 その場合の問題は、こういうことを言うと大変恥ずかしいのですが、辞める先生がどれだけの研究業績を持っているかということです。
 いわゆるプライバシーの問題ということで、研究班のほうではかなり遠慮して公表されていませんが、研究業績はかなり公になっていますし、私どもの大学でもホームページその他で公開されている面もあります。
 いずれにせよ、そのことが一つあります。
 そして、その後任者としてどのような方を決めるかという問題です。
 下手をすると、学内事情で全然後任が得られないということが起こってきます。
 もしその後任が得られない、したがって定員が1名減ということにでもなれば大きな痛手となり、単にその大学だけにとどまらず、広く図書館情報学の分野全体の損失であります。
 辞めていくものは身を賭しても守り通さなければならないのではないか。
 あるいは、後任を得たとしても、大学の教員として極めてふさわしくない人が選ばれるという現実を私の周りで見聞きしています。
 これも非常に大きな問題ではないか。
 ですから、私どもはこれについてもかなりの覚悟、決心といったものを持たなくてはいけないのではないかと思います。
 6番目、「終わりに」というところに目を通していただきますと、1番は、「今、図書館学研究者、司書養成者に問われることは何か」ということです。
 2番目は、「KALIPERプロジェクトに見られる大規模な変革はLIPERに期待されるか。
 3番目に、「今後の研究班のご活躍を期待したいということです。
 また広く全国の図書館情報学教育/養成者によってLIPERプロジェクト支援体制を整えなければならない。」大変やりにくい面もあるかと思いますが、我々も全面的に協力するべきではないかということです。
 最後の最後、英語で書いてあります。
"To the hundreds of librarians, mostly women, who devoted their lives to the service of scholarship in secondary positions with little recognition and often at bare subsistence salaries, in the first half of twentieth century."(Arthur Hamlyn)
 これは私が向こうで勉強していたときの恩師が紹介してくださったものです。
 そこに名前が書いていますように、アーサー・ハムリンという方のお書きになった著書の最初に献辞が載っています。
 その中にある言葉ですが、これは我々が非常に意識しなければならないだろうと思います。
 つまり、20世紀前半はアメリカでもあまり認められず、また地位やサラリーなど、極めて悪条件のもとでやってこられた図書館員――「主として女性」と書いていますが、我々の仲間にも女性が非常に多いと思いますので、そういう人たちがいかに一生懸命やってきたか。
 今、KALIPERという問題が出ていますが、アメリカはそれなりに、彼女たちが非常に力を出して頑張ってこられた。
 そこにプロフェッショナル・ライブラリアンとしての真骨頂があるのではないかということです。

根本
 ありがとうございました。
 大変率直であると同時にまた力強い励ましのお話を伺いました。
 また後での議論に生かしたいと思います。