V-2.公共図書館班へのコメント(コメンテータ:西野一夫)
根本
続きまして、公共図書館についてのコメントを川崎市立中原図書館館長、西野一夫さんにお願いしたいと思います。
西野
私は公共図書館と図書館情報学教育にかかわるテーマについて、私なりに長年考えてきたことに触れまして、また、今日初めてお聞きしたのですが、研究班が出した中間報告の前段階の調査のさわりの部分に絡めまして、お話ししたいと思います。レジュメを用意しましたので、それを見ながらお聞きください。
まず、図書館において司書は専門職として認知されているかどうかという判断です。
裏をごらんいただければわかると思うのですが、日本における図書館職員の内訳を2003年と、その5年前の1998年とを比べてみますと、図書館数はそれなりに増えています。
しかし、有資格館長は減っています。
正規の職員は減っています。
図書館は増えても、正規の職員は減っているということです。
ただ、そのうちの司書は、司書補も含めて減っている。
逆に、嘱託・臨時職員が大幅に増えている。
嘱託・臨時職員の中での有資格者が増えている。
こういう逆転現象が起こっています。
まだ統計がどうしてもとれなくて、この表には出せないのですが、委託というものがこの中に入ってきます。
私どもも今年の4月からだいぶ委託を入れましたが、その中の半数の方は司書の資格を持っておられるという現実があります。
そのような形で、司書が専門職としてだんだん認められなくなりつつあるという現実が、表を見ればわかると思います。
それから、専門職の採用ですが、これは現実に減っています。ここにはお持ちできませんでしたが、2002年に図書館協会の図書館情報学教育部会で調査されたものを引用しますと、公共図書館全体の職員数1万144人のうち、新規採用の専任職員は161人でした。
そのうち、採用要件として司書の資格があるというのは59人、36%で、40%を切っています。にもかかわらず、発令を受けている者は31人しかいませんでした。
つまり、「あなたは司書の資格が必要です」ということで採用されていても、司書の発令をされていないということですから、いつ図書館以外に行くかもわからない。
その保証がないということです。
現実に神奈川県内では、横浜、鎌倉以外は、司書の採用をきちんと制度的に保証しているところはありません。
特に国庫補助金が切られる。
また、国庫補助金を受けるに当たっては最低の専門職員数という条項があったのですが、それが廃止されてから、予想はされていましたけれど、こういう傾向が顕著に現れています。
それから、確かに私ども川崎市でも、資格を持ち、発令もされている司書の職員が60%を超えるのですが、その3分の2以上は司書講習に行って取った者です。
もともと志を得て、苦学をして、非常に高い倍率で川崎市に入ってきた司書ではありません。
もともとゼネラリストを目指していて、たまたま図書館に興味を持って、いろいろな理由から図書館の司書講習に行った。
ですから、司書の資格を持って発令も受けてはいるのですが、逃げ場はあるわけです。
いつどのようになっても、もとに戻ればいいということです。
したがって、とことんまで志を持って、図書館に骨を埋めるという職員は非常に少ないということが言えると思います。
このような現実があるわけです。
それから、図書館職員の専門性が認知されない理由です。
ここには二つ挙げましたが、後でもう一つつけ加えます。
まず、私自身もそうですが、当時19単位の夏期講習で資格を取らせていただきました。
当時は非常に苦労しましたが、今から思えば非常に簡単な経験だったと思います。
ほかのものに比べれば、そうです。
表2を見ていただきたいのですが、今日のコメントをするに当たって少し調査をさせていただきました。
現在、司書の講習は14科目20単位です。
教員免許は、例えば小学校の第1種、学士課程では合計で59単位です。
小田先生が時間数の問題もあるということをおっしゃいましたが、日本では単位当たりの時間は大体同じだと思います。
したがって、学校の先生が約60単位はクリアしなければならないのに比べれば、その3分の1程度ですから、軽く見られてもしようがないと思うわけです。
それから、図書館内における専門的業務の内容については、国が規定したものがほとんどなくなってしまいました。
昭和25年に通牒がありまして、大変ひからびた古いものがあったのですが、平成10年に廃止したまま、法的なものは何もありません。
図書館の中で司書がどういう仕事をするかという規定は、実際のところ何もないのが実状です。
それは各自治体が自分たちでつくっていかなければならないわけです。
図書館協会や図書館問題研究会が自助努力でいろいろな表を出していますが、それはあくまでも非公式のものです。
そういう問題があります。
3番目に、これは非常に大きい問題ですが、現在までの公共図書館の活動のほとんどが貸し出し中心に行われているという現実があります。
貸し出しはカウンター業務であり、コンピュータがかかわっているわけですから、ある程度のマニュアルがあればできるのではないか。
現実にそうですし、そのほかのわずかな部分で専門的業務をこなしていますから、ある程度、専門的職員は必要かもしれませんが、ほかの職員については、場合によってはアルバイトや委託でどうでしょうかということが世間の常識になりつつあるということです。
次に、図書館司書が真に専門職として社会的認知を獲得するにはどうすればいいかということです。
先ほど小田先生がおっしゃったように、レファレンスサービスや情報検索など、時代のニーズにかなったような教育を厚めに施していくことが大変重要だと思います。
しかし私は、図書館員が現在20単位ということであれば、短大の先生には大変失礼ですが、短大の卒業レベルで足りるということですので、そういうレベルで図書館司書が見られるのはしようがないと思います。
逆に、もう少しレベルを上げた資格要件が必要ではないかと思います。
学士に対応したものとして、私なりに調べたものを表3で挙げました。
『図書館年鑑2003』によりますと、短大でも頑張って21単位以上課しているところが5校ありますが、4大でも20単位でとどまっているところが14校もあるというのはいかがなものかということです。
二つご提案を申し上げたいと思います。
全体のレベルを上げていただきたいことはもちろんですが、今後の展望として、今の20単位という司書資格の要件というのは、図書館の教養課程に当たると考えています。
公共、大学、専門、児童、学校、図書館経営など、方面別で専門課程を積み上げていく努力を行うべきだろうと思います。
もう一つ、学校で単位を取ったということは確かに大変なことではありますが、日本の学士のレベルは千差万別であるように、採用する側からすれば、その質が保証されていませんので、私としては国家試験をするべきだと思います。
卒業しても、国家試験を通らなければ司書の資格は取れない。
そのことによって、大学での教育のレベルも上がっていくだろうと思っています。
もう一つ、私のライフワークの一つとして、国会図書館職員の採用の改革を行っていきたいと考えています。
ちょっと調べてもわかると思うのですが、国会図書館の職員には司書の資格は必要ありません。1次試験の教養と、2次試験の数科目の中で選択として図書館情報学があるだけで、別に図書館司書の教育を受けていなくても入れるわけです。
私の友達にも、そういう方はたくさんいます。
もちろん全員が優秀な方ですが、国の図書館を代表する機関が司書の資格要件を必要としていないという問題は、根本的に日本の図書館を象徴しているのではないかと思っています。
最後に、職員の再教育の充実の中で、私の所属する日本図書館協会では現在、専門職員認定制度の導入ということを行おうとしています。
つまり、図書館司書がいろいろな形で資格を取ってくるわけですが、その後いろいろな経験を積む中で、レベルというものの保証が何もない。
世間的、社会的に認知されるレベルの保証はないわけで、それを保証していこうという試みです。
名称については現在、討議中ですが、経験年数や研修の成果、論文審査などを要件として、しかも、それを5年ごとに更新するという厳しい再審査を経て、一定の称号を与えようということです。
現在、2次まで研究が進んでいまして、今年度、第3次のチームを最終編成しまして、仕上げをするということです。
私どもの自助努力の一つとして、参考になればと思います。
以上です。
根本
ありがとうございました。
これは多分、LIPER全体にかかわるご提言だと受け止めました。
また議論していきたいと思います。
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